第11話 【朱】
榎たちが帰っていった後の社務所。二人を見送ったかなえは社務所の掛け時計を見る。
時刻は午後六時を指そうとしていた。
「あら、いけない。ご飯を作らないと」
かなえは社務所にあるすべての窓をきっちりと施錠をして、鍵を持って社務所の戸締りをすると、自宅の方へと向かう。
ちらりと、かなえは例の物置小屋のほうを見た。
「……みそぐ、無理してないかしら?」
そう呟くとまた自宅の方へと歩みを進める。
自宅に戻ると、かなえは作務衣姿から私服へと着替え、台所へと向かう。
「今日は暑かったから、涼しげなものにしましょうか」
そういうと、冷蔵庫から予め作り置きしていた料理を取り出して鍋の中へ投入して加熱していく。
加熱しながら残りの材料を手際よく鍋に入れて火を止めた。
「これでよしと」
かなえは器に料理を盛り付けると、お膳の上に乗せる。
またもかなえは掛け時計で時刻を確かめる。時刻は六時半、
「時間ね……」
かなえはそういうとお膳を持って自宅を出ると、物置小屋へと向かった。
怜には何もないと言っていた物置小屋。かなえがその小屋の扉を開けるとそこには、
蝋燭のみが灯る薄明かりの中、物置小屋のど真ん中に座っている。白髪で紺色の狩り衣を着た、見た目二十代の青年の姿があった。
「ネエ……さん……」
虚ろな目でかなえを見つめる青年。
「みそぐ、ご飯持ってきましたよ」
かなえはそういうと、床にお膳を置いた。
「もうそんな時間ナンだね」
「あまり朱糸守作りに没頭しすぎて体を壊さないようにね」
心配そうにみそぐのことを見るかなえ。
「大丈夫。コレはボクのお勤めであるから……」
そういうみそぐをかなえはそっと抱きしめた。
「そう。それならいいのよ。でも無理は本当にダメよ。私の前から居なくならないで頂戴」
「ウン。ネエさん……、姉さんがそう祈ってくれるだけで、ボクは生きることが出来るから」
みそぐはそういうと抱きついていたかなえを引き剥がした。
「さて、お勤めに戻らないと。姉さんは明日に備えて寝ていて? 出来たのはまた入り口に置いておくから」
「みそぐもゆっくりと休むのよ。おやすみなさい。みそぐ、愛しているわ」
かなえはゆっくりと立ち上がると物置小屋の入り口に手をかける。
「ネエさん……オヤスミなさい」
みそぐに見送られながら、かなえは物置小屋の引き戸を閉める。
自宅に帰るまでの道中、いきなりかなえの歩みが止まった。
「盗み聞きだなんて、趣味が悪い」
「あー、バレたかぁ」
神社の茂みからガサガサと音がしたとなると、人影がかなえに近づいた。
「いいねぇー。姉弟の涙を誘う話じゃないか。いやぁ泣けるねぇ」
影は笑う。
「貴方に助けて貰っているのは感謝しますが、私達姉弟間のことには関わらないで貰えないか?」
キッとした目で影を睨むかなえ。そんな態度を受けて影は態度を変える。
「へぇー、そんな事言って良いワケ? 誰のお陰で弟さんが無傷で戻ってきたと思っているノ? あの力で避けた攻撃を今から弟さんに浴びさせてもいいんだヨ?」
「!? やめて!! それだけはやめて! みそぐを傷つけないで!」
影の言葉にかなえは涙ながら懇願をする。
「それなら、今まで通りやればイイんだよ。オレの言うとおりにね」
影はクツクツと嗤いだした。
「そうすればすべては丸く収まるんだよ。これは呪(まじな)いだ。君たち姉弟が永遠に幸せになれる。その為にはオレの力が必要だし、それには君たちの協力が不可欠だ。相互的に協力し合えているんだ。これほど友好的なものはないね」
影の言葉にかなえは唇を噛み締める。
「おっと、こんな時間だ。立ち話もこの辺にしてオレは立ち去るとしよう。それでは、かなえさん……」
月明かりに照らされて禍々しい赤い眼がギロリとかなえのことを見つめる。
「オ ヤ ス ミ ナ サ イ」
次の瞬間、影の気配は消えていた。
「そう……これは、私達の幸せのため、みそぐをこれ以上苦しい思いをさせないため」
かなえはまるで何かを念じるかのように呟きながら、自宅へと戻っていった。
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