第4話 力


「はぁ…はぁ…はぁ…」


結構、距離は取れたんじゃないかな…


くそっ…油断していた…。あんな厄介な遠距離攻撃があったとは…!


眼は…回復してきたな、結構見えるようになってきた。声は…まだ上手く出ないか。仕方ないが我慢だ


速く戻らないと、彼女が危ない。さっさと解放していればこんなことには…



「…使いたくない、とか言ってる割に、結局は頼っているじゃないか」



自分だけの力なんてそんなもんだ


誰かを守れたためしなんてない


厄介事を運んできて、最後には周りに助けられている。いつだってそうだった



…だが、今はそんな事どうだっていい



あれを倒さないと、パークに平和は訪れない


それに、俺は久々に本気で怒っている


自分の不甲斐なさに。自分の弱さに。自分の迷う心に



そして──俺を助けてくれた、恩人を傷つけられたことに



使えるものは全部使ってやる。この力も、あいつから、みんなから教わった技も全部あれにぶつけてやる



ガサガサッ!ピョコッ!



『グモモモモ…』



…等身大のと小型のセルリアンが数匹。まだ雑魚が残っていたか。お前たちに構っている暇はない。速攻で片付けて俺は進む


エネルギー切れ?知るか、ポケットにお菓子でも詰め込んどけ




「──見せてやる。変身トランス・ダーク 限界突破リミット・オーバー!」







彼女に向かっていき、足を振り上げ──




「あああああぁぁぁ!!!」




──寸前のところで、回避する



(まずい、まずい、まずい…!反撃する手段が…!せめてなにか…えっ!?あれは!?)


サーベルタイガーが視界の端にとらえたのは、ぽてぽて歩く、大きな耳と尻尾のある、小さな生き物(?)


ラッキービースト。フレンズからはボスと呼ばれている子だ。耳にはジャパリまんを入れたかごを乗せ、それは彼女に近づく


「ボス!ここは危ない!あなたも速く逃げて!」


巻き込みたくないと叫ぶ。しかし、それは動かない。それはフレンズとは話さないが、困ったことがあれば助けてくれる。危険を承知でここにきてくれたのだ


「…もしかして、ジャパリまんを持ってくるためにここまで…?


「…」


「…ありがとう、2つ貰っとくね。ボスも気をつけて」


お礼を言い、すぐさま1つ食べる。意外と早食いだった。それを見て安心したのか、それはぽてぽてとこの場から離れていく


(よし、少し回復した。サーベルは…出せる! …セルリアンに感情があるかはわからないけど、そろそろ痺れを切らしてくるでしょうね。そこが狙い目、最後のチャンス!)



『ゴオオオオォォォォ!!!』



その想いに答えるかのように、セルリアンは右足を大きく振りかざす。先程より少しふり幅が大きいため、威力は上がるが隙も大きくなる


それを見逃すほど、彼女は甘くない


全速力でセルリアンの足の間を駆け抜け、一気に後ろに回る


溶解液はセルリアンからみて後ろには発射されていなかった為、枯れていない木がまだ残っていた。彼女は軽々と駆け上がり、セルリアンを捉える。百獣の王の一族は伊達ではない



(ゆらゆら揺れていて、石には当たらない。なら、石がついてる尻尾を切り落とす!硬いからなんだ!できないじゃない!やるんだ!覚悟を決めろ!)



目の前にあるえものを見据え、跳ぶ



「これで…終わりだあああぁぁ!!」



バギィンッ!



サンドスターに想いが通じたのか、全力以上の力を乗せた攻撃は、セルリアンの尻尾を切断し、地面に落とす。その衝撃で石が割れ、尻尾も砕け散った



「やった…切れた…」



ため息をつき、その場に座り込む。彼女はもう限界だった



(これで、あいつも……あれ…?なんで、まだ形を保っているの…?)



彼女は上を向く



そう、石は切り落とした。その石も割れた。そして切った所には──




『オオオオ…』




──見慣れた大きさの、セルリアンの石




ドッ!と嫌な汗が彼女から流れる



(まさか、石を守るために、他のセルリアンがくっついていたというの…!?)



セルリアンの進化。それは形や特性だけではない。特に黒いセルリアンは他と連携を取る、通常にはできないことも可能だった



そのことを、今の彼女が知る由もない



(そんな…私が出来たのは、石が見えるように剥がしただけ…?)



セルリアンはゆっくり後ろを向く



視線の先には、美味しそうな獲物



(ジャパリまんを食べれば…あ、あそこに落としてる…。間に合わない…)



今度こそ、喰らうために右足を振りかぶる。確実に当てるため、振り幅は小さく



(もっとこの体でいたかった…。綺麗なものを探して、美味しいものをたくさん食べて、みんなと、あ遊び…たかった…)



彼女の眼から、しずくが一粒流れる



(さよなら…みんな──)







「くそっ!こんな時に…!」


「ここも数が多いですね…!」


「まるで、とうせんぼうしているかのようですよ…!」


三人は、セルリアンに囲まれていた。この程度の敵なら彼女達の相手ではない。しかし、焦りからなかなか前に進めなかった


「…ヒグマさん。ここは任せて、あなたは先に行って下さい。ここは私たちがなんとかします」


「なっ!?この数だぞ!危険だ!」


「今向こうで戦ってる子のほうが危険です!一人でも多くの応援が必要なんですよ!」


「…っ!」


ヒグマは苦い顔をする。どちらも大切で、それ故に優先順位をつけたくなかった


「私たちの強さを、信用してないんですか?」


「なっ…そんなわけないだろ!」


「なら行って下さい。大丈夫ですよ。誰に鍛えられていると思っているんですか?」


ニヤリ、とリカオンが笑う。その表情に、ヒグマは驚きつつも嬉しくなる




『グモモモモモモモォォォォ…!』




ズシィンッ!




そんな時、セルリアンの咆哮と、何かが倒れる音がした



「っ…キンシコウ!リカオン!絶対に死ぬなよ…!向こうで合流するぞ!」


「もちろんです!」


「オーダー、了解です!」



ダダダダダダダ…!



「…相変わらず速いですね」


「感心してる場合じゃないですよキンシコウさん。私たちと同じくらいの大きさの個体もいますし…」


「あら、怖じ気づいたの?」


「まさか…オーダー受けましたからね。気合いいれますよ!」


「いわれなくても!さぁ、いきますよ!」







何がおきたかわからなかった


気づいたらセルリアンが倒れていて


目の前にはフレンズがいて


そのフレンズから感じる空気は


けものというには、あまりにも禍々しくて


正直、すごく怖いと思ったけど


不思議な毛皮に覆われた背中は頼もしくて


まるで──救世主ヒーローのように見えた



『グググ…ググム…』



(間に合った…。そして、効いてる)



目の前のセルリアンは体勢を立て直そうとしてるが、上手くいかないのか中々起き上がることができない。先ほど殴られた衝撃で、右前足を粉々に砕かれたからだ。その光景を見て、彼は少し安堵した



(特別硬そうだったが、なんとか攻撃は通じるようだ。だがこれでもギリギリか…。もう少し硬かったらやばかったかもな…。つくづく思い知らされる。自分の弱さと、みんなの強さに…)



『グググオオオ!!!』



ボコボコボコッ!と右足が再生する。空気中にある微量なサンドスターを吸収し、サンドスター・ロウに変換する。だがわずかに足りず、歪な形になっていた


しかし、それは再び立ち上がった。そして、剥き出しになっていた石を守るように、サンドスター・ロウで硬く覆った



(そういえばそんな事もできたんだったな…。余裕があったらもっとデータを取りたかったけど…)



──コウは、前を見据えて



(時間も、俺の気持ちも、余裕はない)



──その手には、剣ではなく、槍のようなものを作り



(お前は俺の恩人を傷つけた。それだけの理由でお前を地獄に落とす。それだけだ!)




「──魔槍「トリシューラの鼓動」!」




──セルリアンにむけて、槍を発射した




ドンッ!バキバキバキィッッッッ!!!




投げられた槍は三本に分かれ、セルリアンの下半身を容赦なく貫いた。彼が狙った三本の足は、跡形もなく砕けた。バランスが崩れ倒れた衝撃で、残った歪な右足も砕けた。再生を試みるもサンドスター・ロウが足りず、セルリアンはもがくだけだった


その間に、コウは石があった後ろ側へ回った



(見事命中。流石トリシューラ、我ながら凄い威力だ。これで…満足したぜ…しちゃいけねぇわ。よくもさんざんやってくれたな…!)


「死んでも…悔しがれっ!」



ドゴォッ!



パカァーン!と、セルリアンが四角いブロックのようになり、バラバラに飛び散る。長かった戦いの終わりと、平和が戻ってきたことを表していた


(すごい…。あれを…倒した…。よかっ…た…)


驚異が去った安心と、戦いの疲れから、サーベルタイガーは気を失った




*




…さて、そろそろ解除されるころd



ビキビキビキィ!



「ぐ…ううううぅぅぅ…!」


身体中が痛い…!やっぱり限界突破リミット・オーバーと必殺技の併用は無理があったか…。ゲホッゲホッ!気分が悪い…!


このままじゃまずい…なにかないか、なにか…


「あっ…」


ジャパリまんが、落ちてる。彼女のか?そうだとしても…


「ごめん、もらうね…」


MGMG…よし、痛みがちょっと引いてきたぞ…。うん、なんとか歩けそうだ


あぁ…荷物確かあっちの方に置きっぱなしだったっけ…。取りにいかないと…


そういえば、彼女のこと、見たことあるような、ないような…気のせいかな


そうだ…さっきのジャパリまんのお詫びには…ごめん、お煎餅しかなかった。今度会ったらもっといいものあげるね…


てか、意識ある?大丈夫かな?ちょっと近づいて…


「スー…スー…」


「…息は、ある」


安心したからか、そのまま寝てしまったようだ。身体中傷だらけで、激しい戦いだったのは想像に難くない



(…ごめん、俺のせいで、無駄な怪我を負わせてしまった…。俺のせいで、君を巻き込んでしまった…。俺が最初から、変なプライドを捨てて戦っていれば…!)



…悔やむのは後だ。まずは彼女を安全な場所へ移動させなきゃ。ちょっとごめんね──




「おいお前…そいつから、離れろ…!」




──えっ?








「くらえ…最強クマクマスタンプ!」



パカァーンッ!×5



二人と別れた後、急いで向かうヒグマだったが、セルリアンはまだ数体残っていたようだった。そこまでの数ではないため、倒しながらずんずん進む


すると、横の草むらから何かが飛び出してきた


「…!くらえ──」


「わわっ、待ってくださいー!」


飛び出してきた野生(?)のフレンズは、慌てた様子で手をブンブン振っている


「っとと…すまん、お前は?」


「わ、私はタヌキ、です。周りにセルリアンがいないので、気になって来たんです。私にも、なにか出来るかもしれないから」


(…本当なら、ハンターでもないフレンズを連れていくのはあまりにも危険…。だが…)


「…私はヒグマだ。危なくなったら、すぐに逃げろ」


「…!わかりました…!」


いつもなら冷たく厳しい言い方で突き放すのだが、セルリアンに対する焦りと、仲間に対する想いから、ヒグマの判断力は少し鈍っていた


だが、誰かが横にいるだけで、力が湧いてくる気がした


「もうすぐつくぞ…っ!?」


「うわ…なんですか、これ…」


二人が見たのは、ひどく荒れた場所だった


草木は折れ、花は枯れ、地面はえぐれ、クレーターがいくつかあった。セルリアンの足跡の様なものもある


「ひどい…こんな…!」


「…匂いがする。こっちだ、いくぞ」


ヒグマの嗅覚は犬の数倍である。サーベルタイガーの匂いを感じ、早足で向かう


ヒグマの眼に飛び込んだ光景は、先程よりもひどく荒れた場所



そして──倒れたサーベルタイガーと、姿を隠した不審な者がいた



「…!?なんだ…あいつは…!?なんでサーベルタイガーの近くにいる!?あいつがこれをやったのか!?サーベルタイガーは無事なのか!?」


「ヒ、ヒグマさん落ち着いて…」


「落ち着いていられるか!くそ…!」


二人は小声でばれないように会話をする。ヒグマは、博士に言われたことを思い出していた



──過去には、フレンズ型のセルリアンはいたそうなのです



「こいつが、そうなのか!?セルリアンを倒したサーベルタイガーを狙ってきた可能性はある…!セルリアンが進化しているのは本当だったようだな…!」


「ヒグマさん…!?気持ちはすごくわかるんですけど、なんか違う気がするんです!」


「サーベルタイガーは動けなさそうだ…なら、こちらに注意を引き付ける!タヌキ、私が引き付けたらサーベルタイガーを頼む!」


「ヒグマさぁぁぁん!?」



タヌキの言葉は届くことなく、ヒグマは飛び出していった。武器を構え、野生解放をし



「おいお前…そいつから、離れろ…!」



その者へ、敵意を剥き出しにした

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