第15話 【狩】

「二つの可能性ねぇ……」


 皆神も同じ様に眉を顰める。


「ということは、水橋のケースは普通に怨恨による殺人で、呪(のろ)いの方は後から発動したという可能性もありえないことではないな」

「怨恨の糸は出ているけど、殺人するまでには至っていないかもしれないということも考えたほうがいいかもな」

「もう一方の方へ調査に出掛けている居候の方の報告を待ってから考えてみるというのも遅くないだろうな。他に何か気になるところは無いか?」

「他かぁ……」


 皆神はキョロキョロと糸を見る。


「他に気になるような所は特にないが、強いて言えば、弐沙に巻きついている糸だな」

「これか?」


 弐沙はその赤い糸を摘んで見せる。


「一番それが、反応が強いような気がするんだ。まるで未だに弐沙のことを呪って亡き者にしようとしているかのように」

「やはり私が死ぬまで終わらないのか、はたまた……」

「コレを作った奴が死ぬかのどっちか」


 弐沙と皆神は様々な考察をしながら議論を重ねていった。


「あー、頭使い続けるのも疲れたから少し休憩だ。その間に、弐沙にはこのレポートについて考えて貰うからな」


 急に議論をストップさせた皆神は弐沙に真っ白なレポート用紙を渡して書斎に寝転がる。

 弐沙は渡されたレポート用紙を見る。表題には『神と信仰の力について、知っている例を用いて三千文字以内にまとめよ』と書かれてあった。


「神と信仰の力ねぇ……。皆神、メモと筆記具を借りるぞ」

「ごじゆーにどーぞー。俺は少し、脳みその休憩だ」


 仰向けになったまま皆神が答える。

 そんな皆神をよそに、弐沙はカリカリとシャープペンシルを動かしながら何やらメモに書きとめていく。


「この例には……あ、違ったな、コレはアレで……」


 ブツブツと何やら呟きながら弐沙はメモを書き続けていく。

 そんな様子を途中から皆神が眺めていた。


「やっぱ、似てるな」

「ん? 何がだ?」


 皆神の一言に弐沙が気づき訊く。


「どことなく弐沙がカナトに似ているなと思っただけだ」

「カナトって確か、分家筋でお前と同い年という志神奏斗という青年のことか? 皆神家の分家筋である志神家とは交流が全く無いから名前くらいしか知らないが」


 メモ作成を止めて弐沙が口を開く。


「そうそう。俺と同い年だし、どちらの名前にも奏でるという言葉が使われているから、はじめて顔合わせした時、共通点も多かったからすぐに打ち解けることが出来た。でもなぁ、アイツも特異体質故かなかなか人間不信なところがあるんだよなぁ。弐沙みたいに」

「私は別に人間不信というわけではない」


 その言葉に皆神は意外そうな顔をしながらお茶を飲む。


「まぁ、今度機会があれば紹介してやるよ。なかなかのインドア具合でビックリすると思うぞ」

「別に私のことを紹介しなくてもいいんじゃ……っ!!」


 弐沙はいきなり目を見開いて首元に触れる。


「ん? どうしたんだ」


 目を見開いたまま停止する弐沙を不審に思って皆神が問う。


「さ……三回……目……だっ」


 弐沙はまるで息が出来ないらしく、必死に口をパクパクと動かしながら必死に皆神に伝える。


「え、マジかよ!!」


 皆神は跳ね起きて弐沙の元へと駆け寄る。

 苦しそうにもがく弐沙の口元に皆神が掌を添えると、呼吸の流れを感じることが出来なかった。

 つまり、弐沙は今呼吸をすることが出来ないでいる。


「ようは、気道を塞がれているのか」


 だんだんと弐沙は意識を混濁させていく。

 そんな弐沙を見て、皆神は急いで右手人差し指と中指を出し、空中で斬る。すると、


「ゴ、ゴホッ……ゴホッ!」


 どうやら気道が確保されたらしく、弐沙は咳き込み始めた。


「良かった。なんとかなったな」


 まだ弐沙は苦しそうにはしているが、息はできていることを確認する皆神。

 すると弐沙がスマホと一枚の紙を皆神に差し出す。


「これは?」

「先ほど言っていた……居候の電話番号が書いてある……、私に……何かあれば呼び出すと言ってあるからお前が電話で奴を呼び出せ、私が倒れて寝込んでいるとでも伝えて……いればいいだろう……そろそろあっちの方も……調査が終わった頃合だから遠慮は……しなくていい。私は少し眠るぞ」


 すると、弐沙は寝息を立てて眠ってしまった。


「……弐沙め、レポートを書かせる代わりに面倒くさい仕事を投げてきたな。仕方が無い。かけるか」


 弐沙から受け取った紙を開き、その中にあった“怜”と名前が書かれている電話番号に弐沙のスマホから電話を掛ける。

 すると、三コール目くらいで電話が繋がった。


『もしもし? 弐沙ー?』


 ニシシと笑いながら電話先の相手が電話へと出てきた。

 その声は少し弐沙より高めの声だなと皆神は感じる。


「え、えっーと、れ、怜さんの電話で合ってる?」

『そうだけど、君は誰だ? 弐沙は?』


 相手は皆神のことを疑うような声色で訊ねてきた。


「俺の名は皆神という。弐沙がちょっと諸事情で倒れてしまって、俺の家で休ませているんだけど。あ、ちゃんと弐沙の意識はあるから安心してくれ。寝込んでいる弐沙から君のところへ連絡をしろといわれて今に至るわけなんだが……。あとで俺の家の地図をそっちへメールで送るから迎えに来てやってくれ」


 皆神は事の顛末をキチンと電話先の怜に伝える。


『了解、ごめんねー弐沙が迷惑をかけたみたいで』


 すると、怜は声色を元に戻して気軽に接してきたみたいであった。

 皆神の提案に怜は素直に承諾する。


「いや、別に迷惑じゃないから大丈夫だ。じゃあ、よろしく頼んだ」


 そのことに安心した皆神は電話を切った。


「さぁて、寝ている弐沙に布団でも掛けてやるか」


 ポリポリと頭を掻きながら皆神は布団を持ってくるために書斎を出て行った。

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