第3話 懐かしい場所へ


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…ここは──?



「おとうさん、おかあさん、つぎはあれにのりたい!」


『よし、いいぞ!いくか!』


『先に並んでで。チケット買ってくるから』


「ねえちゃんもはやくー!」


『ちょっと、待ちなさいよー!』


『ははは、相変わらず元気だなぁ』


『それがいいんじゃない。いつまでもそうであってほしいわ』


『そうだな。んじゃ、チケットよろしくな』


『ええ、あなたもあの子達をよろしくね?』



──見たことのある家族だ


──どこにでもいそうな。でも、すごく幸せそうな


──なぜか、すごく懐かしい感じがする


──そうか、あれは、あの男の子は





──五歳のときの、俺だ



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「んっ…」


朝か…。相変わらず日差しが強いな…


なんか、夢を見てた気がする…。嬉しいような、寂しいような…。なんだろ、うまく思い出せないな…


…ジャパリまん食べよ



*



ラジオ体操第一ー!腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動からー!はい1!2!3!4!5!6!


どうもおはようございます、コウです


今日は日課のラジオ体操をやっております。真面目にやるとすごい運動になるんですよ?ダイエットにいいからと師匠も言ってました


寝てるフレンズも多いだろうから、音楽プレイヤーから流れる音量は小さめにしております


終わったら剣の素振りに筋トレに肉体強化もしなくちゃね!



*



ふぅー…。今日もバッチリだ


さーて、遊園地に行く前に、昨日のことを整理しよう。昨日は二回目の解放をしたんだよな


しかし、二回目の解放はそこまで負担がなかったな。むしろ、なんでぺぱぷを助けた時はあんなに疲れたんだろうか?


エネルギー切れという時間制限はあるけど、それは向こうとこっちで変わらないし、今のままの状態でも力を扱えるのも同じ


まぁ、混乱してたってのが理由なのかな?なんにせよ、全力を出しすぎて時間切れ、なんてならないようにしよう


だけど、使える条件が同じだったのは良かった。これで修行もやりやすいし、この調子で使えばもっとうまくコントロールできるようになるはずだ


…個人的には、解放は使いたくはないんだけどなぁ






──あいつを、思い出してしまうから






…いや、二回も使っててなにいってんだって話だよな。なるべく、なるべく使わないように心がけよう


まずは、長く使えるように調整すること、肉体強化魔法みたいに使えるようにすることを目標にしよう


そうと決まれば、遊園地に向かいながらセルリアンで練習だ!


…危なくなったら、全力で逃げよう




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「おーい、起きろー。出発するぞー」


「はーい。リカオン、起きて」


「うぅん…もうですか…?」


所変わってここはしんりんちほーの図書館前。ハンター三人は出発にむけてジャパリまんを食べている


ここから遊園地へは…まぁ頑張れば一日あれば着くんじゃないかな、知らんけど


「ヒグマ」


「んっ?どうした博士?」


ジャパリまんを食べ終えたヒグマのもとに、博士がやってきた。手にはジャパリまんが入った袋を持っている


「ヒトは遠出をする時、食べ物を持参していたのです」


「お弁当、というらしいのです。かばんの時と同じものなのです」


「もしサンドスターが危なくなったら、それを食べて補給するのですよ」


「水も入っています。準備は万全なのです」


思いがけないものを渡され、三人は顔をあわせる。特に普段料理にこき使われているヒグマは特に驚いている


「今日の二人、やけに優しいな」


「その発言は失礼だと思うのですよ…」


「ああっ!ごめん!ありがとう、ありがたくもらっとくよ 」


「全く…」


「けど、どうしたんですか?わざわざ予備なんて」


「そうですね。向こうでボスに貰えると思うんですが…」


その質問に、博士が難しい顔をしつつも答えた


「…かばん達が旅に出てもうすぐ一年が経とうとしています。その間、超大型セルリアンのような厄介なセルリアンは出ていませんが…なにか、嫌な予感、といいますか、面倒事が起きる気がしたんですよ。昨日話したように、ここ最近セルリアンが活発に動いてますから。お前達がいなくなると大変ですからね」


表情にあまり出さず、ストレートにも言わないためわかりずらいが、要はすごく心配してくれているのだ


口調が強めな言い方だが、照れ臭いのだろう。知ってか知らずか、ヒグマが微笑む


「なっ!何を笑っているのですか!?」


「いや、嬉しくてついね。んじゃ、そろそろ行くよ」


「ふん…またカレーを作りにくるのですよ」


「わかったわかった」


三人は図書館を後にして、遊園地へ向かった



*



「…行きましたね、博士」


「そうですね、助手。…何事もなければいいのですが」


「しかし、なぜあんなことを?」


「…ただの、野生の勘ですよ」


「勘ですか…まぁ博士の勘はほぼほぼ当たりますからね」


「…今回は外れて欲しいのですが」



──こんにちはー!二人ともいるー!?



「どうやら誰か来たみたいですね」


「いったい誰でしょうか?我々ならここにいますよ…って、お前たちは──」





────────────────────




おりゃ!とぉ!せい!ハァーン!カクゴォ!


ふぅ…。ここら辺は小型セルリアンが多いな…剣の練習にはもってこいだ


剣もそうだが、体術の修行もまだまだこれからって感じだったしな。遠慮なく戦える相手がいてよかったよ


しかし…やけに多くないか?普段からこんなもんなのか?あっ、またいる…そいや!



*



一通り倒したな。結構な時間戦ってたんじゃないか?ここでちょっとQK!


いやージャパリまんってすごいな。ボリューム満点でエネルギー回復量も高い。ちっちゃく出来れば戦闘中でも食べられそうだ


…そういえば、ジャパリまんってサンドスターがかかってるんだっけ?てことは、結構な量のサンドスターを取り入れてることになるよな…?


…もしかして、フレンズ化する?


…いやいや、それはないだろう


この力は、けものとは違う…と思うし。けも要素は入ってそうだが。それに常時解放状態とか怖くて出来やしない


そもそも全員女の子になるんだろ?男の子のフレンズなんてありえるのか?


ヒトがフレンズ化する…か


もしかして、はこの世界にいるのだろうか?


もしいたら…旅の話でも聞いてみたいね


な~んてね…よし、いこうかn



バキバキバキッ!



んっ!?なんだ!?



『グモモモモモモモォォォォ…』



…えぇ…?なんだこいつ…。めっちゃ見てる…めっちゃ見てるよ…。相変わらずその一つ眼が気味悪い…


牛…か?角が生えてるな。大きさは…一昨日のあいつより大きいな。結構デカいな…3~4メートルくらいか?石は…尻尾の先か。あれ尻尾って言っていいのかわからんが


てか石ちっさ!回避率MAXまで積んでんじゃねーぞ!


こんなのもいるのか…。まるでゲームのベヒー◯スみたいだな…





そして…





色が、黒い





『グモモモモモモモォォォォ…!』




うおっ!?突進してきた!


ちぃっ!ここじゃ狭くて戦い辛い!いったん引き付けて広い場所にさそいこむ…!そうすれば、力を解放しなくたっていけるはずだ…!



『グモモモモォォ!』



ブシャッ!



「…っ!?」



危ねぇ!?セルリアンが何か吐き出してきた!?触ったらヤバそうだ…って…!?



「花の色が、無くなっている…!?」



すぐそばに咲いていた、綺麗な桃色の花の色がスッカリ抜け落ちている…。そして、そのまま枯れて朽ちていった…


おいおいマジか…!なんて自然に優しくないセルリアンなんだ…こんなのあの人が見たら即パッカーンだな…ってそんなこと考えてる場合じゃない…


当たったらどうなるか想像もしたくない…。それに、このままじゃここにいるフレンズも住めなくなる…!それだけは避けなければ…!


周りにフレンズの気配もない…見る限りセルリアンもあいつだけだ…なら、このまま走りぬけ…



『グモオオオオオ!』



ブシャッ!ブシャッ!



「ぐっ…!」



ガッ!



「あっ…うおおおっ!?」



ゴロゴロゴロッガツンッ!



「ガッ…ゲホッゲホッ…」


くそっ…避けたと思ったのに根に引っ掛かった…。おもいっきり背中打った…。頭も視界もふらつく…。だけど早く立たないと…!



『オオオオオ!』



やばっ…間に合わない…!?



「ハアアアアァァァ!」



ギィンッ!



…誰だ?次の攻撃が放たれる前に、何かが横切り、セルリアンの注意をそらしてくれた…


その眼は、野生解放しているのか綺麗な藍色に光っているのが分かる。右手には彼女の象徴であるサーベル…?が握られ、こちらもサンドスターの輝きを纏っている


「大丈夫?立てる?」


「…だ…じ……。あ…?」


「…まさか、声を奪われた…?」


どうにか体勢を立て直し、俺は彼女の質問に答える


「ち…う。セル…の…げき…ない…」


「…?打ち所が悪かったってこと?」


「」コクコクコクコク


「そんな首ふるとダメージ加速するわよ…」


そうでした…ごめんなさい


「走れるなら、このまま逃げなさい。あれは私が引き付けるわ」


「…!?…りだ、きみ…にげ…!」


「いいから逃げなさい!その状態じゃ足手まといにしかならないのよ!」


「…っ」


…悔しいが、彼女の言うとおりだ


こんな状態で解放なんてしたら、彼女までまきこむかもしれない。石も上手く狙えるかわからない。そうなったら本末転倒だ…


せめて、少しでも回復出来れば…!


自分の不甲斐なさが、憎い…!


そう思いながらも、俺はそばに落ちてた荷物を拾い、彼女に背を向け走り出す。セルリアンの視界に入らないように、ぼやけた視界で精一杯離れた







「…なんとか、いけたようね。…ごめんなさい、嫌な言い方をしたわね…」


目の前のセルリアンは、狙った獲物を取り逃したことで怒っているようにも見える



『グモモモモモモモォォォォ……!』



だが、輝きを増した新たな標的を前に、嬉しさで吠えずにはいられなかった


(あの子が逃げられる時間をなんとか作る。それがハンターとしての、私の役目。だからこそ、ここで食い止める!)


そう決意したが、彼女の手は震えていた


無理もない、いつも戦っていたやつとは違う、異形のセルリアンなのだから


(…大きさもそうだけど、硬い…。ヒグマから聞いていたけど、こんなに厄介だったなんて…!せめて、もう一人仲間がいれば…!)



『オオオオオォォォ!』



セルリアンの攻撃が始まる。まるで溶解液のようなものを次々と飛ばし、周りの木々を枯らしていく。右へ左へ軽いステップで避けていくが、避けるたびに周りの被害は広がっていく。セルリアンが有利の我慢比べだ



「この…!くらいなさい!」



残っている木々の上を駆け、セルリアンを翻弄し、ジャンプして攻撃を仕掛ける。何度も何度も繰り返す。野生解放により威力の増した攻撃で削れはするものの、セルリアンはまだまだ余裕そうだった


(あんな小さな石は初めて見る…おまけに尻尾が動くせいで当たらない…!)


どうすればいい…?と考えていた時、セルリアンが両前足を上げ、地面をおもいっきり叩いた



ドゴォンッ!ビキビキビキィッ!



彼女に地面の破片が飛んでいく。さらに追い討ちをかけるように、岩を器用に蹴り飛ばしてきた



「なっ…!?」



ドゴッガガガッバキッ!



彼女の体に当たり、後方へ吹っ飛ばされる。サンドスターで強化したサーベルでダメージは軽減したが、無視できる程ではなかった


(こんなことまで…!くっ…今のでサンドスターが…!サーベルを維持できない…!)


野生解放を使い続けたことで、サンドスターが一時的に足りなくなってしまった


それでもセルリアンは攻撃を緩めない


チャンスを掴んだと言わんばかりに、彼女に向かっていき、足を振り上げ──





────────────────────




━━グモモモモモモモォォォォ!



「な、なんですか!?今の?」


「あっちから聞こえましたね…!早く向かいましょう!」


遊園地へ向かっていた三人は、セルリアンの咆哮を聞き進路を変える。その場所から逃げてきたのか、何人かのフレンズ達とすれ違う


「おい、何があった!?」


「あっ、ハンター!?お願い、あの子を助けて…!」


「どうなっているんだ!?」


「ヒグマさん、落ち着いて下さい!…何があったか話してくれませんか?」


「う、うん…。私、セルリアンに襲われて。でも、あの子が助けてくれて…。そしたら、違うセルリアンを追っていって…」


「大丈夫ですよ、ゆっくりで」


「それで、危ないから逃げてって言われて…でも、あんな大きくて、固そうなの、一人じゃ無理だよ…!」


(…固そう?そんな…まさか…)


「見た目はどんな感じでした?」


「大きくて、牛みたいで…。あと…色が…黒かった」



──色が、黒かった



ヒグマの脳裏に浮かぶのは、あの時の夜。思い出したくない、あの光景だった


ドクンドクンと、鼓動が速くなる。嫌な汗が出てくる


「…わかった。教えてくれてありがとう。後は任せてくれ。お前は避難しろ」


「うん…。気をつけて、無理しないでね…」



タッタッタッタッ…



──嫌な予感が、するのですよ



(…博士が言っていたこと、当たっちまったよ…)



この周辺のハンターで、一番近いのはサーベルタイガー。その子が戦っているのだろうと、ヒグマは予想していた


「キンシコウ、リカオン。急ぐぞ」


「はい」


「オーダー、了解です」



(もうあんな目に、誰も会わせたくない…!頼む、間に合ってくれ…!)



決意を胸に、三人は全力で駆けていった

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