第25話 【仔】

「さて、明日からどうするか」


 宿泊先へと戻り、婦人会が用意してくれたご飯を食べながら弐沙達は明日からの作戦会議をしていた。


「流石に毎日あの神社に押しかけて神主代理に喧嘩を売るのは得策ではないだろう」

「そのうち怒ってさらに強いのろいが弐沙に降りかかって来たりして」


 山菜の佃煮を食べながら怜が話しかける。


「あの神主代理の方はパッと見、普通の人間だった。恐らくはそんな事はしないだろう」

「そうかなぁ? 最初のお守りって彼女が作ったんでしょ? そういう知識とかもあるかと思ったんだけど」

「作ったのは彼女かもしれないが、元々突如現れた男からの入れ知恵に過ぎないと考えるほうが妥当だろう。それに、彼女が作ったお守りは弟に渡したもの一点のみで、そのほかは神主である弟の方が作っている。のろいという作用を考えると、やはり神主の方が何かしら力を持っている可能性があると見ていいんじゃないだろうか?」

「つまりは、神主代行のほうは何も知らずにお守りを授与し続けているってこと?」


 怜は首をかしげる。


「いや、少なくとも中身を見たら呪われるということは知っていないと注意書きには書かないだろう。まぁ、中身を見ると効果が薄れるという意味合いで書いたものかもしれないが、それでも、噂話で聞いたことはあるだろうし、“何もしらない”というのは無いだろう」

「じゃあ、そんな怖い効力を持ったお守りを授与し続けている訳は?」


 怜は持っているお箸を弐沙に向けて問う。


「どうしても感染呪術を広めないといけない理由があるんじゃないかと思う。その理由は調べていたら明らかになるハズだ」

「理由ねぇ……」

「とりあえず数日は神社の周辺などを調べてみよう。明日は早朝に神社の裏手を調べる。少し気になることがあるのでな」

「はーい」


 元気良く返事をした怜は勢い良くご飯をかきこんだ。



 次の日、早朝五時。


「ね、ねむーい」


 目が半分閉じかけの怜は千鳥足で神社のほうに向けて歩いていた、


「早朝から出掛けるというのに、夜更かししていたんだろう。自業自得だ」

「だってぇー読んでいた小説が面白いところだったもーん。ふわぁ……」


 怜は欠伸を漏らす。


「全く、宿泊先に戻ったら数時間寝かせてやるから、それまで我慢しろ」


 やれやれと言わんばかりに弐沙は呆れていた。

 そんなやりとりをしつつ、朱絆神社の裏手へとやって来た。


「着いたな。さて、見つかるか」

「弐沙は何を探しているの?」

「朱絆神社の神を探している」

「この神社の神様?」


 眠くて目を擦り擦り怜が訊く。


「神社という漢字は“神のやしろ”と書く。つまりは、神社自体が神様の聖域そのものだ。一般的に神社ではどんな神を奉っているか説明しているところが多い。しかし、昨日朱絆神社を訪れた時にそのような看板のようなものは無かった。神の名前さえ分かれば何かの対処法が見つかるかもしれない。だから、裏手に何かヒントになるようなものは無いかと思って早朝にやって来たんだ」

「へぇー。神社ってそういうモノなんだねぇ。ということは、弐沙を奉る神社だって出来ちゃうの?」

「……私はだ。奉ってもいいこと無いぞ」


 弐沙はそう吐き捨てる。


「ちぇー。冗談なのに」

「いいから、何か無いか探せ」


 ガサガサと雑木林を掻き分けながら弐沙は裏手を捜索し始めた。



 捜索を始めて三十分。二人が必死に探し回って見つけたのは、大きな岩・溜池・そして焼却炉の三つだった。


「……何も無さ過ぎる」

「本当に何もないねぇー」


 弐沙達はそう言いながらゼーハーと肩で息をする。


「岩のほうには何も名前のようなものは刻まれていなかったし、溜池にも看板の類いは見当たらなかった。焼却炉は神社で使っているモノだろうな。収穫はゼロか」

「もしかしたら、村の人は知っているかもよ? 一応神の奇跡として神社を建立したみたいだし」

「確かに一理あるな。裏手の調査はここら辺にして、今度は……!?」


 何かの気配を察知して、弐沙は後ろをいきなり振り返る。

 ちらりと人影が弐沙の目に映ったような気がした。


「誰か居るの……ぐっ」


 映った人影を追いかけようとすると、いきなり赤い糸が出現して弐沙の首をキリキリと絞め始める。


「弐沙!!」


 いきなり糸によって苦しそうにもがく弐沙に怜が駆け寄る。


「私のバッグの中に鋏がある。それで……この糸を……切れ」


 苦しみながら辛うじて怜に言葉を伝える弐沙。その言葉を聞いて、糸をくぐりつつ、弐沙の鞄を探って鋏を取り出す。

 怜は意を決してチョキンと赤い糸を切ると、まるで連鎖反応かのように糸はブチブチと千切れ始め、弐沙はその場に倒れた。


「助かった」

「大丈夫? 立てる?」

「何とか平気だ。それより、アイツは誰だったんだ?」


 弐沙は人影が見えた場所を見る。


「俺は姿を見ることが出来なかったけど、どんな奴だったの?」

「チラッとしか見えてないが、赤い髪をしていたような気がする。もしかして神主か?」

「それも村の人に聞いてみようよ。神社の姉弟のことなら知っている人多いだろうしさ」

「そうだな」


 怜に介抱されながら、弐沙は村の方へと戻っていった。



「朱絆神社に奉られているのは、確かシュカ様という神様じゃ」


 弐沙達が裏手の雑木林を抜けて暫く歩いていると、あぜ道で草刈りしている年配の女性に遭遇。神社に奉られている神様について知らないかという質問にこう答えた。


「シュカ?」

「んだ。縁にゆかりがあるとかないとかと神社を作っていたとき当時の村長が言っていたような気がするのぉ。もう随分と昔のことじゃから、うろ覚えじゃが」

「おばあさん、話してくれてありがとう。それにしても凄いよねー、そんな神様の力で弟さんが無傷で帰ってくるなんて」


 怜がそういうと、その女性は若干表情を曇らせる。


「何か気になることでも?」


 弐沙が訊ねると、その女性は少し震えながら答えた。



「みそぐ君が無傷で無事に帰ってきたとは言うのじゃが、恐らく誰もみそぐ君の姿を見たものはおらんのじゃ」

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