第一章 少年の旅
第1話 少年は舞い降りた
嫌なことがたくさんあった
これからどうすればいいのか
俺は存在していいのだろうか
いっそ消えてしまいたいと思った
そんな事を考えながら月を見ていた
「…きれいな満月だ」
ボソッと呟いたその時、月の光が強くなった
その光はこちらを飲み込むようにのびてくる
…あれ、ヤバくね?
…でもまあ、騒ぐほどでもないか
お前が俺を消してくれるなら
それもまた、いいのかもね
◆
「…ぅん?」
気づいたら、別の場所にいた
空のお日様が沈みはじめている…?さっきまで夜だったのに…? 近くで川の流れる音がするし、草木も多くて見通しが悪い…
…なんだったんだ、さっきの光は?
…不思議なことが起きても特に不思議ではない世界だからな、この程度じゃ驚かんぞ!
…やっぱ少し驚くわ
さて、どうしたものか…。むこうが急斜面になっているから…ここは山の中?
とりあえず、くだってみようか…
*
歩きながら状況を整理する
あの光は、俺だけを狙ったのか?願いを叶えてくれるものだったのか?
それなら、なんのために?
消えてしまいたいとは思ったが、その場からいなくなる意味ではなかったのだが…
てか、足元に荷物が最低限あったのが不思議だ。使い慣れたバッグの中に水筒(冷水)、着替え(二日分)、音楽プレイヤー(ゲームBGM多)、少しの食料etc…部屋にあったはずなのに
服装も動きやすいものになってるな。…フード付のマントはいらなかったが…せっかくのあの人からの贈り物だ、身に付けとけばなんかあるだろう。最悪フードだけとれるしな。マフラーもある…どっちもつけるか
まぁ、とりあえず一旦帰ろう。急にいなくなったら心配するだろうから
…心配、するのだろうか
──キャアアアアアアァァァァ!
「っ!?」
女の子の悲鳴!?場所は近い…行くか…?しかし…
…いや、見て見ぬふりも気分が悪い…行こう。せめて逃がす時間稼ぎでも出来ればいい。自分は別にどうなってもいい
自分は、そんな存在なのだから
─
「みんな走って!追い付かれるわ!」
「でも、あっちも速いですよ…!」
「くそっ!こんなことになるなんて…!」
「ああ、ジャパリまんが…」
「んなこといってる場合かよ!逃げるぞ!」
山の中を懸命に走っているのは、ジャパリパークのアイドル
彼女たちはアルパカの経営するカフェに息抜きで行く途中だったのだが…
「ごめんなさい…私のせいで…」
マーゲイが顔を真っ青にして呟く。向かう道で近道を見つけたまではいいが、その先にセルリアンがいたのだ
大きさは彼女たちのおよそ二倍で、二本の触手を使って進み、もう二本で狙いを定め伸ばしてくる。動きがそこそこ速く、地上ではかなわない
「マーゲイのせいじゃないわ!てかそんな事考えているなら逃げることだけ考えなさい!」
「そうですよ…このまま行けば、平原にでます。そこなら…」
平原に行けば、戦いが得意なヘラジカやライオン達がいる。そうすればこいつも倒せるだろうと二人は考えていたが…
『グオオオオオオォォォォ!』
セルリアンが動きを変え、折れた木々を投げつけてきた。突然の動きと咆哮に気をとられ、全員がつい足を止めてしまった
「っ!コウテイさん!危ない!」ドンッ!
「えっ…?」
狙われたコウテイを庇うように、ジェーンが体当たりをする。木には当たらなかったが、もう一本の触手がジェーンに向かい…
「あっ…」
ガブッ…!と、触手がジェーンを咥えた
「この!ジェーンをはなせ!」
イワビーが振りほどこうと触手を叩くが、なかなか離れない
そこに──
「っ、イワビーさん!後ろ!」
「なっ…!?」
──シュルルル…!と、触手がイワビーに巻きついた
「な、なんで…四本じゃなかったのか…!?」
そう、触手は四本。ただし、彼女達から見えていたものは
足のようなものが二本、木を投げた一本、ジェーンに食いついている一本
そして、セルリアンの弱点である石の付け根から伸びたもう一本。背中側に石があったため、死角になっていたのだ
(嘘…だろ…!?)
触手が地面から持ち上がり、空中に固定される。まるで獲物を弄ぶように、無機質な目が二人を見つめる
「やだっ!イワビー!やだよぅ!」
「ジェーン!くっ…どうしたら…!」
「この…!この……!」
「マーゲイ!?コウテイ!?危ないわよ!?」
「ですが、ジェーンさんとイワビーさんが!」
マイペースなフルルが珍しく叫び、マーゲイとコウテイが野生解放し攻撃する。しかし、セルリアンは気にも止めていない
そして──
─
「見つけた…っ!?あれは…!?」
おいおい…なんの冗談だよ…
なんで…
なんでセルリアンがいるんだ…!?
それに、襲われてるのはまさかPPPか!?
夢か…これは…夢であってくれよ…
…いや、考えるのは後だ
先にあのデカブツを潰すことに集中しろ
大丈夫…短い時間なら暴走はしない。使い方に少しは慣れてきたはずだ
本当は、この姿をあまり見せたくないけど…これがあるし、すぐ離れれば大丈夫だろう
…ここなら、こういうんだよな
「いくぞ──野生…解放!」
─
(もう…ダメですね…せめて、皆さんだけでも、逃げて…)
ジェーンが諦めの表情を見せた瞬間、触手がセルリアンの体内に戻ろうとする
ジェーンを捕食しようとしたその時──
「オルァアアアアアアァァァ!!!」
──何かが、もうスピードで突っ込んできて
ズバンッ!
ジェーンを咥えていた触手を、一瞬で切り落とした
「えっ…キャアアアアァァァ!?」
「おっ…と」
空中に放り出されたジェーンを、彼は飛んでお姫様抱っこでキャッチし、地面にそっとおろした
「…大丈夫?」
「えっあっはい。…あの…あなたは…?」
「通りすがりのフレンズだ。忘れていいよ」
軽口でそんな事を言われたジェーンは混乱した。忘れていいと言われても、羽織っているものとフードで顔がよく見えず、逆に忘れられそうにないと思った
(ふーむ…食われる寸前だったからか、少し放心状態みたいだけど怪我はなさそうだね。…それと)
「フンッ!」
ズバンッ!
「あっ…うおおおお!?」
「ほいっ…と」
もうひとつの触手も切り落とし、今度はイワビーを助ける。こちらも律儀にお姫様抱っこだ
「えと…ありがと」
「ん。無事ならいい」
「ジェーン!イワビー!大丈夫!?」
「良かった…本当に良かった…!」
「怪我はない!?」
安心感からか、全員が目に涙を浮かべている。もう少しで食べられそうになったのだから無理もない
その様子をチラ見たその人物は、再びセルリアンへ視線を戻す。セルリアンの方も、その人物に標的を絞ったかのように触手を向けた
「…速く逃げなよ?」
「逃げなって…あなたは!?」
「あいつ倒すよ」
「一人じゃ危ないわよ!?」
プリンセスが叫ぶ。その人物よりもセルリアンは大きく、更に触手も残っている。一人で戦うには危険だと思うのが普通だ
「…心配してくれてありがとう。でも大丈夫──」
だがそれは、少し笑って答えた
「──あの程度のスピードなら、俺は捕まらないから」
言い終えた途端、それは目にも止まらぬ速さでセルリアンに突っ込んでいった。何かで作られた剣を、右手で握りしめながら
「さて…パッカーンといきますか!」
セルリアンがすべての触手を使い、掴もうとしてくるが、彼は空中で方向転換し、すべてかわす。後ろから追いかけてくる触手は、それについていけていなかった
「石は…そこか!」ブンッ!
セルリアンの弱点である石を見つけたそれは、持っていた剣を、おもいっきり投げつけた。綺麗に命中し、ビキッ!とヒビが入る
そして…パッカーン!と音を立てて、セルリアンがくだけ散った
(よし、終わり!あとはここから離れて…)
「あの…!」
ん!?まだいたのか?逃げてって言ったのに…。ダメじゃないか、離れなきゃ…
…あれ、マーゲイさんがいない。誰か探しているのかな?
これ以上関わっても大変そうだし…申し訳ないが離れよう…サラダバー!(テーレッテー)
ビュンッ!
「あっ!」
「…スゴイ勢いで行っちゃいましたね…」
「まだちゃんとお礼言ってねえのになぁー」
─
セルリアンの驚異が去り、一息つくPPP一行
「おーい!無事かー!」
「セルリアンが出たんだってー?」
そこに、平原の王であるヘラジカとライオンが、部下をつれてやって来た
「マーゲイから聞いたぞ。大変だったな」
「周りにはもういないから、安心していいよ~」
「そっか…よかった。マーゲイもありがとね。みんなを連れてきてくれて」
「…いえ、今回は完全に私の不注意でみなさんを危険な目にあわせてしまいました…私は、マネージャー失格です…私がいても、また迷惑をかけるかも…だから…」
「…マーゲイ」
パァンッ!
プリンセスのビンタが、突如炸裂した
「ちょ…!?プリンセス!?」
「迷惑ですって…?そんなわけないでしょ!?あなたがいつも頑張っているのは知ってる!自分より私たちのことを一番に考えていてくれてることも知ってる!もしそれで、迷惑なんて言うやつがいたら、何回でも否定してやるわ!胸を張りなさい!あなたは自慢の、かけがえのない友達でもあるのよ!」
「…プリンセスの言うとおりだ。今回は運が悪かっただけ。私たちはみんな無事で、セルリアンもいなくなった」
「そうですね。いつもサポートしてくれてますし、すごく感謝してるんですよ?」
「いろんな味のジャパリまんくれるしね~」
「そこかよ!…まっ、気をはりすぎなんだよ。もっとリラックスしとけ」
「みなさん…これからも、一緒にいていいんでしょうか?」
「「「「「もちろん!」」」」」
そっか…いていいんだ…ここが、私の居場所でいいんだ…
そう思ったとたん、涙が溢れてきた
「ああっ!マーゲイ大丈夫!?」
「ごめんなさい…うれしくて…」
「もう…一人で抱えすぎよ…少しは相談してね」
「はいっ…」
*
「じゃあ、今日はうちで寝るってことで~」
「確かにここなら、大人数でも大丈夫だしな」
「ありがとう、助かるわ」
暫く移動して、ここは平原のライオン城の中。PPP一行はここで一晩過ごすことにした。次の日、護衛をつけてカフェに行く予定である
「しかし、みなさんを助けた謎のフレンズ…気になるでござるな…」
「確かに、空を飛ぶ武器持ちのフレンズは」
「ハシビロコウがいるが…」
「私はそんなに速く飛べないし…聞いたこともないかな…」
「だよね~」
「だが、聞いた所、すごく強そうではないか!あって手合わせしたいものだな!」
「ヘラジカ様そればっかりですわね…」
「何か特徴はなかったの?」
「特徴…ですか。そうですね…」
・声が他のフレンズに比べ低い
・武器が剣みたいで少し光ってた←カッコイイ!
・私たちに比べて背は高かった
・すぐいなくなった。恥ずかしがり屋?
・フード着けてた。ヘビの子?
・空を飛んだ。トリの子かも?
「こんなもんか?ぜんぜんわからん!」
「でも、こんな感じの子は他にはいないってことだよね~」
「なるほど…フルル冴えてんな」
「なら、また会えるかもな」
「そうですね。その時は…」
「その時は?」
「あっ、い、いえ、なんでもないです」
「…?まぁいっか。さて、明日も早いんだろう?今日はお開きにしよっか」
「そうだな。ではな、ライオン」
「またね~」
*
それぞれの場所に帰るフレンズ達。その夜、きれいな満月を見ながらジェーンは考え事をしていた
(また会えたら…お友達になりたいですね)
─
「ハァ…ハァ…」
落ち着け、深呼吸…すー…はー…よし、解除…!
「ふぅ…無事に終わったな」
しかし、セルリアンにPPP…まさか、ここはあのジャパリパークなのか?もしこれが夢でないとしたら…
俺は異世界にとんだことになるのか?俺達の世界だとジャパリパークなんておとぎ話だぞ…
「あり得ない…なんてことはあり得ない…か」
そうだな、俺がいた世界も、他から見たら立派なおとぎ話だ
だがそうなると…問題は山積みだ。帰ることができるかも大事だがまずは…
「…野宿は、流石にしたことないぞ…」
幸先不安しかないね、ちくしょう…
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