第30話 【使】

「昼ごはんをお前が持ってきたのか?」

「そうそう。ちょっと頼まれてねぇ。はーい、ちょっとおじゃまするよー」


 堂々とお膳を持ったまま中へと入っていく。


「おい、いきなりズカズカと、ご飯を持ってきたのなら、この場へ置いておけばいいだろう?」

「俺はそんな仕事はしないんですー。婦人会のおばちゃんたちがちゃんと中まで持って入ってねって言われたから、ちゃんと中まで運ぶんですぅー」


 弐沙の制止を振り切って、居間の方へお膳を運ぶ。


「はーい。お昼ごはんのデリバリーですよー」


 居間にお膳を置く夏陽。


「わー。おいしそう」


 お膳に乗っている料理を見て、怜が嬉しそうに笑う。


「そうでしょう、そうでしょう! そりゃ料理上手な婦人会のおばちゃんたちが作ったからに、おいしそうに決まってるじゃないか!」


 夏陽はそう自慢げに鼻を鳴らす。


「で、どうして、婦人会の人の料理を夏陽が持ってきたの?」

「ちょうど配達で調理場に行ったら、ちょっとお願いだけど頼めるかっていわれっちゃってねぇー。いやぁ、女性の頼みごとって言われたら断れないじゃん? だから持ってきたってワケ」

「なるほどねぇー」

「なるほどじゃないだろ……」


 弐沙も居間へやってくる。


「はい。えっと……弐沙だっけ? お前も分も」


 ニコニコしながら、夏陽がお膳を弐沙に渡した。


「さて、私達に昼ごはんを届ける配達は終わったんだろ? さっさと本業に戻らないと怒られるんじゃないのか?」


 弐沙に言われて、夏陽は施設の備え付けの時計を見る。


「いや、次の配達までまだ随分と時間があるから、お前らがご飯を食べ終わるまで待っててやるよ?」

「そういわれると、食べ辛いんだがな」

「そうなんか? アンタの弟さんはそんな中バクバク食べているが?」


 夏陽に言われて弐沙が怜を見ると、人の目も気にせずにせっせとご飯を食べ始めていた。


「ん?」


 二人に見つめられて、箸を止める怜。


「怜、お前って奴は、本当に……」


 弐沙は頭を抱えてため息を付いた。


「ハハハ、本当にアンタら兄弟は面白いや。双子なのに性格が正反対だなぁー。まるで……」





 夏陽の言葉に弐沙は少しだけだが眉を顰めたが、


「性格の真逆の双子なんて世界にはゴロゴロいるぞ」

「あれ、そうなの? 村に双子なんて居ないからなぁー」


 弐沙からそう指摘されると、人差し指で自らの髪をくるくると弄りながら喋る夏陽。


「さて、ごちそうさま」


 弐沙はいつの間にかお膳に乗っていた料理を完食していた。


「え、早っ。いつの間に食べたの?」


 弐沙の余りの早食いに、夏陽は思わず二度見をしてしまう。


「まじまじと見られたら洒落にならないからな。今の内に食べたぞ。さ、早く持っててやれ」


 弐沙がそういうと、夏陽は口を尖らせた。


「えー、もっとアンタらと話しーたーいー」


 いきなり床に転がって駄々をこね始めたのだ。


「話すって何をだ」

「いやぁー。この村に来るのってやっぱ女性の方が圧倒的に多いじゃん?」

「まぁ、縁結びのお守り貰いにくるから、そりゃね?」

「だから、男が来るなんて珍しいから、メンズトークとかしたいんだよ!」


 夏陽は目を輝かせる。


「女子会みたいな感じ?」

「そうそう、それそれ!」


 ずびしと夏陽は怜を指差した。


「楽しそう!」

「だろだろ?」


 怜と夏陽はそういいながら意気投合する。


「ねぇ、つぐ……兄さんもやろうよー」

「私はいい。二人で気の済むまでやっていろ」

「えー、弐沙も混ざろうぜ」


 そう言って夏陽は弐沙の首根っこを引っ張る。


「な、私を巻き込むな!」


 そんな男だけのトーク大会は夏陽が戻る夕方五時まで続いたのだった。

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