第5話 【衆】
夜になって、弐沙と怜は探偵社を出て市内のとある喫茶店へと入る。
弐沙はホット珈琲を、怜はフルーツパフェを店員に注文をし、席で寛いでいた。
「ところで、なんで夜なのに喫茶店で待ち合わせなの?」
「頼みたい奴が夜にしか出てこられないんだ」
「……その弐沙の知り合いの専門家さんは夜行性動物か何かなの?」
怜は話が飲み込めずに首を傾げる。
「専門家とは別の奴だ。仕事柄こういう流行に精通しているんだが、先天性の体質で日中はあまり出歩きたくないらしい」
「へぇ。吸血鬼みたいに太陽の光を浴びると砂になるとかいう奴かな?」
「吸血鬼よりは目立つ奴とは言っておこう」
「ん? なにそれ?」
すると、喫茶店の扉がカランカランと鳴り響いた。
喫茶店にやってきたのは黒いローブのようなものを身に纏い、フードを目深に被って弐沙の方へ進んでいく人影だった。
影が通り過ぎると、喫茶店に居た他の客はその影の姿を目で追っていく。
「来たな」
弐沙がそういうと、影は立ち止まってフードを取った。
白髪、色白、そして瞳の色は真っ赤で、その姿はまるで真っ白なウサギのような女性だった。
「すごい、ウサギみたいだ」
余りの白さに怜は感嘆の声をあげる。
「全く、人目に付きやすいところを選んでくれたわね。弐沙。皆に見られているじゃないの」
真っ白な女性はそう言って弐沙に対して怒る。
「指定しやすい場所がココしか無くてな。座ってくれ、私が今日は奢る」
「弐沙がそういうなら仕方ないわね。すいません。アメリカン一つで」
女性はよく通るような声で店員に注文をする。
「紹介しないとな、探偵社で働いている怜だ。で、こっちが榎竹子だ。女性誌のライターをしている」
「よろしくね」
榎はそう言って名刺を怜に差し出す。
「よろしくー。それにしてもこんなに綺麗に色素が脱色しているアルビノ初めて見たよ。本当にウサギみたい」
怜は榎を見て目を輝かせる。
「そんなに凄いものでもないし、この体質のせいで余り日中は外を出歩けないのよねぇ。直ぐに肌が真っ赤になっちゃうから」
そう榎が言っている最中、三人が注文したメニューが一気に運ばれてくる。
「わーい。パフェだ」
満面の笑みでパフェを頬張る怜をじっと榎が観察をしていた。
「ん? 俺の顔に何か付いている?」
「普通の人なら弐沙と怜は双子に見えるくらいの精巧さね。でも、違うのよね?」
「え、凄い。双子じゃないって見破られたのは一般人じゃ、榎が初めてだ」
怜はパフェスプーンを口に咥えつつ目を見開く。
「竹子でいいわ。あたし、そういう観察眼だけはいいのよねぇ。弐沙を見たときも只者じゃないって思ったし」
「竹子に半ば強引にスカウトされたのが知り合った切欠だ」
弐沙の告白に怜の動きが止まった。
「へ? 弐沙がスカウト? もしかして、モデルとか?」
「そんな感じだな」
「まだその時の記事のスクラップは持っているわよ。見る?」
榎はニヤニヤしながら、持っていた鞄を漁る。
「わーい。みたいみたい!」
怜はそんな榎に乗っかる。
「今はそんなことはどうでもいい。本題を話すぞ」
「えー、弐沙のケチ。見たっていいだろうに」
「そんなの後で好きなだけ見せてやる」
弐沙はそう言って珈琲をすする。
「え、マジで? やったー」
「で、あたしを呼び出したのはどんな用件なのよ?」
「コレを知っているか?」
弐沙はスマホから例のお守りの写真を表示させて榎に見せる。
「あら、朱絆神社の朱糸守じゃないの?」
画像を見るや否や、榎は直ぐに答えを口に出す。
「直ぐに分かるもんだな。お守りに神社の名前なんて書いていないのに」
「最強の縁結びで有名よ? 何でも、戦時中に戦地に向かう弟さんのためにお姉さんが作ってあげたお守りのお陰で無傷で弟さんは戻ってこられた逸話が転じて、必ず
「まんま感染呪術の典型的パターンだな」
弐沙は腕を組んで喫茶店の椅子にもたれかかる。
「このお守りが一体どうしたの?」
「これの中身を覗いてしまった人が次々に不審な死をとげていて、私達はそれについて調べている」
そういうと弐沙は鞄からファイルを取り出してテーブルの上に広げる。
そのファイルにはここ最近に起こった全身に赤い糸が巻かれた遺体が発見された事件が述べ十二件まとめられた資料が挟まれてあった。
「へぇ。三ヶ月ほどでこんだけ起こっているのねー」
その資料を榎はまじまじと見る。
「で、このお守りについての情報がもう少し欲しいと思ってな。お前を呼び出したところだ。何かヒントになるような情報はないか?」
「生憎だけど、今のところは弐沙の欲しがるような情報は持っていないわ」
榎はそう言ってアメリカンコーヒーを飲む。
「今のところは?」
「えぇ。来週、丁度朱絆神社へ取材しに行くのよ。神社サイドからの取材許可がやっと下りたから。取材後なら幾らでも情報提供できるわよ?」
「その取材、付いていっていいか?」
「いいわよ? どうせあたし一人で行くつもりだったし、でも、男二人も連れて行くのはちょっと悪目立ちしないかしら?」
「私は行かない、行くのは怜だ」
弐沙は横で幸せそうにパフェを食べている怜を指差した。
「へ? 俺? 怜は?」
「私は専門家の方と別の調査があるんでな、お前は竹子と一緒にその神社について調査しろ」
「えー、別行動なのぉ?」
怜は不服そうな表情を見せる。
「いいんじゃないの? 二手に分かれたほうが作業効率も早いと思うし。ということで、怜、詳細は追って弐沙に連絡入れておくから、宜しく頼むわよ」
「はーい。分かったよ」
怜は少し拗ねた態度でパフェを平らげていった。
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