第5話外伝「正統派?勇者ですが何か?」

 

『センスイービル』『センスライ』

 召喚された佐賀根は『無詠唱』で二つの呪文を使用する。


「おお、異世界の勇者よ、この国を救うためよく来てくれた、勇者の証である腕輪を下賜する、常時身に付けると良い」


『センスイービル』反応有り

『センスライ』反応有り

『看破』隷属の腕輪、装着すると対である支配の指輪の支配下に置かれる


(ここまで真っ黒な国に召喚されるのも珍しいですね、それに謁見するところで召喚って『狂戦士バーサーカー』に当たったらどうするつもりなんでしょう?)


「どうした、早く腕輪を付けるのだ」


 腕輪を手に取る様子すら無い佐賀根にイラついた声で命令してくる。


「お戯れが過ぎます、隷属の腕輪とは・・・私を試すにしてもやり方と言う物がございましょう」


 隷属の腕輪を見破られ苦々しい顔を隠そうともしない国王は続ける


「おい、そいつにサッサと腕輪を嵌めろ、痛めつけても構わん」

「なかなか極まってますね・・・『瞬着』っと正当防衛なのは先に宣言しておきますよ、私を試したと言う大義名分をそちらが捨てたのですから」


 そう言うと佐賀根は兵士たちに向き合うが様子がおかしい、貴族や王族が謁見の間で剣を佩いていないと言うのは納得できるが呼ばれた兵士の装備が皮の鎧や鎧下、持ってる武器がナイフや木の棒などだったからだ。

(殺すつもりが無い?いやそれはあり得るだろうが何かちぐはぐだ)

 剣を納め兵士の棒を奪い取り打ち据えていく、物の数分ほどで兵士たちは無力化された。


 瞬着を解き周りを見渡すが皆固まってしまっている、止められる者も居ないため城から出ると周りを確認する、『サーチ』を使い周辺を探るが追跡者は居ないようだった。

 道具屋や武器屋など見て回り武器が品薄と言う事で不要な剣を二振りほど売り払い当座の資金とした。


 酒場に行き、耳に入った情報としては

 ・戦争準備税とやらで税が重くなった

 ・こっちが攻める方かと思ったら攻められる方だった

 ・他国から民生用の物が入っているらしくそっちの方が景気はいい

 ・王都では他国に逃げる者も多い

 ・引っ越すとしたらどこの国が良いか

 ・最近王都で黒装束の魔人が出没しているらしい

 ・王家が武器を取り上げると言う噂が立って冒険者などはすでに他国に移動してしまった


(これはこのままこの国に留まると碌なことがなさそうです、とは言え逃げるにしても情報が少なすぎますね、今回は勇者役じゃないから多少こう言うズルしても良いですよね?)


 そう自分で納得し盗聴用子蜘蛛も放っていく、夕方には情報の整理も粗方終わっていた。


 くるくると手に持ったシャーペンを回しながら佐賀根はゆっくりと考える、治安の安定ならフェオ教国がダントツの一位だ、次点がその両隣ライン王国とアバロッソ商人連合国だ、ライン王国はダンジョンが多く、温泉があるとも聞いたが山奥にある秘湯と言う感じの温泉だそうな、仕入れならアバロッソ商人連合国なのだが残念ながら仕入れる資金を用立てる必要があった、そのためダンジョンの有るライン王国が最適解だなと翌朝から向かっていった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 途中大規模な山賊が襲ってきたがあっさりと殲滅、逃げ出した盗賊を追いかけねぐらを強襲しお宝を分捕った・・・のは良いがこの枢機卿のおっさんどうしよう?


「次回の教皇選で有利に立つための資金を山賊を装い蓄財しておいたのに!貴様のような小僧がここまで来たのが運の尽きだ!であえ~であえ~!!」


(全員叩き切ったはずだが隠してる兵士でも居るのかな?)


「何故だ!何故誰も来ない?私の計画は完璧だったはずだ!どこに狂いが生じたんだ!」


 生かして町まで連れていくとマジで枢機卿だった場合お尋ね者にされかねない、だがこのまま放置すれば被害者も増える・・・生かしとく意味ないな、とねぐらの洞窟をでて『起爆』地響きと共に洞窟は崩れていった、最深部でいる枢機卿を飲み込んで・・・


(こっちでの武器の調達も出来たし、この世界で変わった武器とか有るかなぁ?いくつか前の世界で見つけた『杭射出機能付き盾パイルバンカー』は最高だったけどなぁ・・・)



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ライン王国に入り、武器や防具を見て回ったが彼のお眼鏡に掛かるものは無かった、ぶつぶつ言いながらもギルドで冒険者となり、ダンジョンに潜っていった・・・


「そういえばこの前登録したばかりの小僧さっぱり見ねぇな」

「その日のうちにダンジョンに特攻噛ましたそうだぜ、情報遅せぇな」

 そんなバカ話で盛り上がってる中さっき噂に有った小僧が買い取りの窓口にどんどん魔物の素材を出していく。

「いやー食料が思ってたよりも少なくてあんまり潜れませんでしたよ」

 そう言うイケメン小僧に他の冒険者たちは((((食料が潤沢ならどこまで潜ってんだよ))))と深部に近くで採れる素材を見て感じていた。


 そんな中、佐賀根は宿屋でドロップしたとある盾に頬擦りしていた。

「いやードリル付き盾なんてなかなかいいものがあったよ」

 と夜が更けるまで堪能していた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 新入りと呼ばれる期間などほぼなくいくつかのダンジョンをクリアした佐賀根はこの世界で冒険者のランクで最高位であるブラックにまで登り詰めていた。




(ドリルしか収穫は無かったなぁ・・・お休みがてら湯治にでも向かいますか)


 秘湯と呼ばれる温泉には猿のほかに先客がいた。


「いよぉ『正統派勇者佐賀根くん』もしかして謁見の間で隷属の腕輪薦められた~?」

「まったく、相良さんが原因ですか?アレ隷属の腕輪って」

「信じられないだろうがアレがあの国のデフォだ、まぁおかげでだいぶ『倉庫』の中身も潤沢になったがな」

「王都で黒装束の魔人が出没しているって相良さんの事だったんですね・・・」

「魔人じゃない、忍者だ」

「ハイハイ、わかりましたよ」

「じゃあちょっと・・・悪巧みしようか?」

「・・・」



 一年もしないうちにブラックランクの冒険者を旗頭にレジスタンスが起こり、かの国はあっさりと滅んだ・・・




「ぉ?俺はまた呼び出しのようだな、一年近く休暇があったからなかなか楽しめたな」

「国一つ滅ぼすのが休暇ですか、忍者と書いて国崩しとでも呼びましょうか?」

「じゃあ俺は正統派勇者と書いてマニアックウェポンコレクターと呼んでやろう」

「な!何故そのことを」

「『聖剣が日本刀じゃないとやるきがでない~』だっけ?」ニヤニヤ

「くっ、殺せ」

「はっはっは、くっころいただきました、またな~」

 と魔法陣が消えずに佐賀根も飲み込んでいく。

「フフフ、次も一緒なら口上中に本名をフルネームで言ってやろう」






「拙者、下忍ともう・・・」

「なにやってるんですかぁ?相良香さがらかおるさん」

「ごふぉぉ!っさらっとフルネームでくぁwせdrftgyふじこ」

「はっはっはさっきのお返しですよ」

 召喚の間では唖然としている神官たちが口を挟めないまま口喧嘩を見守っていた・・・



 とぅびぃこんてにゅー


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