第7話 【酒】

 電車を途中乗り換えて揺られること一時間半ほど。怜と榎の二人は【暁鴉ぎょうあ】という駅へと降り立った。

 二人の目に映るのは、山と田んぼという一面濃いグリーンのみで彩られている風景。のどかな場所そのものであった。


「予想してはいたものの、田舎ねぇ」

「田舎だねぇー」


 呑気に田舎気分を味わっている二人を余所に、女性達は駆け足で駅の改札を抜けていった。


「皆、神社へ行くのかな?」

「だと思うわね。まだ取材の時間まで随分とあるし、村を探索してみるわよ」

「へーい」


 怜はやる気のない返事で榎に答えた。

 二人が改札を抜けて最初に見たのは、



【歓迎! ようこそ、最強の縁結びの地、暁鴉村へ!】



 と書いてあった大きな垂れ幕だった。


「随分と歓迎されているようだねー」

「アレだけ人気だと村も村おこし的な感じで乗っかりたくもなるわね。ほら、あそこの売店のお土産ものを見て見なさい」


 榎が指差した先を怜がみると、【開運!縁結びクッキー】、【恋の縁結びチョコケーキ】などの商品が並べられていた。


「全部縁結びに関係してあるね。のっかかり方が露骨だ」


 怜はせせら笑いをする。


「村探索をしたらさらに縁結びスポット出るかもしれないわねぇ」


 榎はそう言って、駅を出た。

 村の道は幹線道路のみ舗装がされていて、後の歩道などは舗装がされていないガタガタの道であった。


「本当に田舎ねぇ……」

「二年くらい前に弐沙が招待されて、とある村に行ったけど、ソレよりは発展しているねぇ。あそこには何にもなかったからー」


 怜はちょっと軽くステップを踏みながら榎の隣を歩く。


「それは限界集落というやつじゃないかしら?」

「弐沙が言うには、あの村はそういう村だから何も無いって言ってたよ。あ、縁結びまんじゅうはっけーん」


 店先に【縁結びまんじゅう】という看板が見えて怜が指を指した。


「アンタたちもそういう仕事だから大変なのね」

「でも、刺激が一杯だから飽きないし楽しいよ」

「あたしは命が幾らあっても足りないわ」


 やれやれというような表情を榎が見せた。


「普通の人ならそうかもねー」


 ケラケラと怜が笑う。

 二人がそんな他愛の無い雑談をしている最中、駅へと向かう何人もの女性達とすれ違った。


『やっと買えたね』

『そうだね。めっちゃ嬉しい』

『そういえば、噂知ってる?』

『え、何ソレ怖い』

『ようは中身を見なきゃいいだけの話じゃん』

『これで、あの人と結婚する』

『そういえば例の雑誌見た?』

『みたみた! あの服可愛かったよね。たしかブランドは……』


 断片的ではあるが、女性達の話し声が怜と榎の耳にも入ってくる。


「呪いの話は結構広まっているみたいね」

「そんな怖い話があってもお守りはちゃんと授かりに行くんだねぇ。不思議ー」

「ご利益があれば、貰いに行くもんじゃないの?」

「竹子は縁結びのお守りには興味ないの?」

「あたしはそんな迷信的なものは生憎信じない性質なのよ。取材だから来ているだけ」


 榎はばっさりと否定した。


「わーい。リアリストってやつだねぇー」

「そこまで大袈裟なものではないわ。さ、そろそろ朱絆神社に着くわよ」


 駅から歩いて数十分で木々が生い茂る丘のような場所が見えた。


「やっぱり、神社だけあってなんか雰囲気が違うね」


 入り口に近づくに連れて、人がごった返しているような感じが見える。


「やっぱり大繁盛だねぇ」

「入り口に人が溢れているわねぇ。コレじゃここからじゃ入れないわね。反対方向にも入り口があるらしいから、そっちへ向かうわよ」


 榎は来た道を指差して怜を誘導する。

 二人はUターンをして歩き、途中で右に曲がって、雑木林生い茂る丘の中へと入っていく。

 道は全く整備されておらず、木の根っこが地面に張り巡らされており、歩き難い。


「本当にこの道であってるの?」


 余りの道のコンディションの悪さに怜は心配になって榎に問う。


「この丘は全部朱絆神社の敷地内だから、迷ってもいつかは辿り着けるから安心しなさい。入り口のほうがごった返していたのは、この道があまりにも酷すぎるから誰も通らないからよ」

「せめて看板くらいつけてくれたらいいのに。疲れた……」

「あそこにベンチがあるから一休みしましょう」


 榎は登った先に見えるベンチを指差した。

 二人はようよう登りきって木製のベンチへと腰をかけた。


「疲れた……」

「あたしももう限界」


 二人とも過酷な道を登りきったことによる疲労でぐったりとしていた。

 すると、その時、


「おやぁ? この道を登ってくる参拝者さんだなんて珍しい」


 二人が声に気づいて顔を向けると、そこには、ビールケースを両手で持っている金髪の男がコチラの方を見ていた。

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