第23話 【嗜】
「ずっと座りっぱなしは流石に疲れるねぇー」
暁鴉駅に辿り着いた怜は電車から降りてすぐ背伸びを始める。
「結構な時間だったからなぁ。それにしても、こころ暁鴉か……」
本当に何もないなと弐沙は周りを見回した。
「俺もそう思ったけど、前に行ったあそこへよりは栄えていると思うよー」
「あのな。あそこはそういう村だったから何も無かったんだ。ここは普通に人が住んでいるだろう。一緒にされると迷惑になるぞ」
「あ、いっけねー」
弐沙に注意を受けると、お茶目っぽく怜は舌を出して見せた、
そんな二人を尻目に、女性たちはドンドン改札へと向かっていく。
「皆お守りのほうに必死みたいだねぇ」
「車内でチラチラと声は聴こえたが、呪われるお守りという噂も少なからず聞いている女性が多い印象だったな。呪われるかもしれないというリスクを背負ってまで何故そこまで拘るのか、理解不能だな」
弐沙はフンと鼻を鳴らした。
「もー、弐沙ったら女性の気持ちが分かってないなぁー。そんなの、例え怖いものでもそれで縁が結べたら万々歳ってことだよー。意中の相手なんて絶対に手に入れたいものでしょ? それが例え……」
怜はニヤリと口角を上げる。
「相手を殺してでも……ね?」
「罪を犯してまで結びたい縁なのなら、私なら断固断るがな」
「それは俺もノーサンキューだねぇ。さ、そろそろ駅を出ようよー」
怜に促され、二人は改札を出る。
駅を出ると、怜が訪れた時と同じ様に熱烈な歓迎ムード一色の装飾がされていた。
「怜が言っていた通りだな。朱絆神社に肖って村おこしがされている。それも過剰と思われてもいいくらいのだ」
「でしょ? それだけ村が神社に依存しているってことだよね?」
「そうなるな。もし、神社が無くなったとしたら、一体この村は何に依存していくのだろうか?」
弐沙がボソッと呟くと、いきなり目の前に白い軽トラがキキーっとブレーキ音を鳴らしつつ急停車した。
「……なんだっ!」
危うく轢かれかけた弐沙が一歩後ろに引くと、軽トラから首にタオルをかけている夏陽が出てきた。
「道理で見たことある顔がいるじゃんって近づいてみたら、この間神社で会った奴じゃーん。元気だったかー?」
夏陽は弐沙の腕を掴んで、ブンブンと楽しそうに振り回す。
「お前が会ったことのある奴は、私の隣にいる怜のほうだ。私はお前とは初対面だ」
弐沙がそういうと、夏陽はきょとんとした顔で弐沙と怜を見比べる。
「えっ、お前ら双子なの? すっげー、超そっくりじゃん!」
容姿が似ている二人を見て夏陽のテンションがさらに上がっていた。
「で、また暁鴉村に来たってことは、また取材? あの時のおねーさんがいないみたいだけど?」
「竹子なら雑誌社で缶詰めだと思うよー。前回の取材を纏めている最中。今日は、暁鴉村のことを兄さんに教えたら、行ってみたいって言い出したから連れてきたんだよ。ね、兄さん?」
「え、に、に?」
いきなり怜から兄呼ばわりされて、驚く弐沙。そんな弐沙に右ひじでわき腹をツンツンと小突く怜。
「あ。うん、そうだ。弟からいいところだと聞いていてね。ちょっと療養も兼ねて訪れてみたんだ。元気が有り余る弟とは正反対で、私は生まれつき体が弱くてね。こういう自然豊かで空気の綺麗なところしか出掛けられないんだ」
弐沙は若干表情が引きつりながらも、ニコリと笑いかける。
「へー。体が弱いのかー。それは大変だなー」
「そういうことだ。あと、自己紹介が遅れたな。私は弐沙という、こっちは怜だ」
「俺は、夏陽、よっろしくなー!」
夏陽は再び、弐沙の手首を持ってブンブンと振りまわす。
「あ、あぁ」
夏陽のテンションについていく事が出来ず、弐沙の表情が強張る。
「兄さんを余り虐めたらダメだよ、夏陽」
「あ、ゴメンゴメン」
ハッと気づいて、夏陽はパッと手を離した。捕まれていた手首を擦りつつ、弐沙がため息を付く。
「ということで、一週間くらいはこの村で療養するつもりだから、また会った時はよろしくな」
「こちらこそー! 俺はあちこち配達に出かけているからスグに再会できるかもよー? そういえば、この村に来たってことは神社にはもちろん行くんだよな!」
「そのつもりではいるが」
「だよな! 昼から夕方にかけて人が多いけど、早朝や夜の時間は人気がないから、散歩するのには最高だぞー。一応神社って、えーっとなんだっけ……? ぱふーすぽっとだっけ?」
「それをいうなら、パワースポットのことか?」
夏陽の間違いを弐沙が訂正する。
「そう、それ! パワースポットだし、体を癒すのにはいいんじゃないか?」
「そうか、それは助かるな。では、私たち兄弟は宿泊先に向かうからコレにて失礼するよ」
弐沙は重そうなボストンバックを肩に掛けなおす。
「引き止めてごめんねー。じゃあ、また会ったらお話しようぜ!」
夏陽が元気良く手を振ると、弐沙は軽く一礼をして、二人は宿泊施設のある方向へと歩き出した。
そんな二人が見えなくなるまで手を振っていた夏陽は、見えなくなったから手を振るのをやめて、ニヤリと笑った。
「へぇー。彼は随分と珍しい
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