第43話 こはんの匠

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「…なんだここ?真っ白な空間?これも夢か?最近こんなんばっかりだな…」


──やっと会えたね、コウ


「…っ!?誰だ!?」



姿が見えない…。テレビの砂嵐のようなもので全身が覆われている…。あの影の仲間か?



──誰って…覚えてないの?

━━まだ完全に解けてないんだ、仕方ないさ



二人目…!?それに解けてない…?何のことだ…?



「…お前達は?」


──お前って…お姉ちゃんに対する言葉じゃないでしょ?ダメだよそういうのは!


「えっ!?ご、ごめんなさい…」


──うん、ちゃんと謝れたね。えらいえらい

━━こういう所は変わってないな。良いことだ


…なんで知らない人に怒られて誉められて頭撫でられているんだ…


けど…なんか、懐かしい感じがする…。昔、こんなことがあったような…



──あれ?もう時間?短すぎるよー!

━━もう少しすれば長く話せるさ。それに少しずつ出てきたしな


「出てきた?どういうことだ?」


──先に謝っておくね。ごめんね…これから先、君はすごく悩むと思う

━━本当に申し訳ない…。だが、どうか、前に進んでほしい


「待ってくれ、一体何を言って…!?」


──ごめん、ここまでみたい

━━続きはまた会えたらな


「ちょっ、ちょっとまっ…名前は…!?」



肝心なことを聞く前に、目が開けられないほどの光が空間を包み込み──



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「…何だったんだ、今の…」


最近、奇妙な夢を見る。いや、夢と言っていいのかは分からない。夢にしては意識がはっきりしすぎている。お姉ちゃんと名乗る謎の人…なぜこの声は鮮明に聞こえたのだろう?



少し怖くなってきた。なぜなら…






俺に、姉は二人もいなかったのだから




*




あれから三日。キングコブラさんはセルリアン退治を、俺は怪我の治療と読書をしながら時間を過ごしていた


ラッキーさんがまたまたジャパリまんを余分に持ってきてくれたので遠慮なく食べていく。食べては読書し寝る生活だったので順調に回復。今日こそは…ということで


「スキャン完了。完治シテイルヨ。何カ試シタ方ガイイト思ウケドネ」


「ありがと。じゃあ何をしようか?」


「腕相撲ハドウカナ?」


「腕相撲?なんだそれは?」


【腕相撲】

腕で相手の手の甲が台面に着くまで押し合い、手の甲(または腕全体)を着けた方を勝ちとする遊びの一種。その他細かいルールもある。気になった人は調べてみよう!


「という訳でお願いします」


「いいだろう」


テーブルに腕をつけて…って、そういえば、こうやって正面から彼女と向かい合うのは久しぶりか?手を握ったのも勉強以来か。改めて握ると柔らかいけど鍛えているのが分かる


「準備はいいか?」


遊びといえどその表情は真剣そのもの。その瞳は真っ直ぐで格好よくて頼もしい。それに答えなければ…!


「いいですよ。ラッキーさんお願い!」


「ソレジャア…始メ!」



「ハァッ!」

「うおあぁっ!?」



ドガンッ!



「…キングコブラノ勝チダヨ」


うう…五秒も持たなかった…。てか手の甲いった!これ違う場所折れてないよね!?


「…大丈夫か?」


「…大丈夫…です。…多分」


腕のストレッチをしてみると、特に問題無さそうなので終わりにしよう。決して勝てそうにないからやめたわけではない。悔しくなんてないからな。ホントだからな



*



「ココカラダト、次ハ湖畔に行クトイイヨ。凉シクテ過ゴシヤスイト思ウシネ」


「わかった。では行きましょう」


「そうだな、よろしく頼む」


三日ぶりのバイク。特に問題なく運転できている。バイパスを抜け、砂漠を抜けて道なりだ。木々の隙間からフレンズ達が覗き込んでは驚くその顔が可笑しくて可愛いいと思う


「しかしここは穏やかだな。セルリアンを見掛けないぞ」


「確かに。フレンズさんの声や動く音はよく聞こえますけど、セルリアン特有の音は聞こえませんね」


風の吹く音、話し声、小鳥のさえずり…ヒトの耳では聞き取りにくい音も、この耳なら拾ってくれる。てか出発してから出んのかよ、腕相撲の時には出てなかったのに。今日は出ないと期待していたのによー


「その耳、なかなか使い勝手がいいんじゃないのか?それに似合ってるぞ」


「へっ!?いやいや俺は別にいらないんですよこれ!似合ってるとか言われても…!」


「…尻尾、オオカミみたいに振ってるぞ。口では嫌がっても体は正直だな?」


嘘だろついに両方同時に出てきやがった!?いや嬉しくない!別に嬉しくなんてないんだからね!そしてその言い方はイヤらしいと思います!禁止にします!



*



「ここがこはん…。大きい湖だな。そして景色が綺麗だ」


本当にそうだ。湖が太陽の光を反射してキラキラしている。この湖はビーバーさんが作ったんだっけ。にしても大きいな。湖の主がいるかもしれない


「ここがビーバーとプレーリーの家だったな。吊り橋といいこれといい、立派なものを作るものだ」


これを写真を見ただけで作ったんだっけ。そんなの人でも難易度ヤバイぞ。しっかりしているし匠と言うに相応しい。なんということでしょう


「…なんか静かですねぇ。家の中には誰もいないし、林とはえらい違いだ」


「出掛けているのか?そこに切った木があるぞ」


もしかして、また何か作ろうとしていたのかな?確か材料になる木はここのじゃなくて…


「コノ辺リハ混合林デ、色ンナ木ガマバラニアルヨ。ビーバー達ガ使ッタノハ真ッ直グナ針葉樹ダネ。少シ行ッタ所ニアルヨ」


そうそう、ちょっと離れた所だ。そこにいるのかもしれないけどどうしようか。特に用事もないし、そのまま通りすぎてもいいんだけど…


「プハッ。あれ?誰ッスか?」


「うえっへっへ…ゲホッゲホッ…。ビーバー殿、どうしたでありますか…?」


湖から二人が出てきた。咳き込んでるけど溺れたりしたのか?大丈夫?


「プレーリー、ビーバー。久しぶりだな」


「あっ!キングコブラさん久しぶりッス!あの橋はあれからどうっすか?」


「問題ない。皆感謝しているぞ。改めて礼を言う」


「いやー照れるでありますよー///」


用事あったわ。この子達のおかげでここまでバイクで来れたんだ。挨拶はしておかないと。挨拶は大事。古事記にもそう書いてある


「そちらは誰でありますか?」


「俺はコウっていうんだ。一応、ヒトだよ」


「ヒト?でもかばんさんと全然違うッスね」


「尻尾と耳がついてるでありますな。不思議なものであります」


「まあ色々あってね。それで、橋のことなんだけど、俺からもお礼を言うね。おかげでここまで来れたよ。ありがとう」


バイクを指差しながらお礼を言うと、二人は照れた顔をしながら、じっとこれを見つめている


「…流石にこれは木じゃ作れないと思うよ」


「そうっすよね。外も中身も違いすぎるッス」


「材料を運ぶ乗り物があればと思ったのでありますが…」


そういえば橋の材料はどうしたんだろう?見た限りここの木と同じように見えるけど、もしかして一つ一つ運んだとか?無理ゲーじゃないかそれ


「あの時は博士と助手がみんなに声をかけてくれたからな。トリのフレンズが集まったからまとめて運んだんだ」


「空からの輸送ですか。それなら手軽で速いですね」


「今回は俺っち達の家の増築が目的ッスからね。一本一本運ぶのは大変だから、何かないかなと思ったんスけど…」


「そうだなぁ…あっ、そういえば…」


資料の中にあった気がする。ええっと…これかな?


「これは何でありますか?」


「 “リヤカー” っていうものだね。この資料に載ってるものだと、タイヤも木製で出来ているやつの作り方があるね。一度これを参考に作ってみない?」


「やってみたいであります!早速作るであります!」


「待って待って。ラッキーさん、この木で車輪は作れる?」


「特ニ問題ナイケド、木ヲ運ブナラ向コウデ作ッタ方ガ効率ガイイネ」


ということで材料集めに出発。歩くと意外と遠いので、バイクで往復して皆を乗せていく。バスとは違う感覚に二人は凄く感動していた


因みになんでこんな資料を持ってきていたかって?知らん、いつの間にか入れてた



*



「ビーバーさん、ここはこうなるって書いてあるから…」


「なるほど…つまりこういうことっすね」


といって小さな模型を早くも作る匠ビーバーさん。理解力が高くて資料の内容も直ぐに覚えてしまった。タイヤだけでなくそれ以降の工程も説明し終え材料集めに入る


「さっそく、切っていくであります!」


プレーリーさんが突撃していった。木を切るなら俺も出来るから手伝おうかな?剣を用意しt



バキバキバキッ…ダンッ!ダンッ!ダンッ!



「とりあえず、50本くらいでいいでありますか?」


「流石プレーリーさん、速いッス!」



あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!


『俺は皆の前で木を切ろうと思ったらいつの間にか終わっていた』


な…何を言っているのかわからねーと思うが俺も何をされたのかわからなかった…頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか夢だとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ…もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…


「…変な顔しているがどうした?」


「…俺達何すればいいんですかね?手伝おうにもかえって邪魔になりそうですし」


俺のやることはすべて終わってしまった。やったのは資料の説明のみだけど。後は切った物を運ぶんだけど…


「そうだ、ラッキーさん、バイクでひっぱることって出来るかな?」


「ココノ道ハ綺麗ダカラ、ククリツケテ運ンデモ大丈夫ダヨ。タダ、多スギルト転ブカラホドホドニネ」


よし、これなら役に立てそうだ。ビーバーさんとプレーリーさんに説明して、乗せる台車を作ってもらいバイクにつける。木を数本乗せて…


「じゃあ先に運んどくから、リヤカー作り頑張って」


「すみません、お願いするッス」「よろしくであります!」


「私はここで二人の護衛をしよう。見かけないとはいえ警戒は大切だからな」


二人を任せてアクセル全開で発進する。思ったほど重くなかったようで、少しスピードが落ちるくらいで問題は特になし。とはいえ油断大敵、落としたら台無しだからね



*



さて、木を並べるわけなんだけど…その前に


「ラッキーさん、何体いる?」


「三体水中ニイルヨ。ヒト型ダネ」


水中にいる?この数分で生まれたのか?それとも俺だけを狙ってきたとか?どっちでもいいか、やることは変わらない


「よいせっと…!」



ドゴンッ!



野生解放して、水面をおもいっきり殴る。振動と音でビックリしたのかセルリアンが飛び出してきた


飛び出してきたんだけど…


見た目は…一言でいうなら、キモい。首から下が筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だ。色が青いのがいっそうキモさを醸し出してる


だがそこは百歩譲っていいとしよう。問題は顔だ


なんでイルカみたいな顔してんだよ!何をコピーしたらそんな姿になるんだ!とにかくキモい!ネッシーを期待した俺のワクワクを返せ!



…けどこんな感じの奴、どっかで見たような気が…



まぁいいか。石は額にあるから狙いやすいし、さっさと倒しt



『『『クケケケケケ……!』』』



「ぐぅ…!?うるせぇ…!?」



超音波…イルカのエコーロケーションってやつか…!?そんなことも出来るのか…!見た目がキモいからって舐めすぎたか…。だがこんなんで怯んでる暇はない!



「必殺…ウッドハンマー!」



ドゴンッ!パカーン!



手頃な木をおもいっきり叩きつける。水タイプには草タイプ!効果は抜群だ!反動ダメージ?なにそれおいしいの?


残りも逃げる前に…!



「ウッドハンマー連打!」



ドゴンッドゴンッ!パカーン!パカーン!



「…意外と大したことなかったな」



案外あっさり終わったが…問題も発見した。この耳はデメリットにもなるということだ


「…オンオフ、出来るようになりたいなぁ」


…いや違う、いらないから消えてくれ



*



少ししたら三人が帰って来た。立派なリヤカーに結構な本数を乗せているにもかかわらずこの速さ。やはり天才か…


「これで運び問題は大丈夫そう?」


「バッチリであります!これもコウ殿のアドバイスがあったからこそ!」


「本当に助かったッス。ありがとうッス!」


「いや、お礼を言われるようなことは特にしてないよ?資料だって俺のじゃないし、運んだ量は微々たるものだし」


「それでも力にはなっただろう。素直に受け取っておけ」


…むぅ。二人もうんうん頷いているし、少しむず痒いけど、ここはそうしておこう


…ん?プレーリーさんがそわそわしてるけどどうしたんだろ?



「そういえば、プレーリー式のご挨拶をしていなかったであります!」



言い終わった瞬間俺の目の前にはプレーリーさんの顔が。両手でガッチリ俺の頬を掴んでいる。これって…


待て、それはまずい



「ではさっそく──」←マジで挨拶キスする五秒前



「はいBボタン連打ー!」グイグイー



「──んんんんん~!?」



ふぅ~危ない危ない。進化(意味深)キャンセル間に合った。もう少しで大惨事になっていた所だ。しかしこのふいうちの速さは厄介だ。他の子も餌食になっていることだろう


「プレーリーさん!それは誰彼構わずやってはいけないって博士が言ってたじゃないッスか!」


「はっ!そうでありました!すみませんであります!」


ちゃんと注意されていたんだね。…注意を受けるまではやっていたってことでいいのか?もしかして出会った子達の殆どがファーストキスこの子なんじゃ?なんてことを…


「因みになんて注意を受けたの?」


「えっと…『それはキスといって、大切なパートナーにする特別なものなのです。むやみやたらにしていいものではありませんよ』…と」


おお…意外としっかり注意してる。見直したぞ長よ。プレーリーさんにとっては挨拶でもこの体じゃ違うということを知ってもらわないと


「そうだね。パートナー…ツガイって言ってもいいかな?心に決めた人にだけしてね」


「分かったであります!ビーバー殿にだけするであります!」


突然のカミングアウト。そんな雰囲気はあったけれども。ビーバーさんは満更でもなさそうだな。あれはいつもヤってる顔だ


「ツガイ…ということは、コウ殿にとってはキングコブラ殿がツガイということでありますか?」



…は?



「一緒にいるッスもんね!つまりそういうことッスよね!?」


「つまり二人は挨拶をしているのでありますね!?」


いや違うから!たまたま一緒に旅をしているだけだから!別にそんな関係でもないしキングコブラさんに失礼だからはやく謝って!


「違うぞ。無理矢理私がついていってるだけだからな。そんな関係ではない」


流石王!冷静に返してくれた!…でも今無理矢理って言った?あの時強引だったのは認めるんですね?


「そうなんスか。お似合いだと思ったんすけどね」


「ないない。俺なんかとツガイとか相手に失礼だよ」


「いや、そこまで言わなくても良いが…」


こればかりは誤解をさせてはいけない。ハッキリ言っておかないと後々面倒になりそうだし、相手が可哀想だからね。ネタにされそうなことは潰す、これ鉄則


「…ところで、キングコブラさんはされたの?」


「…聞かないでくれ」


あっ…ご愁傷さまです…



*



「じゃあ、そろそろ行くね」


「また来るであります!」

「また寄ってくださいッス!」


二人に別れを告げて、さぁ次の場所へ──



「あれ?もしかしてコウとキングコブラ?」



──行こうとした時、こっちに誰か向かってきた。あれは…


「フォッサさん、久しぶりだね」


「久しぶり。何してるの?」


「それはこっちも聞きたいんだけど」


最近武者修行をしているフォッサさん。まさか本当にここまで来ているとは。サバンナからここまで結構距離あるけど一人で来たのか


「私は探し物。といっても数日前だからもうここにはいないかもしれないけどね」


「いないってことは、フレンズさんを探しているの?」


「フレンズというかなんというか…」


フォッサさんが言葉に悩んでいる。まるで表現が難しいものを説明するように


次に口にした言葉は、俺とキングコブラさんにとって衝撃的なものだった



「虹色の姿をしていたみたいなの、その子」

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