第16話 【侏】
そして、時間は怜と榎が無事駅へと到着したところへと進む。
「事故もなく無事帰ってこられたわね。それにしても、都会の方が反射が強くて嫌になるわ」
帽子を目深に被りながら榎が話す。
「照り返しとか強いとか聞くねー。さて、竹子からこれから会社に戻るんでしょ?」
「怜の方は弐沙を迎えに行くんだったわね。じゃあ、ここで解散ね。また機会があれば会いましょ? 今度は怜にモデルでもやってもらおうかしら?」
「こういう機会というのは滅多に来ない方がいいと思うけどねー。モデルも遠慮しておくよ。俺は目立つのは好きじゃないからねー」
「その口でよく言うわね。ま、そういうことだから」
手をヒラヒラとしながら、榎は出版社の方向へと去っていった。
「さてと、俺は迎えに行かないと。送ってもらった地図は……っと」
怜はメールで送られて来た住所を頼りに地図のアプリを起動させ、駅から皆神の家への方向へと歩き出す。
大学を通り過ぎ、閑静な住宅街を抜け、こじんまりとした一軒家が見えた。
怜は地図と照らし合わせて一軒家を見る。
「ここ……かな?」
首を傾げつつ、一先ずインターホンを鳴らす。
『はーい』
玄関の奥で声が聞こえて、パタパタとかける音が聞こえる。そして、カラカラと玄関の引き戸が開かれ、中から普段着に着替えた皆神がひょっこりと顔を出す。
「たしか、えーと、弐沙のことを迎えに来てくれた怜さんだった……ね……えっ」
皆神が怜と視線が合った瞬間にギョッと目を見開いた。
その様子を怜は見て、ニヤニヤと笑う。
「もしかして皆神君、俺の姿を見て驚いたのかなぁ? 余りにも弐沙に似ているから」
言い当てられた皆神は少しムスッとした顔になって、無言で頷いた。
「弐沙の格好に変装しているんだよ。影武者としてねー」
ニヤニヤとしながら怜が説明する。
「初対面の人にそんな事バラしてもいいわけ?」
「弐沙の知り合いなら言っても差し支えないと思ってるからねー。ところで弐沙は何処?」
「俺の部屋で休ませている。案内するから、上がって」
そう言って皆神は怜を家へと招き入れる。
トコトコと廊下を歩く二人。
「他の家族の人は?」
怜はキョロキョロと家の中を見回す。
「皆実家に居るぞ。ここは俺が大学に通う都合で一人暮らし用に借りた」
「え。此処、一人暮らし用で借りたの!? 俺が知っている一人暮らしのスケールが違いすぎる」
「そうなのか? あー、だから、同じゼミの人間が俺の家を見たときビックリしたのか、納得」
「え、今頃気づいちゃうやつ?」
「ここだ」
皆神の感覚が一般人と違うことを知り怜が驚いている中、弐沙が休んでいる部屋へと辿り着いた。
その部屋を開けるとそこには、
寝転がりながら、何やら紙にびっしりと文字を書いている弐沙の姿があった。
「やっと来たか」
弐沙は怜の姿を見るなり、そう言った。
「弐沙、何やってんの? 倒れたって聞いたからこれでも急いで来たんだけど?」
「何って、レポートをまとめているんだ。お前を待つまで暇だったからな」
そう言って弐沙はさらに執筆作業を続行する。
「俺が弐沙の調査に協力する代わりに、レポートを手伝ってもらっているんだ。まさか、寝ながらやるとは思わなかったけど」
「まだ、本調子じゃないんでね。出来たぞ。さすがにレポートに書くと筆跡とかでバレるだろうから、後は皆神が書くんだな」
トントンと紙を纏めて、畳の上に置いた。
「りょーかい。ところで本調子で無いならもう少し休んでいくか?」
「怜が迎えに来たから大丈夫だ。帰ってから探偵社で二人での話もあるしな。と、その前に」
弐沙は布団からムクリと起き上がった。
「怜、コイツが前々から言っていた協力者の
弐沙が仲介役となって、皆神と怜の相互の紹介をする。
「へー、一族でそんな凄い仕事をしているんだねぇー。よろしくー!」
「え、え、弐沙を暗殺しようとしたのか……?」
満面の笑みで握手を求める怜とは対照的に、皆神は少し怜との距離をとり始めた。
「もう、弐沙。そんなの昔の話じゃないかー。普通、そんな事を人に言ったらビックリしちゃうでしょー、ダメ!」
「何も本当のことではないか。私はそういうことはきっちり覚えている性質でな」
「都合のいい事は直ぐに忘れるくせに……」
弐沙の言葉にボソッと怜が文句を呟く。
「お前ら仲が良すぎだろ」
そんな様子を見て皆神が口を開く。
「えー。仲が良さそうにみえる? 嬉しい」
「コイツと、何処をどう見れば仲が良さそうに見えるのか?」
「じゃあ、見るか?」
皆神がすっと右手を振ると、弐沙と怜の体を様々な糸が巻きついた。
「え、何コレ何コレ!?」
突如出てきた様々な色の糸を見て、怜は驚いて問う。
「コイツは
頭を抱えながら弐沙が答えた。
「これだけお前ら二人の縁が強いんだ。仲がいいに決まっているだろう」
してやったりという顔で皆神は笑っていた。そして再び右手をふると、糸はすっと消えていった。
「あ、消えた」
怜は少し残念そうな声で言う。
「さて、少しは体調が回復したし、探偵社へと戻ろう。皆神、世話になったな。また暇になったら本家の方にも立ち寄るつもりだ」
「その時は連絡しろよな。さて、作業で夜更かしまでしたんだから、俺はここで一眠りするとするよ」
「分かった。では、怜、帰るぞ」
「はーい」
皆神に別れを告げ、弐沙と怜は探偵社へと帰って行った。
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