第41話 さばくに迫る影
起きたら意外な光景が映った。今俺には何もついていないのに、キングコブラさんは俺の尻尾を握っていたような格好で寝ている。もしかして昨日握ってて寝たのかな?可愛い所あるけどホドホドにしてね?
飲んでからの記憶がない…変なことしてないよな?
体調は…大丈夫、二日酔いにならなくてよかった。でも水は欲しい。まだみんなは寝てるから、起こさないようにそっと移動して…
━━━━━━━━━━━ゾワッ
「…ラッキーさん、ちょっと外の空気吸ってくるね」
「謎ノエネルギーヲ感知。危険デス。ココデ待機シテ下サイ」
「大丈夫、ちょっとだから」
「駄目デス。オ客様ノ安全ヲ守ルノガパークガイドロボットノボクノ勤メデス」
「行かなきゃいけないんだ。頼むよ」
「…危ナクナッタラ」
「逃げる、でしょ?約束する」
─
部屋を出て、コウは外に繋がる通路を抜けて砂漠へ出る。日中とは打って変わってとても寒く、一泊して正解だったと考えた
「さて…とっ!」ブゥン!
カァンッ!
「我の攻撃を弾いたか。噂通りなかなか出来るらしい」
「…いきなり仕掛けてきてなんなんだ?それに噂?そんなの広がって──!?」
彼の目の前に出てきたのは、紫の影を纏ったなにか。シルエットからヒト型であることは分かるが、その雰囲気、威圧感は、このパークで感じたことのないくらい強く、全てを飲み込んでしまうくらいに思えた。姿がはっきり見えず、一層不気味に感じるそれに、彼は視線を外せなかった
(この力はセルリアン…!?いや、フレンズなのか…!?これはあまりにも強大すぎる…!この力…プレッシャー…まるで…!)
「ほう?その状態で闘志を失っていないとは、ヒトにしては上出来だ。誉めてやろう。だが何時まで持つかのう?」
闘志を失っていないというより、失ったら終わると彼の本能が訴えていた。体が震えていることに気づくが、武者震いだと言い聞かせそれに向き合う
「さて…少し話でもしようか?」
そう言う割に、影は殺気を放ったまま。先程といい、とても話をする態度ではないと彼は判断した
(これは…まずい…。皆に知らせて一旦…)
「…なんだ、相手をしてくれないのか?」
「…?」
「別に構わんが…仕方ない、話し相手を探すとするか」
「っ…!?」
その言葉に反応する。いや、せざるを得なかった。自分が逃げたら関係ないフレンズを巻き込むことになってしまう。選択肢はもうこれしか残っていなかった
「…話すことはない。誰だか知らないけど、ここで倒させてもらう!」
故に距離をとり戦闘体制に入る。この広い砂漠のど真ん中、周りにはフレンズの気配もなく、多少暴れても問題ない
「
「そうこなくてはな!さぁヒトの子よ!その力、存分に示して見せよ!」
────────────────────
「…ん?コウはどこに行ったんだ?」
寝起きのキングコブラは、隣で寝ていたコウの姿が見えないことに疑問を持つ。コウの横で寝ていたツチノコとスナネコはまだ起きそうにない
「ボス、コウはどこに…って、いないな…」
辺りを見回すと、テーブルの上に書き置きがあった。彼女達に分かるよう平仮名で書いてある
『そとのくうきをすってきます』
これだけなら普通は待っているだけでいい。だが、キングコブラは遊園地とサバンナでの件をコウから聞いていたため、この書き置きに疑問を持った
(本当にこれだけか?まるで私達を巻き込まないようにしている…。何かを感じ取って外に出たとしたら…?)
彼女が書き置きから目を離した瞬間──
ドガアァン!!!ゴオオオォォ!!!
──地下に、轟音が響き渡った
「…っ!?なんだ!?
「アアアアアァァァァー!?なんだー!?」
「なんですか、今の…?」
音と震動で二人も目を覚ます。ツチノコは大声で驚き、スナネコは珍しくとても不安そうな顔をしている
「くそっ…!」
「おい何処に行くんだ!?それにコウは何処だ!?」
「コウは外に行った!おそらくこの原因もコウだ!」
「なっ…!?スナネコ、行くぞ!」
「はい…!」
三人とも彼が何をしてこのようなことになっているかは分からなかったが、今外に出ることが危険だということは分かっていた。それでも、彼の安否を確認せずにはいられなかった
────────────────────
【
彼の力を引き出す合言葉の様なもの。彼の世界で使っていた言葉だが、ここではジャパリパークに合わせて野生解放ともしている。魔力を使い、『剣を出す』『空を飛ぶ』『高速で動く』『怪力を使う』等の動作が可能となる
【
彼の力を強化する呪文の様なもの。身体能力、特殊能力共にけものとは思えない力を発揮し、黒セルリアンすら粉々に出来る技を使える。但し燃費は悪く、使った後身体中に激痛が走り、暫く力を使うことができなくなる
どちらも制限時間があるが、睡眠や食事で魔力は回復する。このパークにおいて、フレンズと力比べをするなら限界突破を使う必要はなく、変身だけでも十分である。故に使う時は本当に危険だと判断した時。今がその時だった
だが、目の前にいる謎の生物は
「どうした?それで終わりか?」
そんな彼の力にも、余裕綽々たる態度をとっていた
コウは四方八方から剣撃を仕掛けるが、それは光の
互角に見えるが不利なのは彼だった。本人が接近しなければ攻撃出来ないのに対して、光はある程度の距離でも届くためである
(攻撃が本体に届かない…。あの光の塊…おそらくサンドスターから作られているもの。切れるが再生が速すぎる…。なら、貫通するくらいの攻撃でぶっ壊す!)
──雷弾「とある魔術の
今使える遠距離攻撃…サバンナで使った技を3連続で発射する。限界突破からの
「ふむ…。面白い技だが、届かんぞ?」
塊が枝分かれし、そのうちの数本をまとめることで攻撃を防ぐ。破壊は出来るが結局修復され相手は無傷。むしろ相手の手数が増え状況が悪くなる
(これでも駄目か…!一撃で本体ごと倒さないと意味がない。やるとしたらあれしかない…。一度距離を…!)
「さて…少し本気でいくぞ?」
光る塊は十本以上に別れ、蛇のような形をとり、変則的な動きで容赦なく彼に襲いかかる。反撃をしても直ぐに回復し、力を溜めようにも隙をくれはしない。仮に距離をとって力を溜めようとしても、その間に喉元に喰らいついてくるだろう
(サンドスターコントロールなんて冗談で言ってたけど、まさか本当に出来る奴がいるとは…本体から離れても操作できるこの力…おそらく伝説の…!)
まるで生きているかの様に動くそれに対応が遅れていく。かわしてもかわしてもしつこく狡猾に追い回してくる。物量でものを言わせる戦術に徐々に追い詰められていく
「なかなか粘るが…これならどうだ?」
ボコッ!
砂の下から蛇が数本出現し捕らえようとする。包み込むように向かってくる前に脱出するが…
ガブリッ!!
「ぐあっ…!?」
逃げた先に待ち構えていた一本に、右手を喰われてしまった
「ちょこまかと動いておったが、どうやらここまでのようだな…。もう少し楽しめると思っていたのだが…検討違いだったかのう?」
挑発する言い方だが、それの声色は嬉しそうだった。正直ここまでとは思ってはおらず笑みがこぼれていたが、彼にはそれは分からない
「まだ…終わんねぇよ…!」
「無駄じゃ。貴様の力では破壊しきれん」
「グッ…ガアアアァァァ!!!!!」ビキビキッ…!
「…むっ!?」
バギンッ!と塊にヒビが入り、その一瞬で脱出する。無理やり抜いた影響で腕が逆方向に折れてしまったが、彼はそれを無理矢理元に戻す。痛みを気にする様子はなく、真っ直ぐそれを見つめる
「ふっ、ははははははは!まさか、腕を犠牲に脱出するとは!いいぞ!そうでなくてはな!だがもう限界が近いのではないか?」
「それは、お互い様じゃないのか?」
「…どういうことだ?」
「まるで尻尾のようなその光、サンドスターの塊だな。それに加えて野生解放かなんかでブーストしてるだろ?サンドスターが限界なんじゃないか?」
この攻防はそこまで時間は経っていないが、彼の力は長く持たない。そのため、相手もそうだという期待と願いを込めた言葉だった
「確かにサンドスターの消費は荒いが、それでも貴様よりはいけるぞ?攻撃の仕掛けを見抜いたことは誉めてやろう。だがそれまでじゃ」
しかし、都合のいいことはそうそう起こらない。嘘をついている様子でもない声色に、彼は苦虫を噛み潰したような顔をする
(このまま続けても勝てない…。だがここで倒さなきゃ何をするか分からない…。やるしかない…ここで全てを出しきる!)
距離を取り、彼は武器を剣から槍に変える。紅く光る槍に残り僅かの魔力を全て込める。目の前の敵を倒すために
「そうだ!全力でぶつけてこい!我もそれに答えてやろう!」
そんな彼を見て、それは尻尾をサンドスターで包みこみ、技を繰り出す準備をする。本来とは違う一転集中の遠距離攻撃。全力の技を彼にぶつける、自分なりの賛辞だった
(これが今の最大打点…くらえ…!)
──魔槍「トリシューラの鼓動」!!
(この攻撃…受けてみよ!)
━━『破堤の蛇神濁流』!!
二つの攻撃が、激しくぶつかり合う
放たれた雷のような攻撃は槍を破壊する。その衝撃と轟音は周りの砂や岩を抉り取り、さばくちほーを揺らした。その余波と余力で彼は吹き飛ばされる。体が地面を何度も跳ね、背後にあった岩に叩きつけられた
砂埃が晴れる。そこにいたのは──
「…くそっ…。ごめん…みん……な………」
──力尽き、意識を失った彼と
「ハァ…ハァ…。見事、というべきじゃな…」
──息を切らして立つ、一人のフレンズ
*
「遅かったようですね…」
紫の影を追ってきたのは、白い影。飛んでいったマントを彼の側に置き安否を確認する
「こうして…。それと…腕は治ってないですね」
小さな結界を彼に施し、暴走の兆しを止めると同時に、折れた腕を固定し治療する。彼の力とサンドスターで治るのにそうかからないだろうが、それでも用心するに越したことはない
「こうなったワケを聞きましょうか。よほどいい考えがあったのですよね?」
「あー…その…強者と戦うのは当たり前のことじゃろう?」
「全員が同じ考えじゃないんですよ?それにもう少しで暴走していました。貴女のせいで」
「うっ…少しくらいなら…と思ってのぅ…」
「これは少しで済んでますか?済ませようとしましたか?私達の状況をもっと考えてください。まだ時間はあるとはいえこれは大きなロスなんですよ?協力してもらえなくなったらどうするつもりなんですか?どうやって責任とるんですか?」
怒濤の追撃に言葉が詰まる紫の影。頭を垂れている姿に白の影はため息をついた後、頭を押さえながら問う
「はぁ…。とりあえず報告をしに帰りますけど…ここまでしたんです。何か分かったんじゃないですか?」
「…あくまで予想だが、こやつの力、本当にそれか?使いこなせていない理由はそこにあると思うぞ?」
「…やはり、そう思いますか。私も別の要因があると考えていたのですが…」
そう言い、白い影が彼の頭に触れると──
「っ…これは、まさか…!」
「…偶然か、必然か…。まるで、こうなる運命だったといっているようだな…」
─
視界がクリアになっていく。地上に出た三人が見た光景は、倒れたコウに手を伸ばす二つの影だった。それを見たキングコブラは荒々しい声を上げる
「お前達…コウに何をしている!?」
突然の乱入者に二人が振り向く
「…こちらの方が無茶をしたので、私が治療しました。怪我はしていますが、数日で治ると思います」
白の影が申し訳なさそうに答えるが、キングコブラの警戒と怒りは解かれていない。体からは光が溢れ、瞳は輝いている
「何があった!?答えろ!」
「…彼と戦いました。こうなってしまったのは謝ります。ですが、彼にも必要な事だったと、少しだけ、そう考えています」
「こんな事が、必要だっただと!?」
キングコブラ達から見れば、コウは襲われ、無駄に怪我をしただけ。とても意味のあった行為とは思えない。それでもその影は話を続ける
「こやつは自分が何者か分かっていない。本当の自分を見つけなければ、力の制御など出来はせん」
「どんな目的でこんなことをしたのかは分かりませんが、彼には封印がかけられています。この封印…私達と同格の…」
影の言葉に三人は首をかしげる。何を言っているのか、何を意味しているのかまるで理解が出来なかった
「一先ず、これで怪我は大丈夫。封印も少し弱まりましたが…ここからは彼次第です。もし彼が迷う事があれば、その時は支えてあげて下さい。私達は一度帰りますので、彼をお願いします」
「また会おうぞ小童ども。今度は酒でも飲みながら話そうではないか。はっはっは!」
(これは報告の後に説教ですね…)
「待て!まだ聞きたいことはある!お前らは何者なんだ!?」
「いずれ分かるさ、いずれな。だが、強いて言うなら今の我らは…」
「『幻想のけもの』とでも言っておこうか」
*
「幻想のけもの…って、なんですか…?」
スナネコはツチノコのパーカーを掴んでいる。二人が去った後もその手は震えていた
「分からんが…あの紫の方、初めて会った気がしなかった」
ツチノコとスナネコは二人が歩いていった方を見つめていたが、キングコブラの視線はコウに向いていた
彼女の目に映っていた彼には──
(幻想のけもの…本当の自分…。コウ…お前は、本当に何者なんだ…?)
──一瞬だけ、ヘビのフレンズの特徴である、フードと長い尻尾が、現れていた
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