第24話 【思】

「どういうつもりだ?」


 宿泊施設の屋敷で手続きが終わり、荷物を指定された場所に置いた直後に弐沙が怜に向かって口を開いた。


「え、何のこと?」

「とぼけるな。いきなり、怜と私が兄弟だという設定をつけるなんて聞いてないぞ」

「だって、そう言った方が説明簡単じゃん。弐沙もさ、病弱設定を被せてくるなんて思わなかったよ。本当は正反対なのにね」


 ニコニコしながら、自身のリュックサックの中からお菓子を幾つか取り出す怜。


「田舎に来る理由なんて病弱だから療養しにきたと言っていた方が都合いいだろう?」

「弐沙、多分それ偏見だと思うけど? それより、夏陽に会ってみてどうだった?」


 話題は向こうのほうからやって来た夏陽の話になる。


「確かに、つかみどころのないような奴だな。怜よりも扱いづらい。それに……」

「それに?」

「あのテンションの裏に何か隠している気がするな。それが何なのかはまだ分からないが、同年代の若者が村に居ないことへの寂しさか、はたまた……」


 そういいながら弐沙は考え込む。


「あの夏陽という男の言い方を聞くと、何度か会いそうな感じがするから徐々に明らかになるかもな。そろそろ、神社のほうへと向かうとするか」


 弐沙は携帯の電源を入れて、時刻を見る。時刻は午後四時半と表示されていた。


「神社が確か午後五時で締まるからその頃には参拝客も居なくなるはずだよ。竹子と来たときは行くのが早くて入り口からは入れなかったけど、今日は大丈夫そうだねー。ゆっくり歩けば五時くらいになるだろうし」

「そうとなれば出掛けるか」


 弐沙達はさっさと身支度を整えて朱絆神社へと向かった。



 朱絆神社の正面入り口へと辿り着いた、弐沙たち。正面は石で作られた鳥居がどんと構えていて、その両サイドを狛犬のような像が一対、弐沙たちのことを睨んでいるような感じがした。

 時刻は午後五時。朱絆神社の社務所の受付が終了してすぐなので、神社を出て行く女性たちがチラホラと見受けられる。


「前は入り口に近づけないくらいだったけど、正面ってこうなってたんだなぁー」

「一見本当に普通の神社だな」


 弐沙はそう言って神社へと足を踏み入れる。

 神社に入ってすぐに目に飛び込んできたのは、社務所の前を箒で掃除をしているかなえの姿だった。


「あ、すいません、今日はもう終了してしまったので、お守りならまた明日来て下さいね。……って、あの時の取材の方じゃないですか。また、いらっしゃったんですね」


 夏陽と同じく、怜と間違えて弐沙へと駆け寄ってくるかなえ。


「取材したのは俺の方ですよ」


 弐沙の後ろからひょっこりと怜が顔を出す。


「わっ。驚きました。お二人ともそっくりなんですねぇ」


 かなえはそっくりな弐沙と怜を見て目を丸くする。


「一卵性双生児だからそっくりなんです。こっちが兄さんで、俺が弟。朱絆神社の話を兄さんにしたらどうしても見てみたいって聞かなくて」

「そうだったんですね。初めまして、朱絆神社で神主代行している結ヰかなえと申します」

「弐沙といいます。この村と神社の話を弟から聞きまして、療養も兼ねて訪れたいと思っていました。民俗学とかを齧っていたので、こういう伝承文化とか好きなんですよ」

「そうなんですね」


 ニコリとかなえが微笑む。


「出来れば、中とかを見学させて貰えたらいいのですが……。特に、あそことか」


 弐沙が指を指したのは、件の物置小屋だった。


「えっ」


 弐沙の要求にかなえの表情が瞬時に焦りの顔へと変わった。


「い、いや、あそこには使ってない道具しか仕舞われておりませんので、弐沙さんが見たいようなものは置いていないと思いますが」

「過去にはどんな道具を使っていたのか気になるのです。ダメでしょうか?」

「いや、結構ホコリを被っていますし、療養ということは貴方のお体に触りますよ」

「それなら、元気な弟が小屋の方へ入りますので安心してください」


 一歩も引かない両者。


「し、しかし……」

「もしかして、かなえさん。あの小屋に……」



「私達に見せられないものでもあるんですか?」



「!!」


 弐沙の問いにかなえが目を見開いた。


「……」


 その後、弐沙をじっとみつめる。


「あ、いけないこんな時間だわ。すいません。晩御飯を作らないと。今日はもうお引取り下さい」


 ごめんなさいね。とかなえは弐沙に謝罪をする。


「……」


 そんなかなえを無言で見つめる弐沙。


「弐沙……?」


 怜が心配になって問いかけると、弐沙はふぅと息を吐いた。


「お忙しそうですし、また伺います。それでは、突然失礼しました。……怜、帰るぞ」


 ふっと愛想よく笑ってかなえに一礼をし、回れ右をすると、弐沙の表情は瞬時に素に戻った。



「都合よく追い返されてしまったな。これは周りから固めていくか」



 そう呟いて、弐沙は神社を後にした。



 神社を去っていく弐沙達がまるで名残惜しいかのように、弐沙の首にはまた赤い糸が絡み始めていた。

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