第18話 【洙】

「私の方は、さっき怜が会った皆神と一緒にお守りに纏わる縁について調査をした」

「あー、確か皆神君って縁を糸として具現化出来るんだよねぇ」

「あぁ。そして分かったのが、結構根深いものというものだった。お守り自体ではなく、お守りの核である中身がな」


 そう言って弐沙は朱糸守を軽く揺らす。

 中からカサカサという音が微かに聞こえた。


「確か、髪の毛と何かの肉片の感想したものだっけ? その中身だけでものろいが発動するとか怖いねぇー。何の肉片なんだろうか?」

のろいは様々な動物を使う場合があるから、それの応用かはたまた……」

「人間そのものか」


 弐沙はちらりと揺れている朱糸守を見る。


「朱糸守って結構な数出回っているんでしょ? 人間なんて使っていたらそれこそ不審死というより失踪事件とかが多発しない?」


 怜がそういうと、弐沙が確かにそれはいえるなと答えた。


「しかし、人をのろい殺すまでも根深さを持つ、まじないを刻んだ核ねぇ。そんな仰々しいモノを生み出すその朱絆神社の神主の顔を拝みたいもんだな」

「でも、顔を全く出さないからなぁ。俺が気になる物置小屋を探せば見つかるかもしれないけど。他は?」

「あとは、この持ち主の水橋の縁についても少し気になることがあった」

「なになに?」


 興味津々な様子で怜が前屈みになる。


「具現化した糸から誰かから強い恨みを買っていた痕跡があった」

「強い恨み? 怨恨とか憎悪とかそんなヤツ?」


 怜の問いに弐沙が軽く頷いた。


「しかし、水橋が依頼してきたときはお守りののろいの事しか聞かなかった。怜も水橋を送ってあげたときに、何もほかの話は聞かなかっただろ?」

「確かに、のろいが怖いとしか言ってなかったなぁ。そんな恨みを抱いている人が居るって分かったらもっと警戒してもいいはずなのに普通に家に入っていったし」

「つまりは、水橋本人はその怨恨に気づいていなかったというのが妥当だということだ。しかも、水橋は“のろいによる不審死ではなく、その怨恨による殺人の可能さえも出始めた”というわけだ」

「うっ……、なにやら急に話がややこしくなったね」


 弐沙の言葉に、怜が顔をしかめる。


「それは私も思った。しかし、依頼のほうが優先だな。解明した後でそれについても調べても遅くは無いだろう、少なくとも警察は連続不審死を関連されたものと断定しているから、水橋を殺した真犯人なんて早々捕まることは無いだろう。まぁ、水橋が怨恨で殺されたということを仮定して考えるとの話だが」

「じゃあ、とりあえずお守りについての調査を続行するというわけだねー。で、次はどうするの?」

「そんなの、決まっているだろう?」


 弐沙がぐぐーっと背伸びをする。


「その神社に乗り込む。そして、朱糸守の秘密を暴く」

「なんか弐沙が“暴く”なんて言葉を使うと二年前のことを思い出すねー」


 怜は楽しそうな表情をする。


「アレからそんなに経っているのか。まぁ、あんな突飛な奇祭のことなんて私の頭の中で既に記憶からなくしているがな。そんなことより、暁鴉村に宿泊施設みたいなものはあったのか?」

「村が経営している屋敷みたいな施設があったよ。俺も竹子と其処へ泊まったけども、村に連絡すれば借りれるんじゃないかなぁ?」

「後で連絡を取ってみるか。一週間くらいの滞在になりそうだから甘味切れを起こすなよ?」


 弐沙が怜にそういうと、やれやれと言いたげな表情になりながら首をゆっくりと横に揺らす。


「はいはい。ありったけ詰め込んどきますよーっと。まぁ、万が一のときは……」


 怜は何か思いついたらしく、舌なめずりをする。


「村のお土産のおまんじゅうを買えばいいんだし?」

「それでは、村のお菓子が残らず怜によって駆逐されるんじゃないのか?」

「その場合は……」


 怜の眼光がギラリと弐沙を捕らえる。





「はぁ……」


 その言葉に弐沙は重いため息が漏れる。


「お前の本気は何度止めてもから控えろ」

「いいんじゃない? のなら」

「……そういう意味で言ったわけではないんだがな」

「あはは、冗談だよ」


 睨む弐沙を笑ってあしらう怜。


「何はともあれ、とにかく準備だー! 弐沙は電話とか切符の手配お願いねー。俺はまだまだこの国のシステム余り理解出来てないから無理!!」


 そう言って怜は応接間から出て行った。


「おい! ……全く。こういう時にだけ異国人ぶるのはどうにかして欲しいものだ」


 弐沙は怜の態度にため息しか出ない。


「さて、私も準備をするか」


 応接間の窓から見える青空を見ながら弐沙がそう呟いた。


「今回はどんな顛末になるのか……」

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