第12話 【繻】
さて、話は怜が探偵社を出て行くところへと遡る。
「では言ってくるよ。弐沙も気をつけてね」
「分かっている」
弐沙に見送られて、怜は探偵社を出ていった。
「ふぅ、やっと出たか。難儀な奴め」
嫌々言いながら出掛けた怜に対してため息混じりの声を漏らす。
「何故アイツは私と行動を共にしたがるのか。全く、私は童ではないんだぞ」
そう怒りながら、自室へと戻り、外出する準備を始める。
「奴との待ち合わせ場所は何処だったか」
携帯を取り出して、今日会う人間との待ち合わせ場所を地図で確かめる。
「駅の方だな……今、駅に向かうと高確率で怜と榎の二人に鉢合わせしそうだ。もう少し待ってから行こうか」
一通り着替え終わって鞄を肩にかけた弐沙は応接間へと戻る。
そして、ソファへと腰掛け、例の朱糸守を取り出した。
弐沙はそれをじっと凝視する。
「中身の肉片の正体も知りたいが、それ自体が
弐沙の動きがピタッと止まる。
否、体中の動きを封じられたと言ったほうが良いだろうか。弐沙の体中に赤い糸が絡み付いて、まるで操り人形かのような様相だ。
「まだ、呪うというのか?」
弐沙は赤い糸をチラリと見る。
「細い糸では私に切られてしまうから、数で対抗するのか。これはこれは、単純では無さそうだな。が、しかし……」
弐沙は少し腕を動かすと、あんなに雁字搦めに絡まっていた糸がプツンと散り散りに千切れた。
「私がコレくらいでくたばれるわけが無い」
弐沙は何処か悲しげな声でそう吐き捨てた。
「さて、戯れごともほどほどにして出掛けるとするか、さすがにもう榎と怜は駅で合流して朱絆神社へと向かっている頃だろう」
弐沙は重い腰をよいしょっとあげて、探偵社を出た。
弐沙は怜たちが待ち合わせしていた駅を通り過ぎ、とある大学へと辿り着く。
「ここか。正門で待っていろと連絡に書いてあったが、ここで合っているか?」
弐沙は一応周囲を確認して、背中を壁に沿うようにくっつけて待ち合わせの人物がやってくるのを、読書をしながら待つことにした。
途中、何やらざわざわと周囲が騒がしかったがそんなことも気にせずに弐沙は読書を続ける。
「なかなか図太い神経してんだな」
いきなりぬっと、弐沙の目の前に人影が出現した。
弐沙が本からその人影に視点を移動させると、其処には毛先が局所的に脱色している青年だった。
「よう、皆神。随分と早かったな」
「待ってくれている弐沙が人の波に揉まれてないかと思って、急いでゼミから来たんだ。案の定、人だかりじゃないか」
皆神と呼ばれた青年が指を指す。その方向には山ほどの人間が群がっていた。
「いつの間に、そんなに人混みが出来ていたんだ」
「弐沙の容姿は目立つのをそろそろ認識した方がいいんじゃないか?」
「そんな目立つようなことはしていないと思うが」
「はぁ……」
大きくため息を漏らす皆神に弐沙は首を傾げる。
「ところで用事があるから俺を呼び出したんだろ? 家まで案内するから付いて来い」
皆神はくるりと方向を変えて歩き出した。
「それにしてもこの辺りの大学に進学したんだな」
道中歩きながら弐沙が問う。
「交通の便もいいからな。それにここら辺で神道を学べる学校があそこしか無かったというのもあるし」
「やはり、跡を継ぐのか?」
その問いに皆神は足を止め、振り返る。
「当たり前だろ? 俺はそういうレールで生きて来たんだ。それに……」
また歩き始める皆神。
「親友と交わした大切な約束もあるからな」
「約束か……」
「着いたぞ」
皆神が指差す先にはこじんまりとした一軒家があった。
「……ここにお前一人で住んでいるのか?」
一人暮らしにしては若干広いようなその家に、弐沙はぎょっとする。
「ん? まぁ、今、実家を離れているからな。週一でお手伝いさんは来てくれるが大体は俺一人だぞ?」
「一般学生の一人暮らしの部屋と比べると家の規模が全く違うな。さすが、一族から期待されているだけあるか……」
ボソッと弐沙が呟く。
「何か言ったか?」
それを聞き取れなかった皆神は弐沙に聞き返す。
「いや、こっちの話だ」
「まぁいいか。入ってくれ」
皆神は玄関の引き戸をカラカラと開けて弐沙を招き入れた。
弐沙は皆神の家の書斎へと通された。
書斎には神道に関する本がずらっと並んでおり、中には古文書の類いのようなものもあった。
「その専門の奴らが見たらヨダレ物だな」
「家から適当に持って来たモノばかりだけどな。あ、適当に座ってくれ」
そういわれて、弐沙は近場にあった椅子に腰掛けた。
「それにしても、俺の小さい頃はお前の言っていることが冗談だと思っていたが、本当だったんだな」
じっと、皆神は弐沙を凝視する。
「何がだ」
「不老不死ってことがだよ。最初、俺のじいさんがあの家の当主のときにお前と会ったけれども、あの時からまるで変わらない。あれから十五年そこら経ってはいるが、お前は老いることもなく、死ぬことも無い、まるで時がある日を境に止まったかのような感じだな。弐沙をみていると」
皆神の言葉に、弐沙は鼻で笑う。
「それが、私に科せられた
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