06
勝利の後。ここはビルの屋上。
手すりにつかまり空を眺める彼女を、後ろから眺めていた。
たった一晩の出来事。
だが、それ以前の記憶を持たない自分にとっては産み落とされてから全ての記憶。
それら全てが彼女と共に有った。
その彼女に向かって伝える。
「世界はもう溺れていて、リソースは奪い合う以外に確保する手段がない。
でも本当はそうじゃないんじゃないかって思うんだ」
「人間の可能性とやらの賛美か?
人間なんて結局物理的に容積の上限が決まった演算機だろう?
その程度のモノが持つ内的宇宙など、膨大であっても決して無限などではあるまい?」
「うん。“僕”だってそう思う。人間なんて無邪気に信じられるほど、“僕”は良い思い出もないんだから」
だって、僕が会ったのは“良い人間”ではなく、“良いアーキタイプ”だけなのだから。
「でもね。たとえリソースが有限でも、その上限はもっと広がっていくんじゃないかって思うんだ。
いや、広げていけるんじゃないかって」
「存外ロマンチストなのだな。だがそれは嫌いじゃない」
彼女から『嫌いじゃない』といわれたら、それだけでその希望は意味があったのだろう。
そんな僅かな希望を胸に、人は未来へ向かっていけるのだ。
「まずは君の名を取り戻し、タイムリミットの二週間を突破するところからか。
いつまでも『君』というのも味気ないし、とっとと思い出してほしいものだな」
「まあ気楽にいくよ。大体なんとかなるものさ」
ここからはまた戦いの日々が続くのだろう。
今日上手くいったからといって明日もそうなるとは限らない。
それでも生きていこう、この世界で。
生きていこう、彼女と一緒に。
遠い山の裾野から朝日が顔をだしていた。
「今ここからが、君と私の新しい世界だ」
そうして彼女は振り返り、朝日を背にこう告げた。
「ようこそ、我が後援者≪Hellow, My Angel≫」
そうこれは、たった二人から始める、世界を書き換える物語。
Hellow, My Angel @96u
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