第5話 狩りごっこ(ガチ)
「おいお前、そいつから…離れろ…!」
ヒグマが武器を構え、野生解放し、標的を見据える
普段冷静な彼女も、この時は判断力が少し鈍っていた
見据えた先にいたのは、フードで顔を隠し、何かで体を覆ったセルリアン
その表情には、焦りと不安
そして──怒りが、浮かんでいた
─
どうも皆さん初めまして、コウです
今俺は、自分でもよくわからない状況に陥ってます
なぜ、武器を構えられているのでしょう?
なぜ、そんな怖い顔で見られているのでしょう?
なぜ、後ろの子は困惑しているのでしょう?
…たぶん最後のは俺関係なさそう。いや、間接的に俺のせいか?
そしてこの子は…ヒグマかな
…ヒグマ!?あのセルリアンハンターの!?最強クラスのフレンズじゃん!
…あー、そうか、倒れているこの子の友達かな?ハンター仲間かもね?
もしかして、敵だと思われている?だとしたらとりあえず、誤解を解かなくちゃ…そんな怖い顔で見ないで?かわいい顔が台無しですよ?
「まっ…。お…は…じ…ない」
「言葉も発するのか…!?ますます危険だ!ここできっちり、殺っておく!」
しまったー!?声が出ないの忘れてたー!
まずい…今襲われたらホントに死んじゃうって…!この状態じゃあ解放しても長くは持たないぞ…。
…そうだ!動物だって行動で態度を示すときがある!なら、誠心誠意やればきっと伝わるはずだ…!
(ほ~ら、俺は敵じゃないよ~大丈夫だよ~怖くないよ~)←変な動きしてる
さぁ、伝われ俺のボディランゲージ!
「なんだその動きは…!?まさかサンドスターを奪っているのか!?」
ちがーう!伝わらなかったか!?なぜだ!?
向こうでのジェスチャーゲームだと…あれ?伝わったためしないや…。ちくしょう誰がふしぎなおどりだ、MPなんて奪えるか!MPは欲しいけど!
「ヒグマさん、大丈夫ですか!?」
「追いつきましたっ!うわっ!?なんだあれ!?」
あの子達は…キンシコウにリカオンかな。ハンター揃い踏みか。絵になるね
…今あれって言った?ちょっと失礼じゃない?
「キンシコウ、リカオン…!良かった、無事だったんだな!」
「ヒグマさんこそ!それで、あれはなんですか?」
「もしかしてあれ、皆が言ってた謎のフレンズじゃないですか?」
おお!流石に冷静だ!ナイスリカオン!よくわかってる!あれ呼ばわりは聞かなかったことにしよう!
(そうだ、俺は敵じゃないんだ!伝わってくれ!)←すごい勢いで首を縦にふってる
「…!?なんですか、震え始めましたよ!」
「もしかして、私たちを獲物だと認識したのでは…!?」
「だとしたら危ない…!タヌキ、私たちの後ろに!」
「えっ…あっ…はい…ありがとうございます…」
なんでぇ~!?どうしたの!?数秒前のカッコよさがどっかいったよ!?いや、警戒する姿もカッコいいけどさ!?てかタヌキ…さん戸惑ってますやんか!もっと見てあげて!
くそ…どうしたらいいんだ…!?
「うー…!」←頭抱えてる
「…!?なにか仕掛けてくるぞ!かまえろ!」
「「はい!」」←野生解放
あーもうだめだー!本気モード入ったー!
タヌキさんもなんか言って!君のドン引きしてる顔誰も見てないから!これ攻撃されるのは確定的に明らか!一体俺のどこが怪しいと──
1つ:話せないためフレンズかわからない
2つ:姿を隠しているので正体がわからない
3つ:その状態で寝ている女の子に何かしようとしていた(重要)
──ぐはっ!? LP8000→2000
待って…あれですよ、これは…ちがくて…
(…仕方ない。フードだけでも、取るか…)
パサッ…と、フードをとり、真正面から俺は彼女たちを見つめる
彼女達からしたら俺は、尻尾も耳もない…ただの “ヒト” に見えるだろう
だがそれでいい。俺はこの子に助けられたヒトで、気絶したこの子を助けようとした…そう思ってくれればそれで…
─
ヒグマ達が動揺する
目の前のセルリアンが、フードをとった
眼は綺麗な紅色で、髪色はやや黄味の赤。俗に言うスカーレットのやや短めの髪。それが、真っ直ぐこちらを見つめていた
「…そうか、フレンズ型のセルリアンではなく、ヒト型のセルリアンだったのか!」
ヒグマは、少しどころではないくらい、判断力が鈍っていたかもしれない
─
(これでも、ダメか…。てかなんでこんな頑なにセルリアンと決めつけるんだ…?)
そう思い、彼女達の手元を見る
(…凄く、震えている)
彼女達は、すごく怖いんだ
俺がこの子を襲って、消してしまうという可能性が
もう二度と、話せなくなってしまうことが
彼女達は、すごく怒っているんだ
この子が、こんなに傷ついていることに
加勢する事に間に合わなかった、自分自身に
理解できる、彼女達の気持ちが
さっきまで抱いていた俺の気持ちが、同じようなものだったのだから
なら、話すことができない俺に今出来ることは、この子のそばを離れ、消えること
俺は、フードをかぶり直し、荷物のある場所へ向かう
…ちゃんと残ってるかなぁ、荷物
─
(…!?急に離れた!?なぜ…?いや…それよりも…!)
「サーベルタイガー!大丈夫か!?」
「うぅん…」スピー…スピー…
「寝てるだけ…ですね」
「よかった…怪我も致命傷はなさそうです」
「…一人で戦わせて、すまなかった。ゆっくり休んでくれ…」
サーベルタイガーの安全を確認でき、肩の力が抜ける4人。またまた近くにラッキービーストが来てくれたので、リカオンがすごい速さでジャパリまんをもらい、皆に配り食べ始める。警戒心が抜けてきたのか、ヒグマは冷静に先程のやり取りを思い出す
(食べようと思えばできる距離だった…。だがなぜ奴はやらなかった?サンドスターの輝きがこっちの方が強かったからか?ならこっちに来るはず…それに、あの行動…)
ヒグマが難しい顔で考え事をしているのを見て、キンシコウが口を開く
「先程のは、本当にセルリアンだったのでしょうか…?」
「…おそらく、違うのだろう。確かに、見た目はすごく怪しかったが…。それに…」
「それに?」
「…私がセルリアンと言い放ったとき、少し、悲しそうな顔をした気がしたんだ」
「…セルリアンと思われ、襲われそうになったってことですもんね…」
「…悪いことしたな」
「な、なら追いかけましょう!」
それまで静かにしていたタヌキが、大きな声を出した
「もう一度会って、謝るんです!怪しかったですけど、優しそうな感じがしましたし、きっとあの子も、わかってくれるはずです!話せなかったのは、きっと事情があるんですよ!それに、このまま勘違いしたままなんて、悲しすぎます!」
どばっと吐き出すように、言いたい事を一気に言う。さっきヒグマが聞いてくれなかったことを根に持っているわけではない、たぶん
その言葉に、ヒグマはフッ…と笑い
「…やつの正体も知らないといけないしな。仕方ないか」
((素直じゃないですね…))
「…なんだ、その目は」
「「いいえ、なんでもないですよ~」」
「…まあ、いい。まだ近くにいるだろう。リカオン、追えるか?」
「なんとかいけそうですね、任せてください」
「よし、いくぞ。タヌキ、サーベルタイガーを見ていてくれ。時期に目を覚ますだろう」
「えっ…でも…」
「大丈夫だ、ほら」
「また、凄いことになってるな」
そこに現れたのは、一人のフレンズ。ボリュームのある黒色の髪。黒茶のマフラーを巻いている。その風格は、まさに百獣の王
「久しぶりだな、バリー」
バーバリライオン。最強の獅子である
─
ええっと…こっちだったっけ…あったあった。よかった…、特に破れたりはしてなさそうだ。中身は…うわっ!?マジか…!?
食べ物が…ぜ…ぜん…め…めつめつめつ…
おにぎりも、お菓子も、パンも…ジャパリまん…は半分ある。水もあるな…なんでだ?
くそう…犯人見つけたらアイアンクローで勘弁してやる…食べ物のうらみは怖いんだぞ!
他は…あれ、俺のお気に入りカードルールブックもない!イラストもついてて暇つぶしにもってこいだったのに!あの本屋にあったレア物が…!
たぶん、フレンズが持っていったのだろう…食べ物は言わずもがな。本は絵に興味がある子なら納得だ。音楽プレイヤーや服を持っていかなかったのは、使い方がわからず興味が失せたのだろうか
…さて、これからどうしようか。食べ物はもうこれだけ。無理すれば走れるが正直やりたくない。しばらくは力を使うのも解放もやめとこう。これ以上は暴走しかねないからな
暴走して女の子を傷つけるのはもうごめんだ
…そろそろ移動しよう。目的も達成したし
ダダダダダダダダダッッッッッ!!!
…なんかすごい勢いで近づいてくるな。ちょっと木登りしてやり過ごそう。ちょうど登りやすそうな木があったぞ。へい!ほい!習っててよかったキノヴォリ!
さて…だ~れだ!
「こっちであってるんですか?」
「ええ、間違いないです」
「匂いもこの辺りが一番強いな」
…嘘だろ?追ってきたぞあの子達。さっきの子はタヌキちゃんに任せたのかな?
あれで終わりじゃダメだったか…。この子達は俺をセルリアンと思っている。そう考えれば、この行動もわかる。なんとしても倒しておきたいのだろう
正直、怖い…!野生解放した姿、雰囲気はまさに狩人だった…!このままじゃ本当に…!ここは…気づかれないように離れる…!
よし…そおっと降りて…
ズルッ
あっ…!
グギッ…!パキパキッ…!
枝踏んだ…。アシクビヲクジキマシター!
「そこか!」
アー!?やせいかいほーう!どうせ死ぬなら使いきってやるぅー!これで最後だー!
…あれ?変わってない?だけど足の痛みは感じない。もうそれでもなんでもいい!走れるならそれで…!うおおおおぉぉぉー!
「あっ、待って!」
「追いかけますよ!ついてきてください!」
──こうして、俺にとって命懸けの狩りごっこが始まった
──そう思ってしまうほど、俺の精神はギリギリだった
本来であれば、フレンズに対してただのヒトがついていくのはほとんど不可能だ。長距離移動なら勝てるかもしれないが、今回は話が違う。さらに、リカオンという動物は長距離移動も得意だと記憶している。普通なら振り切ることすら難しいだろう
だが、解放で身体能力を強化していることが幸いしてか、お互いの距離はなかなか縮まらなかった
(くそっ!なかなか速い!)
「そこの怪しいやつ!おとなしく止まれ!」
止まったら死ぬでしょう!?絶対嫌だよ!
(ヒグマさんなにいってるんですか!?)ボソッ
「少し話をしたいだけなんですー!」
じゃあ隣の子をどうにかしてくれよ!怖くて話なんてできやしない!
(まず警戒を解いてからですよ!)ボソッ
「ジャパリまんあげますからー!」
…なん…だと…!?本当に…?
チラッ
ジャパリまんどころか何も持ってないじゃん!嘘つき!
くうぅ…!さっきまでまだまだ走れそうだと思っていたけど、ごめんなさい、からげんきです…。もう辛い…ん?
川が見えた…!これに沿っていけば広い場所に出るかもしれない…!そこで勝負を仕掛ける!
視界が良くなってきた!これなら、開けた場所にいける……!?
ドドドドドドドドドッッッッッ!!!
マジかよ…滝になってる…!?いつの間にこんな奥に走っていたんだ…!?
かなり高い…落ちたらどうなるか…!
ザッ!
あっ…追い付かれた…
─
「ちっ…!なかなか縮まらない…!」
「ヒグマさんがあんなこと言うからですよ!」
「うっ…すまん、つい」
「いえ…このまま走りましょう」
リカオンは前をじっと見つめて、そう呟く。なにかを思い付いたようで、二人に告げる
「この先から、水の落ちる音がします。おそらく滝でしょう。そうすれば行き場はなくなります」
「あいつが飛ぶ可能性は?」
「出来るならもうやっているでしょう。たぶんむこうも限界なんだと思います」
「…わかった。お前の目線で動いてみよう」
それを最後に、三人は話すことをやめ、前を走る彼に集中する
長かったおいかけっこも、ここにきて終わりが近づいてきた
水の音が強くなっていく。生い茂っていた草木が減っていき、視界が広がっていく
激しく叩きつけるような、水の流れる音がよく聞こえてくる
目線の先には、立ち止まった彼の姿
ザッ!
彼女達は、やっと追い付いた
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