第4話「ああん?また駄女神さまか」


 召喚陣の上で膝をついた黒装束の男はこう言う


「拙者、下忍と・・・って駄女神じゃないか、また何かやらかしたんですか?」

『駄・・・』

「駄女神呼ばわりが嫌なら毎回これが最後と言って20回も召喚しないでくれ、管理世界の数で召喚回数を割ったダメ神ポイントでぶっちぎりですからね」

『最初はきちんと敬語で接してくれてたのに・・・中途半端な敬語は心が痛い』

「安心しろ、もうすぐタメ口になる予定です」

『安心できない~』

「んで今回はなにやらかしたんですか?」

『聖女候補の子を守って欲しいの、最近神託できる子が少なくて困ってるのよ』

「『聖騎士山下』向きの仕事だと思うんだが・・・」

『あまり派手なことになると困るのよ、だから影から守ってあげて、お願いね』


 そう言うと足元に魔法陣が出来上がっていく、引き受けるとも言ってないし報酬のチートも貰ってない・・・相変わらずこの駄女神は人の話を聞かないな、まぁいい今回はアフターサービスって事にしとくか・・・



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「おお、異世界の勇者よ、この国をお救うためよく来てくれた」


 口上の前に言い切られた・・・お前の国の為じゃねーし、こいつが王様かな?普通謁見の間で召喚するか?


 調度品が無駄に派手で着ている物も豪華で並んでる王族や貴族は肥え太って下賤の物を見る目でこっちを値踏みしている、典型的なあかん方の召喚だ。


「勇者の証である腕輪を下賜する、常時身に付けると良い」


 どこからどう鑑定しても隷属の腕輪じゃないか、多少豪華っぽく偽装はしてあるが・・・どうしてくれよう? 効果は?・・・王家の言う事を聞くってやつか、目の前の王様に付けたらどうなるかな?

 腕輪を受け取ると『縮地』を使い王の前に行き、王の腕に嵌める。


「無礼者、こんな物を付けおって、衛兵、この者を取り押さえろ」


 こんな物ってそんなもの付けさせようとするなよ、しかも効果ないのかよ!つまんねぇ・・・近づいて来る者に『影縫い』を打ち込み、謁見の間を後にする。

 ついでに前回目減りした物資を補給するため宝物庫、食糧庫、武器庫などで全ていただいていく事にしよう。




 町で情報収集も終えると、この国やっぱり隣の国に攻め込む準備の一環で勇者召喚したっぽい、隣の国も迷惑だろうから軍からも武器防具薬品類も掻っ攫っておいた。


 ツケが住民の税に跳ね返る前に隣国に攻めてもらえるように情報の流布は忘れずにしておいた、これで何とかなるだろう。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 さて、駄女神からもらってる情報を確認してみるか。


 名前はエーファ13歳この町の孤児院に居ると、明日神託を受けてフェオ教国の大教会へ向かう事になるっと、そこでふと違和感を感じた、普通聖女候補ならフェオ教国から迎えが来るはずだよな?所詮駄女神か・・・教国側に神託受けれる奴いるのか?それによってこの依頼のハードルは跳ね上がる。


 安全に届けるだけでいいバージョンと、教国にエーファの神託を信じてもらう為の策が必要になるバージョンだ。

 現状で確かめる術が無いため、エーファに伝えていいかどうかも迷う、下手すると神託を信用しなくなる可能性もあるからだ・・・

『隠密』をしつつ孤児院の様子を見るとあまり状態が良いとは言い難い有態に言えば崩壊寸前と言って差支えない、エーファと呼ばれる子を見ると美少女と言える容姿をしていた、長く伸ばした髪は青く、手彫りの女神像のような物に一生懸命祈っている、まだ幼さの残る顔は真剣そのものだった。

 駄女神のことだ、明日と言っていながら今晩信託しかねない、と夜間にも見守ることにする・・・徹夜決定である。昔は三徹くらいは平気だったんだが最近ちょっときついんだよなぁ・・・


 深夜、エーファが「ひゃい!」とか言って飛び起きた、手彫りの女神像に祈ったと思うと


「神父さまーーーーーーーーー」


 夜中だと言うのに神父を起こしに行ったようだ。


 翌朝からエーファは旅の準備をし始めたと言っても手提げかばん一つだ・・・変装で好々爺のふりをし、孤児院に向かい神父と面談する、表向きは孤児院への寄付を装いエーファの情報も集めていく。

 寄付も多めに渡し、旅費の足しにするようにも伝えた、エーファにも会い服を買うようにと小遣いも渡し、孤児院を後にした。


 さぁ忙しい、その格好のまま冒険者ギルドへ向かう、エーファが旅に出ようとしている事を伝え女性冒険者を含む高ランクPTを護衛に着けるよう頼んだ、相場より上乗せして支払い連絡は孤児院へするようにしておく。


 これで何とかなるか?念には念を入れて準備を開始する・・・心配なのは護衛力だ女性含むとギルドには伝えておいたがこの世界の冒険者弱いからな・・・

 護衛の手としては気が進まないが一番の安全策を取ろう、『隠密』『気配遮断』『魔力遮断』『広範囲索敵』そしてこっそりと『影潜み』エーファも含めて『シャドウオートカウンター』これで文字通り影から見守ることができるな。


 旅装やバックパックなど揃えたエーファの元に女性ばかり5人の冒険者が護衛としてきた、うーん・・・普通の冒険者だ、フェオ教国への旅は順調に進んでいる、エーファ達からすれば盗賊も出ず強いモンスターも出ないと楽な旅のはずだ、なぜなら俺が全部埋めてるからな。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 フェオ教国に入り大教会の町についた。女性PTと別れた後、高級な宿を取っておいたと孤児院に行った老人の双子と言い切った俺の勧めで、そこで休んで翌朝行くように伝えた、これで時間が稼げる。


 エーファが寝た後教会に潜り込んでみたがやっぱりこっちの方には神託届いてねーじゃん、駄女神ェ


 翌朝前もって用意しておいたドレスをエーファが着せて教会へ向かってもらった、俺は当然コッソリ影の中、門番が神託を聞いたという言葉を信じようとせず、エーファも諦めて宿に戻ろうとしたがそうはいかん!『召雷』‼ 哀れエーファを追い返した門番は黒焦げである。

 もう一人が大急ぎで中に入っていくと小太りの神官が出てきた。


「司祭を務めているロリーと申します、神託を受けたと聞きましたが詳しくお話を伺いましょう」


 とエーファを貴賓室まで案内した、名前はアウトっぽいやつなのに紳士だな、中にはシスターかメイドか判断しにくい恰好をした女性が二人、ロリー司祭は女性たちにお茶の用意を頼みエーファに腰掛けるよう勧めた。


「まずお尋ねしたいことは二点です、一つ目は女神さまの神託の中身、二つ目がさっきの落雷の件です」


 エーファはつっかえながらも女神さまから神託が有りフェオ教国の大教会まで行くよう言われたこと、門番に偽物と言われて帰ろうとしたら落雷があったことを話した。


「わかりました一司祭である私には荷が重いようです、客室を用意いたしますのでそちらでお寛ぎ下さい、枢機卿へ私の方から伝えておきます、教皇とお会いできるかは約束できませんが二、三日逗留していただくことになりますので宿を取られているのでしたら荷物を取ってこさせます」


 ロリー司祭よく気が付く男だ、名前はアウトっぽいが・・・


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 荷物を受け取り普通の客室より豪華な部屋に入れられエーファは少し戸惑ったようだがテーブルに手彫りの女神像を置き、旅が順調に終わった感謝を伝えていた、マジええ子や。

 屋根裏に二人、壁の向こうに五人か・・・害意は無さそうだから諜報用か影の護衛か・・・盗聴用の小蜘蛛を影から出しそいつらに付けておく。

 一人減ったな、小蜘蛛からの会話を聞く限り報告であろう、その後三人が動き雇い主に報告していた、枢機卿×3、大司教×4か気配が増えたり減ったりしていたがここの様子を気にしているのは七名のようだ。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 何事もなく三日が過ぎ、痩せた大柄の男が訪ねてきた。


「約束も無しにすまんな、儂はホーノフと言ってフェオ教国で教皇を務めている物じゃ、少し話を聞かせて貰ってもよいかの?」


 エーファは神託の話、旅の話、孤児院の話などをしていた。


「話は分かった、だが聖女はそう簡単に任命できるものではないが前向きに検討しよう、ではまた神託があった時は教えてもらいたいのだがかまわないかな?」


 これを聞いてエーファも安心したのか元気よく返事をし、ホーノフ教皇も席を立った。


「影で守っている君にも話を聞いてみたいのぅ」


 ぼそりと呟きホーノフ教皇は出ていった。魔力も気配も遮断してるっていうのに何者だあのジジイ・・・


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ホーノフ教皇、夜分失礼いたします」

「構わんよ、話が聞きたいと言ったのは儂の方じゃからの、しておぬしは何者だ?あの娘とどういう関係がある?」

「簡潔にいうと女神の尻拭いですよ、あの子にが神託を受けれるのは良いが大教会側に神託を受けられる人間がいないって言う問題点に気が付いていないですからね」

「それで、あの子が聖女になったらおぬしが文字通り影から彼女を操るのか?」

「いえいえそんな面倒臭い事しませんよ」

「面倒臭いか、わかったあの子は嘘をつけるような娘ではないしおぬしも悪い存在でないことは神力が出ているからわかる」

「あ~・・・そう言えば長い事ソレ見れる人いなかったからうっかりしてたわ・・・」

「儂も長い事見とらんでびっくりしたわい、影から濛々もうもうと神力が溢れていたからの」

「タブン女神さまのがくっついてただけじゃないっすかねー」

「ほうほう、女神に会った事が有るのか、して女神はどのような感じじゃった?」

「一言で済ますなら駄女神ですな」

「たしかにほややーんとしてぼーっとしててどうしよう~とか泣いていそうじゃな」

「あれ?知ってるの?」

「儂も昔は神託受けとったからの~」

「なるほど、んじゃエーファはホーノフ教皇さんに任していいか?」

「構わん、というよりこっちの都合で世話をかけたようじゃな助かったよ、そういえば名前を聞いておらなんだな」

「俺は忍者、それ以上でもそれ以外でもないさ」

「わかった、エーファには何も伝えんでよいのかの?」

「ああ、最初からあの子の周りには俺は居なかったって事にしてくれて構わない」

「褒美とか報酬とかも」

「ああ、それなら一個だけ、エーファの居た国、なんだが武力進攻しようとしたからお灸据えといた、その煽りを民が受けるかもしれないから民生用で補助してやってそれか周りで民を吸収してやってくれ」

「ほっほっほそれは高くつきそうじゃの、わかったあの阿呆国王にはこっちでも釘を刺しておく」

「それじゃ俺の仕事も以上だ」


 そう言うと忍者は暗闇に溶けていった。


「さて、枢機卿への根回しから始めるかの、忙しくなりそうじゃ」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 教国の酒場で一人の青年が酒場でワインをあおっていた。


「くあ~一仕事終わったぁ、おねーさんワインお代わり、あと鳥の焼いたのもお願い」

「美味しそうに飲むねぇ、はいワインのお替り、鳥は少し待っとくれ」

「ふ~次の召喚まで少し羽を伸ばすかな、『倉庫』の補充も必要だなぁ」


 こうして忍者は次の召喚まで仕入れをしたり自分を召喚した国への嫌がらせを始めるのであった。





 とぅーびぃーこんてにゅー


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