第42話 やさしいうそ

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ここは何処だ?


森の中?なんでこんなところに?


少し歩いてみようか


見えたのは…神社と狐の銅像…


それと…






「まって…!いかないで…!ぼくもいっしょにつれていって…!」


──ごめ──さい、今はそ──出来─い─。大丈─。─なたを助け─くる─がい─。そ──私──と─忘れて──うわ


「どうして…?いやだよ…!おねえちゃんのことわすれたくないよ…!」


──…もし、──一度会え─、気──が変わ──いなか───、その───れてい──あげ───る。それ──覚え───かはわ──ないけど…こ──渡─て──わ


「…これなに?」


──御──り。貴─を─って──るわ。─身は絶──けちゃ─メ。封─がと─ちゃう──ね


「わかった…。大切にする…」


──そろ─ろ─別れ─


「…え?やだっ…!いっちゃやだよ!」


──最後に…



トンッ…ポワンッ…



「えっ…?」


──おまじない。…ありがとう。元気で


「…あれ?おねえちゃん?どこにいったの!?やだ…!まって…!まってよ…!」






あの人は誰だ?


あの子供は誰だ?


何を話しているんだ?


これは誰の記憶なんだ?




「まって…まってぇーーーーーー!!!!」




走っても手を伸ばしても叫んでもその人はいない。だけど、伸ばさなきゃ本当に置いていかれる気がして、俺も手を伸ばした


まるで、大切なものを、掴もうとするように



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…ウ。コウ…。コウ…!


「コウ!大丈夫か!?」


「…キングコブラさん…?」


ここは…部屋のベッドの上?いつの間にかここで寝てたのか?


なんか、夢を見ていた気がする…。誰かの、寂しい悲しい、遠い遠い夢…


皆が覗き込んでいる。困惑したような顔をしているけどなんで…



──あれ…?涙…?なんで泣いてるんだろ…?



「起きたか?うなされていたが…体調はどうだ?どこか変な所はないか?」


「えっと…うぐっ…!?」


右腕が…。いや、腕だけじゃない…。身体中が痛い…。駄目だ、気持ち悪い…


「…大丈夫じゃ無さそうだな。ツチノコ、スナネコ。ジャパリまんを貰ってきてくれないか?」


「わかった。スナネコ、行くぞ」


ツチノコさんがスナネコさんを連れて出ていく。部屋にはキングコブラさんと俺だけ


「コウ、安静ニシテテネ」


と思っていたら、ラッキーさんもここにいた。キングコブラさんは分かっていたみたいだったけど、それならなんで二人を部屋から出て行かせるようなことをしたんだろう?


「コウ、昨日の夜の事は覚えているか?」


昨日の夜…?昨日は地下迷宮に行って、ここに来て、お酒を飲んで…それから…


…それから、何をしたんだっけ…?


「覚えていないのか?」


「…すみません、何も…。俺何かしちゃいましたか…?」


その言葉を聞いた彼女は複雑そうな顔をしていた。言おうか言わないか迷っている…そんな感じだ




…まさか、俺




「俺、なにか如何わしいことをしましたか…!?」



これしか考えられない!女の子が言いづらいことなんて…いっぱいあるだろうけど、俺が関係しているとしたらこれだ!寝ている場合じゃない!


「おいまだ起き上がるな!安静にしてろ!それに如何わしいことってなんだ!?どういうことだ!?」


「すみませんキングコブラさん責任は取ります!ああでも俺は帰るからどうすればいいんだ!?まてもしかしてあの二人にも手を出した!?パークに残る?いやそれも駄目だ犯罪者だぞ!?…あれ詰んでる?けも裁判で裁かれるしかないのか!?懲役何年に!?いっそのことs」


「落ち着けこのバカ!」


スパーンッ!


キングコブラは はたきおとす を つかった!

効果は ばつぐん だ!

コウの 焦り を はたきおとした!





「…落ち着いたか?」


「はい…大丈夫…じゃないです。痛い…気持ち悪い…」


「…それについてはすまなかった」


響きのいい音がなり、コウは落ち着きと同時に体調の悪さも取り戻した。今はベッドの上でグッタリしており、キングコブラが寄り添っている


「安心しろ、私達には何もしていない」


「『私達には』ってことは、別の何かはしたんですよね…?」


彼の手は震えていた。迷惑をかけたこと、それを覚えていないことへの罪悪感で、さらに顔色が悪くなる


「…お前、飲んだ後、外の空気を吸ってくるって言ったんだ。そしたらすぐに派手な音がしたから追ったら、段差につまずいてこけていたんだ。その拍子に腕を折って頭を打って…私達が運んで治療したんだ」


そんなコウの手を握り、記憶のない彼に嘘をつく。体調の悪い中、さらに悪くなりそうなことは言えなかった。それっぽい嘘をつき、その場を誤魔化した


「…ごめんなさい馬鹿で。本当にごめんなさい…。くだらないことでまた迷惑を…」


「前にも言っただろう、迷惑だと思っていない。確かに馬鹿だな、とは思ったけどな」


「…気をつけます。…俺は、少し寝ますね」


「…分かった。ツチノコ達の所に行ってくるから、ゆっくりお休み」


眼を瞑る彼を見て、キングコブラは部屋から出る。彼の今の姿を確認して、あの時見たものについて考えながら二人の元へ向かった







「…」


「ツチノコは昨日のことをどう思いますか? …って、ツチノコ?なんで泣いているのですか?どこか痛いのですか?」


「えっ…?」


俺の眼からは涙が流れていた。完全に無意識だったが、その言葉と不安そうに顔を覗いてきたスナネコの様子で意識を取り戻し、それを拭った


「あっ、だ、大丈夫だ…。昨日の事だったな…。そうだな…紫の奴なんだが、。あれはγαжτпΩだ」


「えっ…?ツチノコ、何て言いました?」


「だから、γαжτпΩだよ。聞こえなかったのか?」


「聞こえないというより、それは名前なんですか?」


何を言っているんだ?確かに俺は…


…いや、何かがおかしい。名前が認識出来ていないのか?そもそもあいつは何故あんな姿だった?何をしに来た?コウと関係があるのか?


「ツチノコ?どうしました?」


「…スナネコ、俺は図書館に行く。お前はどうする?」


「おお~いいですねぇ。ボクも行きます。面白そうですし」


「よし、なら早速準備するぞ」


「はい…」


「飽きてんじゃねぇよこのヤロー!」


途中で帰りそうだなこいつ…。面倒見きれないぞ…


「ツチノコ、スナネコ、ちょっといいか?」


「キングコブラ。あいつは大丈夫なのか?」


「まだ悪い。さっきまた寝た。ところで、あいつのことなんだが…」







部屋から出ていって、離れたかな…。音が遠くなっている。あの耳がなくても、足音が響いて聞こえやすい


「コウ、サンドスターガ体内ニ留マッテイル間ニ寝タ方ガイイヨ。回復ガ速クナルカラ」


「そんなことどうでもいい。ラッキーさん、?」


「…キングコブラガ言ッタ通リダy」


「もう一度言うよ。俺は何をしてたの?」


キングコブラさんが嘘をついたのは、俺の体調を気遣ってくれたのだろう。これ以上悪くならないようにと…


だけど、自分の体調くらいは分かる。全身の痛みと吐き気は二日酔いや転けたくらいのものなんてものじゃなく、限界突破を使った反動だ。それは、そうしなければいけないほどのことがあったということ


それなら、知らない方が、思い出さない方がいいのかもしれない。それでも


「お願い、教えて。怖いんだよ。忘れることが。忘れていることが」


「…分カッタヨ」


ラッキーさんが昨日の夜の一部始終を教えてくれたことで、俺が何をしていたのかを思い出した。二つの何かについてスキャンして分かったことは、とてつもない力を持ったフレンズということだけ。そして、去り際に呟いた言葉




──幻想のけもの、と言っておこうか




幻想…。やはり、一般の動物ではない幻獣の類いの力なのだろう。それもかなり上位の存在…おそらく『伝説のけもの』だろう


ならなぜわざわざ幻想という言葉を?『忘れられたげんそうの存在けもの』ということなのだろうか?


これについては答えは出ない。だから考えるのは一旦やめよう。それよりも…


「勝てなかった…のか。くそ…」


今持てる全てを出しても、そいつは立っていた。もしこれがセルリアン相手だったらどうだ?自分だけじゃない。皆も危険だった


勝たなきゃいけない。そうじゃなきゃ、俺がいる意味なんてないのだから








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今度は何処だ?


何処かの部屋か?


あそこにいるのは…人…か?






「…おにいさん、だれ…?」


私は───。───究員だ。今日───の家───だよ


「…ぼくの…いえ?」


そう──。──な?


「いいの…?だってぼくは…」


ここにい────だよ。君の親───どう言っ───って関係──。よろしくね


「…うん」


それと…───には恋人───んだ。明日連───るから、あいさつ───しいな


「…こいびと?ふうふじゃないの?」


…フフ、ハハハハ!それ──い!──、君は今日───達の息子だ!私達──族だ!何かあっ───慮なく───だぞ!


「…じゃあ、あしたどこかに…」


そうだね、明日は一緒────ズに会い───う!きっと楽───るよ!何処に行───?


「…うみにいきたい」


海─────決──だね。今日───寝ちゃおう。部─────るよ。そうだ、後───する──、こ───二人─フ───がいるんだ。君──姉さ───りになる───よ





またあの子だ


また知らない人だ


この光景はなんだ?


これは俺の記憶なのか?




そんなはずはない




だって、俺は、俺の家族は──




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暫くして三人が帰って来た。ツチノコさんとスナネコさんは先に図書館に向かうみたい。行く途中でスナネコさんが飽きなきゃいいけど


因みに俺はここで療養。ツチノコさんが好きに使っていいと言ったので物色したらペンが出てきた。情報を整理しながら日記でもつけようかな?とか思ったけど利き腕今使えなかった。マジで辛い


「じゃあ俺達は行く。あっちで会うだろうけとな」


「ごめんねツチノコさん。ここ使わせてもらっちゃって…」


「お礼は図書館で料理でも作るか、ヒトのことについて教えてくれ。まぁ俺がお願いしなくても料理は出てきそうだけどな?」


長二人のことですねわかります。カレーになるだろうから別にいいか。違うものだったら簡単なものにしよう。おにぎりでいいか


「行ってらっしゃい、ツチノコ」


「お前も来るんだろうが!」


「冗談ですよ?やっぱりツチノコは面白いです」


「ったく…!さっさと行くぞ!今日のうちに進むからな!」


お得意のキシャー!が出たところで二人は出発した。さて、何をしようかな。王よ、少しくらい歩いてもいいですか?


「寝てろ。まだ動ける状態じゃないだろ」


駄目だった。この感じはロッジ以来だな…。仕方ない、腕が治るまでは下手に動かないようにしよう。ベッドの上でも出来ることはある。ラッキーさんの体調チェックの結果、二日くらいで治るらしいからそれまで資料まとめ…と思ったけど


遊園地から持ってきた小説があったな。キングコブラさんはお見送りに行ったので、せっかくなので読んでみよう。ええっと…



『ヒトとフレンズの初めて』『謎の名探偵ヤギとキリン』『狐メイド』『猫家族』『自由に過ごす者』『獣人天国』『パークの守護神』『流星の空に』『パーク日誌』『友達日記』『フレンズの色』『理性と本能』『パーク創世記』『ボクもトモダチ』『百獣王の記憶』『古の鐘』等々…



…持ってきすぎたかもしれない。読みきれないんじゃないかこれ。面白そうなのが悪い、そういうことにしよう


「そういえば、キングコブラさん遅いね。何してるか知ってる?」


「…知ラナイ。…ソレヨリ、セルリアンノ反応ガアルケド少ナクナッテイルネ」


「…そっか」


それ以上は聞かない。彼女なら大丈夫だし、ラッキーさんがそれしか言わない理由も理解したから


という訳で、まずはこれを読もうっと



*



「戻ったぞ…って、なんで泣いてるんだ?」


「目から汗が出ただけなので気にしないで下さい…」グスッ


序盤から想像以上に素敵なラブコメしてる作品だった。感動してつい涙が…。俺こういうのに弱いんだよなぁ。完結済で良かった。それが未完だったら気になって夜しか眠れなくなるところだ


「なんだそれは…。ほら、水とジャパリまん」


お礼をいって受け取りパクリ。少しジューシーなお味。これもまた良し!


「そういえば遅かったですね」


「…ああ、二人とつい長話をしてな。時間が経つのは早いな」


…そう言ってるけど、所々砂がついていて、息も少し乱れている。嘘なのはラッキーさんの言葉で確定している


「…そうですね。でも夜までまだ時間がありますから、この部屋にある物の解説でもしていきますか?出来る範囲で、ですけどね」


そんな嘘を、俺は気づかない振りをする。ツチノコさんとスナネコさんが昨日の夜のことを聞いてこなかったのも、彼女が何か言ってくれたのだろう。俺を凄く心配していたとラッキーさんは言っていた


だから俺は、彼女の優しさうそを受け取ることにする


これでお互い嘘つきだ。まぁ俺のほうがたくさん嘘をついているから、バチが当たるのは俺だけにしてほしいかな


「それは面白そうだ。さっそく頼む」


ワクワクした顔で待つ彼女を見て、少し笑って、俺は解説を始めるのだった

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