第6話 それぞれの想い
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※時間は少し巻き戻り、ヒグマ達が出発した後※
──こんにちはー!二人ともいるー!?
「どうやら誰か来たみたいですね」
「いったい誰でしょうか?我々ならここにいますよ…って、お前たちは…」
「久しぶりね、博士に助手」
「こんにちはっ」
「博士~ジャパリまんちょ~だい~」
「ああ、これ食べてろ、ほら」
図書館を訪れたのは、お馴染みぺぱぷとマーゲイだった。後ろにはツキノワグマとパンサーカメレオンがいる。カフェに行くまでの護衛として、ライオン陣営とヘラジカ陣営から一人ずつ、この二人が選ばれた。理由は特に仲がいいためである。へぇ、デートかよ
カフェではなく先にこちらを訪れていた理由は、次のライブについて、長二人に相談があるからだった
「久しぶりなのです。相変わらず頑張っているようですね」
「ああ、おかげさまでなんとかやってるよ」
「それで、今日は 何しに 図書館へ?」
「なんでちょっとテンポよくいったの?」
「そんな気分なときもあるのです」
youは 何しに 日本へ?こんな感じ
「次のライブの事なんですけど…」
マーゲイがおすおずと話を始めようとする。ぺぱぷのことになるとぐいぐい来る彼女だが、今回はちょっと控えめだ。攻撃力低そう
「警備を強化してほしいんです」
「警備を?」
「はい。最近、セルリアンが多いじゃないですか。そんな状態でライブをしたら、ぺぱぷの皆さんだけではなく、楽しみにしてくれていたファンも危険なんです。だから…」
「なら、ライブを先延ばしにしてはどうなんですか?」
「私もそう言ったんですが…」
マーゲイはプリンセスをチラッ見る。すると…
(`・ω・)bグッ
こんな感じで返事をしてきた。やる気満々である
「他のメンバーもやる気でね…。リーダーとしては、正直心配なんだけど…告知は終わっているし、最悪避難誘導しやすいようシミュレーションもしておこうと思って。楽しみにしているファンもいっぱいいるだろうし」
「…まあ、そうでしょうが」
フレンズのファンはすごくマナーがいい。熱狂的なファンは数あれど、暴動を起こすファンはいない。もし起こるなら、それはセルリアンがライブを邪魔する事くらいだろう
「二人なら、パークで強いフレンズをよく知ってるだろう?だから、当日手伝ってくれる子を探してほしいんだ」
「お願いします、みんなの笑顔を守りたいんです…!必ずお礼はしますので…!」
マーゲイが頭を下げる
博士と助手は、少し不思議に思った。いつもならここまで必死にお願いを受けることなどなかったし、ここまでしなくてもできる範囲で聞く予定だったからだ
「…わかりました。ピックアップして、声をかけてみましょう」
「声をかけたフレンズがやるかは別として、ですが」
マーゲイが頭を上げた。安堵の笑顔を浮かべ、メンバーを見た。みんなも嬉しそうにしている
「ただし、マーゲイ、なぜそこまで頼み込むのか、理由を聞かせてもらうのですよ」
「あとお礼はあとで考えておきますので、そのつもりで」
「…分かりました。実は──」
ポツポツと話していくマーゲイ。必死になっていた理由は、昨日の夜のことだった。自分のミスでみんなを危険な目に会わせてしまったことへの負い目と、次はさせないという決意のあらわれだった
「まだ気にしてたのね…」
「ご、ごめんなさい。でも、それを抜きにしても、皆さんを守りたいですし。大丈夫ですよ!何かあったら言いますので!」
グッと拳を作り、微笑むマーゲイ。引きずっている様子はなく、それを見たメンバーも微笑む
「なるほど、大変だったようですね」
「無事でよかったのです。しかし…」
(…触手でものを投げるセルリアン…。自分の体の一部を投げつけるのはまだわかりますが、壊したものを活用するとは…)
セルリアンの攻撃方法は、突進や触手のような自分の体でのもの。何かを投げるという行動は、けもの、フレンズではあまり出ない発想である。しかし、それをセルリアンはしてきた、ということは
(…セルリアンの進化。認めるしかないですね。我々も対策を考えましょう)
博士が深く考え込んでいた時、不意にフルルが口を開いた
「でもすごかったよね~あのフレンズ」
「…ん?なんのことですか?」
「ああ、そうそう。私達が向かう前に、謎のフレンズが現れて、一瞬でセルリアンを倒しちゃったんだって」
「拙者も見てみたかったでござるな~。もしかしたら、忍かもしれないでござる!」
「謎のフレンズ…確か、目撃者がいると…」
「どんな姿だったのですか?」
「えっとね…」
・声が他のフレンズに比べ低い
・武器が剣みたいで少し光ってた←カッコイイ!
・私たちに比べて背は高かった
・すぐいなくなった。恥ずかしがり屋?
・フード着けてた。ヘビの子?
・空を飛んだ。トリの子かも?
※コピペである。おさらいですね
「…因みになのですが、そいつはマフラーをつけていましたか?」
「マフラー?ジェーン、どうだった?」
プリンセスに声をかけられ、ジェーンはビクッと反応する。心なしか頬がほんのり赤くなっている
「…ジェーン?」
「えっあっはいっ!そうですね!つけてたと思います!はいっ!」
「…ふ~ん?」
フルルが意味深な表情でジェーンを見る。いたずら心たっぷりな感じである
「オレも見たぜ。マフラー」
「イワビーも見たのね」
「ああ、なかなかロックな奴だと思うぜ!」
「そっか~」
「イワビーは、その子が気になるの~?」
フルルがゆったりした声で言う。その言い方がわざとかどうかは本人のみぞ知る
「ああ、気になるな!」
「ちょっ…イワビーさん…!?」
「なんだよ、ジェーンは気にならないのか?」
「うっ…それは…」
口をつぐんでしまうジェーン。自分でも鼓動が速くなっているのがわかる。心臓の音が周りに聞こえていないか心配になる
「でも、私も気になるわ!」
「すごい身のこなしでしたもんね」
「ああ、また会ってみたいな」
(ええっ!?みなさんも!?)
なぜか焦りだすジェーン。なぜこんなに焦っているかは自分でも分からなかった
「そうだよね~」
「フルルさんまで!?なんd…」
「気になるよね~その子の正体」
「……………………えっ?」
うんうん、と周りがうなずく。そう、最初からみんなそれだけを考えていたのだ。ただ一人を除いて
「あれ~ジェーンは違うの~?それとも…なにか違う意味で気になるの~?」
「…!ち、ちがいますよ!私も気になります、正体!あははっ!」
やられた…!とジェーンは思った。この子は最初からこれを狙っていた、弱味を握られた…と
(…でも、正体を知りたいのは本当ですもん!知って…お友達になって…!……お友達になって…それからは…?)
「…正体はともかく、少なくともセルリアン、敵ではないことはわかりましたね」
「情報感謝するのですよ」
*
「ちょっと待つのです」
出発する前、博士が護衛二人を呼び止める
「どうしたでござるか?」
「もしそのフレンズに会っても、ちゃんと話をしてほしいのです。決して襲ったりしてはいけないのですよ」
「しないでござるよ!?」
「でも、どうしてそんなことを?」
「…正体を隠しているということは、こちらを警戒している、と思うのです」
「その状態で刺激したら、とても危険なのです」
「手負いの獣は何をするかわかりませんから」
分かっているだろうとは思うが、注意せざるを得なかった。なぜなら、先に出発したヒグマ達は、この情報を知らないのだから
*
彼女達が出発したあと、博士と助手も出発の準備をする。久しぶりに遠出をするため、少し楽しみだったりする
「さて、行きますか、博士」
「そうですね、助手」
リストアップしたメモを持ち、彼女達は図書館を後にする。なんだかんだで、頼られるのは嬉しい二人だった
━━━
四人が対峙する
サァッ…と、涼しい風が吹き抜ける
周りの木々が揺れ、心地のいい音色を奏でる
太陽は沈み始め、綺麗な夕焼けがパークを、四人を照らしていく
彼は背をむけているため、どんな表情かはわからない
もっとも、フードを被った彼の表情は、影が出来ていたため確認はできなかっただろうが
「…少し、話がしたいんだ」
「…まず、ごめんなさい。疑ってしまって…」
「フレンズを守るはずの我々が、危害を加えようとしたこと、あやまります…」
「怖かったよな?本当に、すまなかった…!」
武器をおろし、頭を下げ、まずは謝罪をする。冷静になった今だからこそわかる。彼はすごく怖かったんだ
私達が、命を狙っていたから
だから逃げた。生きるために
「こんなこと都合がいいのはわかっている…!だけど、私は知りたい。サーベルタイガーが、お前が戦ったセルリアンのことを!同じやつが現れても、対策が取りやすいようにしたいんだ!みんなを助けたいんだ…!だから…なんでもいい!話をしてくれないか…!?」
心からの想い。パークを、フレンズを守りたいと願う気持ち。その言葉に嘘偽りはない、真っ直ぐな思い
そんな私の想いは
彼の耳には、届かなかった
───
マジかよ…滝になってる…!?いつの間にこんな奥に走っていたんだ…!?
かなり高い…落ちたらどうなるか…!
ザッ!
あっ…追い付かれた…
──ドクンッ…
どうする…!?横に逃げても無駄だろうから…下は水だ…飛び込むか…!?
無理だ、高すぎる…!フレンズだってただじゃすまなさそうな高さだぞ…!力を使っているとはいえ、どうなるかわかったもんじゃない…!
──ドクンッ
後ろを向くのが怖い
三人はどんな表情をしている?
どんな感情を放っている?
獲物を追い詰めた喜び?
仲間を傷つけられたことによる怒り?
フレンズを守れなかった哀しみ?
これから仇をとる楽しみ?
──それとも、殺意?
──ドクンッ…!
最悪の結果を想像した。頭が痛い。吐き気がする。視界がぼやける。力が入らなくなる
体が…熱い…!
考えるな…!そんなわけない…!あの時とは違う…!さっき話がしたいと言っていたじゃないか…!ジャパリパークは、フレンズ達は、とても優しい世界で、優しい存在で、こんなことを考えてしまう、心が醜い俺なんかとは違うんだ!
──だけど、もしここが、俺が知っているジャパリパークじゃなかったら…?
──俺を油断させる為の嘘だとしたら…?
いやだ…
死ぬのは、嫌だ…!
まだ、ここで終われない…!
──ドクンッ…ドクンッ……ドクンッ!
─
本音をぶつけ、肩で息をする
だが、先程から彼の反応がない
そればかりか、その場にうずくまってしまった
「おっおい!大丈夫か!?」
ヒグマが心配し、近づいた瞬間──
(…っ!?)
──ピリッ…!と、何かが変わった気がした
(な、なんだ…?あいつから…!?)
思わず後ろに飛び退く。横の二人の様子を伺うと、ヒグマ同じように警戒しているようだった
彼がこちらを向く。相変わらず表情は隠れていてわからなかった
ヒュウウウウゥゥゥゥ…
そこに、強い風が吹き、彼のフードが取れた
そこに見えたのは、逆立った髪。よりいっそう “紅く” 輝く瞳
そして──口元の、二本の鋭い牙
『グオオオオオオオォォォォ!!!』
─
何が起きたか分からなかった
気づいたら私は武器を構えていた
目の前のフレンズから感じる空気は
“けもの” というには、あまりにも禍々しく
正直、恐怖を全身で感じた
紅く輝くその瞳に吸い込まれそうで
まるで──
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