第7話 暴走 前編
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「ガアアアアアアァァァァ!!!!」
──まったく、なんでこんなことになっているのかしら?大丈夫?
──ええ、大丈夫…ちょっと油断しちゃったけど…
──嘘ではなさそうね。そこの三人!傷の手当てを手伝いなさい!さっさとする!
──はっ、はいい!
「グルルウウゥ……」
──あんたも災難だったわね。来て早々、こんなことになってしまうなんて
「グルオオオオオオォォォォ!!!」
──安心しなさい。すぐ助けてあげるから。ちょっと痛いけど、我慢しなさい!
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これは…なんだ…!?
目の前にいるのはなんだ…!?
この力はなんだ…!?
私が感じているものはなんだ…!?
私は、何をしてしまったんだ…!?
─
無意識に武器をかまえるヒグマとキンシコウと、無意識に拳をかまえるリカオンは、三人は目の前にいるなにかを見つめていた
正確には、目線を外すことが出来なかった。けものの本能が告げている。目線を外したら終わる、と
『ガアアアアアアァァァァッッ!!!』
それが動き出す。死が、こちらに向かってくる
狙われたのは──
「っ…オラアアァッ!」
──最前にいた、ヒグマだった
拳と武器がぶつかる。その衝撃で四人は少し飛ばされ、それぞれに距離ができる
だが、お互いを見ている余裕はない
彼の眼に映るのは、ヒグマだけだったが
「二人は一旦森に入れ!体勢を立て直す!」
「ヒグマさんは!?」
「私はこいつを引き付ける…!おそらくこいつの狙いは私だろうからな…!」
「そんな…一人じゃ危険ですよ…!」
「今の見ただろう!あのスピード、パワーを!下手に固まって動く方が危険だ!」
「…リカオン、行きますよ」
「でも…!」
「いいから行け!またくるぞ!」
『オオオオオオオオオォォォォ!!』
ガキィン!と、またお互いの攻撃がぶつかり合う
セルリアンとの戦闘と長い鬼ごっこでサンドスターを消費しているため、逃げられるときは逃げる。キンシコウとリカオンは、森に入り一度距離を取った。ヒグマの無事を祈りながら
(…行ったか。今はそれでいい)
『グルアアア!!!』
「ハァッ!」
何度も何度も、お互いの攻撃がぶつかり合う。ヒグマは迫りくる死をギリギリで回避し続ける。ハンター経験で培った勘と、野生解放によるブーストで食らいついてはいるが、徐々に押されていく
「おい、聞こえているか!?どうしたんだよ!?なんでそうなったんだ!?」
『グルルルル…!』
「私が悪かった!全部勘違いだった!すまない…!だから頼む!話を…!」
『アアアアアァァァ!!!!』
ヒグマの問いかけも謝罪も、今の彼には届かない。彼にあるのは、目の前にある危険を排除するという意思のみ。自分に迫った死を、必死に回避しようとしているだけ。それに気づかないヒグマではなかった
私がもっと冷静になっていれば
私がもっと歩み寄っていれば
私がもっと優しい言葉を掛けていれば
後悔がどんどん押し寄せてくる
だが、そんな想いも──
ドガァッ!ベキィッ!
「ガッ…!?」
──ここでは、命取りとなる
強烈な蹴りがヒグマを襲う。とっさに武器でガードするが折れてしまった。衝撃で吹っ飛ばされ、尻餅をつく
(くそ…そろそろ限界か…)
チャンスを見つけ、猛スピードで彼が突っ込んでくる
防ぐことはできない。死は、目前まで来ていた
(私はこのままじゃ無理だな…。だから──)
『ウオオォォ!』
(──だから、選手交代だ)
「「ハアアァッ!」」
木の上からキンシコウが攻撃し、リカオンが横から攻撃を仕掛けた
ヒグマは諦めていなかった。二人が来るのを待っていた
『グッ…ガッ…!?』
不意討ちをくらい、よろめく彼。警戒しているのか動きを止める
「相変わらず無茶するんですから」
「悪かったよ…回復まで少し時間がほしい…頼めるか?」
「あの人相手に時間稼ぎをするのは正直厳しいですが…」
「二人なら、ね?」
「そうですね…本気でやっていいんですよね?」
「本気でやらないと死ぬぞ。…気をつけろよ」
ヒグマがその場から離れる。二人が野生解放をし、彼を見据える
──ビリッ…!
フレンズ相手には決して出さない、ハンターとしての本気。獲物を狩ろうとする殺気
『グルルゥゥ…』
その場の空気が変わり、彼の狙いがヒグマからキンシコウとリカオンに変わる。ハンターの殺気は、意識をこちらに向けるには充分だった
『ガアアアァァッ!!』
狙われたのはキンシコウ。先程の攻撃が効いているのか、動きが少しだけ鈍っている
「ハッ!」
『アァ!』
攻撃がぶつかり、避けられ、避ける。一進一退の攻防を、命のやり取りを、幾度となく繰り広げる
キンシコウは木を蹴り、四方八方から攻撃を仕掛ける。それに合わせ、ヒット&アウェイを繰り返すリカオン。素早く、予測しにくい動きで彼を翻弄していく
それでも、懐に攻撃が入らない
ガードを崩すには重い攻撃が足りなかった
『グルルアア!』
対照的に、彼は力任せに腕を振るう。戦略もなにもなかったが、それでも気を抜くことは許されない
一発もらっただけで致命傷。緊張感が、二人の体力を多く奪っていく
「これで…どうですっ!」
如意棒を上から叩きつける。当然反応され、両腕で防がれたが…
「伝家の宝刀…ワン・ツー!」
『ガッ…!?』
横腹に拳が入る。両腕が上がった所を見逃す訳にはいかない
「如意棒大乱舞!」
逆側に、キンシコウの技が入る。怯んだ隙に殴り抜け、おもいっきり吹っ飛ばした。蓄積していたダメージもあり、ガードが甘くなってきていた
『グッ…アッ…』
うつ伏せに倒れているが、彼は立ち上がろうともがいている。生き残ろうとする本能だけで、彼は限界の体を動かそうとする
「これでも…立ち上がろうとするんですか…?」ハァ…ハァ…
「いい加減…気絶くらいしてくれませんかね…」ゼィ…ゼィ…
キンシコウとリカオンも限界だった。休む間もない命のやり取り。消耗しているのはお互い様だった。膝をつきながらも、二人はなんとか息を整え、立ち上がろうとした
『ウオオオオオォォォォ!!!』
彼の雄叫びが、再び響き渡る
「…まだ…動けるんですか…!」
『オオオアアアッッッ!!』
「っ…リカオン…!逃げて…!」
ヒュンッ!ドンッ!
「あっ…」
死が、一瞬で目の前に来た
両腕を抑え、押し倒し、覆い被さる
紅く光るその瞳で、リカオンを見つめる
狙いは喉元。生き物の急所
その牙で、確実に仕留めるために
─
戦いの音を聞きながら、ヒグマが息を整える。二人が時間を稼いでくれている間に、彼についての考えをまとめる
(…あれは、あいつは、ヒト…なのか?セルリアンの可能性は消えた。だがあの動き、あのスピード、あのパワー…とてもじゃないが、ヒトとは思えない。かばんとは違う)
あのヒトのフレンズを思い出す。あの子は考えることが得意だった。あんな動きは到底できない
(あの牙…フレンズのものに似ている…あいつはフレンズなのか?なら元は獣?ダメだ、わからん)
うんうん唸っていたが、結局答えは出なかった
(武器はやられたが、まだ戦える。これならいける…)
「あっ…見つけました!ヒグマさん!」
「タヌキ…!?なぜここに!?ここは危険だ!今すぐ離れろ!」
「私がお願いしたのよ。どこに行ったかわからないかな?って」
後ろから声をかけてきたのは、タヌキとサーベルタイガー。横にはバーバリライオンもいた
「サーベルタイガー!怪我は大丈夫なのか!?」
「おかげさまで。ジャパリまん持ってきたわよ」
「ありがたいが…食べている暇はない」
「なにがあった?」
「手短に話すぞ」
*
「あの力、こんなリスクがあったのね…」
「知っていたのか?あいつの力を」
「だって、黒セルリアンを倒したのは彼よ」
「なに…?」
皆が驚愕するが、同時にヒグマは納得もしていた。あの力なら可能だろう。だが、そこでまた疑問が生じた
「ならなぜそう言わなかったのだろうな?」
「声が出なかったのよ。打ち所が悪かったみたい。フードを被りっぱなしの理由は分からないけど…」
それを聞き、ヒグマの顔が真っ青になる
あの時の言葉
あの時の行動
あの時の表情
すべてが繋がり、改めて理解する
(──私は、恩人を襲っていたのか)
「サーベルタイガー」
「なに?」
「頼む。あいつを止めてくれ。私じゃ絶対にできない。だが…あいつが助けたお前なら…!」
ヒグマが声をあげる。恐怖の対象になっている自分が言っても駄目だった。だからこそ、サーベルタイガーなら止められると思った
「ふむ…可能性はあるな。行ってくるがいい。私はタヌキと共にここにいよう」
「バリーさん…?」
「会ったことのないフレンズが行っても刺激するだけだろう。今のそいつにとっては脅威にしか見えないはずだ。襲われないとはかぎらん。ならば二人で行った方がいい」
「…分かったわ。行ってみましょう」
「ありがとう…。案内する!こっちだ!」
ダダダダダダ…
「大丈夫、でしょうか…?」
「信じるしかあるまい。信じれば、何かは起こる。どう転ぶかは、分からんがな…」
─
『グルルゥゥ…』
「リカオン…!」
(まだこんな力が…!振りほどけない…!どうにかして隙を…!)
じたばたとリカオンはもがくが、振りほどくことは出来なかった
気を抜いたら終わる。分かってはいたが、不意討ちに近かった行動に、体力がギリギリだった二人は動けなかった
彼が喉元に牙を立てようとしたその時──
「「リカオン!」」
──彼女達は、この場に間に合った
突然の乱入とその声に、おもわず彼はそちらを確認する
彼の眼に飛び込んできたのは、自分を襲った危険な存在と
このパークで自分を救った、恩人
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