第7話 夏

夏休みは退屈だった。

今日も汗だくで目を覚ます。日はとっくに上がって、太陽がカーテンを焼き付けている。

ミーンミンと鳴きわめく蝉。耳障りだ。鳴かぬ蛍を見習ってほしい。

のろのろと起き上がり、シャワーを浴びて目を覚ました。

頭を拭きながらカレンダーを見る。7月20日。赤い丸がついている。

そうか、今日は。

Tシャツとデニムを着て家を出た。日差しに背中を焼かれる。


20分後、おれは地元の市営球場にいた。

高校野球地区予選の会場。今日は隣町の東高が二回戦を戦う日だった。

カキーン、爽快な音を立てて白球が空を飛ぶ。

スコアボードが5-1に変わる。七回裏、東高の攻撃。

一人スタンドの隅に座って、去年は手に汗を握って見ていたはずのライバル校の試合運びを遠くの出来事のように見下ろした。


東高はそのまま勝ち上がり、別の学校の試合が始まる。自分が今あそこにいたら。そんな空想が止まらない己を悔いて席を立った。

来るんじゃなかった。

「小西?」

「……あ」

お久しぶりです、と頭を下げた。球場の廊下、東高の主将がそこに立っていた。

「二回戦突破おめでとうございます」

「おー。……ちょっといいか」

後ろにいた部員たちに目配せをして先に行かせ、彼はおれを廊下のベンチに座らせた。

「何があったんだ?出てこないだけならまだしも廃部って。中西に聞いても何も言わねーし」

「いつの話ですかそれ」

「先月の中旬。エントリーないのに気付いて電話した」

六月。瀬尾さんに罵倒されてた頃か。

「大西先輩が事故って出場停止です」

「だから、停止ならまだしも廃部ってなんだよ」

「……野球できない野球部に人は残らないでしょう?ただでさえ人数ギリギリでしたし」

目を見て言うことはできなかった。都々逸部の説明をする気にもなれない。きっと笑われる。長くなる。億劫だ。

「わかんねーけど、例えばだけど、大西がダメならお前が投げればよかったんじゃねーの?」

「そうですね。続けたかったらそうすべきだってわかってはいたんです」

何度も考えた。誰か一人連れてきて、おれが投げて、中西先輩が受けて。きっと大西先輩はベンチで見守ってくれる。平田と一緒に。

「でも、どうしても言えなくて」

中西先輩に。どうしてそんなことを。

「それに、おれには無理ですよ」

一試合140球。投げ通せる気がしない。少し持ったとしてもきっとすぐに乱れて打たれる。三回戦突破なんて。

「お前は馬鹿だな」

「そうですね」

そうだ、おれは馬鹿だ。言えなかった癖にまだ悔やんでる。

いたたまれなくなって立ち上がった。せっかくの勝利に水を差したくない。

「気にかけていただいてありがとうございます。でもそれなりに楽しくやってるんで大丈夫です」

背を向けかけて、あ、と振り返った。

「三回戦。突破してくださいね」

「目標が低い」

言った覚えのある言葉に笑って、彼に手を上げて別れた。


気が紛れることをしていたい。そう言った平田を思い出していた。何をしているのか。今日、こんな日に。ちゃんと気が紛れているか?

考えながら歩いていると、球場を出たところで見知った顔を見付けた。あちらも気付いて足を止める。

「来てたのか」

「はい」

廃部の原因の主はいつも通り飄々としていた。首筋に浮いた汗がTシャツに落ちてにじんでる。手にしているコーラのペットボトルは空になっていた。

「中西先輩は?」

「途中で帰った」

「そうですか」

帰った。理由は知れている。たぶんおれと同じ、未練が消えないせい。

二人で球場を背にして歩き出した。駅まで少し。空が青い。

「東高勝ちましたね」

「お前最初から見てた?」

「いえ、途中からです。どうだったんですか?」

「はじめは浮わついてたけど、三回に満塁凌いでから落ち着いた。制球もよかったし、あれはキャッチャーの腕だな」

大西先輩が不思議なくらいいつも通りに言うから、なんとなく気が抜けた。

試合見とけばよかった。ちゃんとはじめから。

「キャッチャーの腕、うちも負けてないはずですよ」

「ピッチャーが投げられないんじゃ持ち腐れだよな」

飄々と。飄々と。

「自業自得ですよね」

「わかってるよ」

空が青い。足を止めずに前に進む。太陽に背中を焼かれながら。


リハビリがあるから、と言う大西先輩と別れて学校へ向かった。部活は明日だがどうせ暇だ。歌会のために準備でもしておこうと。

用意といっても大したものはない。ただ、明日出すはずの都々逸ができてなかった。

明日は題詠、お題は『空』。

球場で見た空を思い出した。今も窓の空に広がってる。


空を見上げて僕らは今も

なくしたものを数えてる


あえて「僕ら」と書いた。

馬鹿なのはきっと、おれだけじゃないから。


提出作を用意して短冊を作る、やるべきはそれだけの簡単な作業だった。だからその後はだらりと時間を潰すことになる。来る途中で買ってきたジャンプを広げてサイダーを口に運び、コンビニのサンドイッチを開けた。じわりじわりと鳴くセミに混ざって外からサッカー部の声がする。

サッカー部はとっくに地区予選を突破して、もうすぐ全国総体の一回戦。グランドから伝わってくる熱量を感じて窓からサッカー部員に視線を落とす。

元野球部の四人はすっかり馴染んでるようだった。走り込みをしている一年たちの横、南野の金髪が揺れてゴールを揺らす。汗だくでもう一本と怒鳴る卜部。

うらやましいとは思わない。でも。

「うざ」

いつも南野に抱く苛立ちをそのまま口に出して、目をそらした。

携帯電話を手に取る。プルルルル。少し鳴って、応答あり。

「どうしたの?」

いつもと同じ平田の声。

「何してた?」

「麻美ちゃんとお茶。小西は?」

「学校。松崎見てた」

「またそんな不毛なことを」

電話の向こうの笑う声。

「なあ、平田」

「なに?」

「体がなまってる気がする」

「そうだよね」

「プールでも行くか」

「そうだね」

電話の向こうで何かを話す声がする。そして。

「じゃあ、木曜日。十時に記念公園のゲート前で」

「あ?今週?」

「うん。麻美ちゃんとあっくんも来るから。よろしくね」

それだけ言って電話は切れた。

なんだよ。元気じゃねえか。

なんだか少しホッとして、もう一度窓の外のサッカー部に目をやる。おれに気付いた松崎が手を振るのを、真面目にやれとジェスチャーで返した。


そして視聴覚室を後にする。廊下を歩いていると白いものが目の前を横切った。

その隙間から東の顔が。

「あ」

なにやらヒラヒラとした白い布を被っている。

「なにやってんの?」

「いや、夏だから……怪談でもやって涼しくなろうかと」

なるほど、お化けのつもりか。美術室を覗くと、奥で影野がマスクにやけにリアルなでかい口を描いている。口裂け女。

……そうだ。いいこと考えた。

「東。こないだの貸し、返せ」

「えっ?!」

美術室に上がり込んで影野を呼んだ。三人で頭を寄せて密談。

「怪談じゃなくて肝試しやろうぜ。それ使って」

影野が手にしているマスクを指して提案する。

「あー、肝試しかー」

うーん、と腕を組む東。影野が東の真意をおれに伝える。

「それもちょっと考えたんだけど、美術部員だけじゃつまんないなーって話になってさ。ネタがわかってたら面白さ半減だし」

なるほど。それは一理ある。

「仕掛け側と参加側は完全に分離してないと面白くないよな。美術部が仕掛けに回ってくれるなら人数集めるよ」

「でも、うちらでできることは限りがある気がする」

「そうだね。何か作るのは得意だけど自分を飾るのはあまりやったことないし。そういうのは演劇部のほうが得意そう」

「あー、そうか」

わかった、と立ち上がった。

「行くぞ東」

「え、どこに?」

「演劇部だろ」

「いきなり?!なんなのそのフットワークの軽さ!心の準備が!」

「ごちゃごちゃ言うなよ、貸し返すんだろ。かわいい後輩のために」

「えええーちょっと!影野!!」

「行ってらっしゃーい」

ひらひらと手を振る影野に見送られ、東を引きずって演劇部の部室の扉を叩く。

「浅井」

そこにいた演劇部員に声をかけた。平田と同じクラスの浅井光司。ちょっと、いや、かなり変わった奴だ。

「ひさしぶり。ナポレオンのオルゴールみたいな声だね、小西」

こちらを向いてわけのわからないことを言う。おれはいつも浅井の言ってることが半分もわからない。

「頼みがあるんだけど」

「王様の頼みなら聞かないこともないよ」

「誰だよ王様って」

言って、隣の東を見やる。

「美術部の東。知ってるよな?」

「書いてあることくらいは、おそらく」

よくわからないけど、たぶん知ってると言う意味。まぁそうだよな。東は美術部長だし。

「文化祭はまだ先だし余裕あるだろ?肝試しやろうぜ」

お化け役で協力しろよ、得意だろ演劇部。

そんなおれの提案に浅井は頷いた。悪くないね、と。

「演出に必要なものは美術部が作って、なんなら演劇部の備品の衣装とか貸してやって。あるといいよな?東」

「そだねー、多少手を入れてもいいならなお助かる感じ」

「演劇部はそれ着たり使ったりして脅かす係な。美術部もやってもいいし、その辺は任せる」

「小西は参加側?」

「そのつもりだった、おれ作るの出来ないし。いいか?」

「構わないよー。相手が都々逸部なら脅かしがいがあるね」

「ほどほどにしろよ」

おれと東のやり取りを見て、浅井がくっと笑った。なんだ?と顔を見ると首をかしげる。

「小西はどうやって生き返ったのかな」

「あ?」

「一度殺されただろう?野球部と一緒に」

殺された。死んだ。おれが?

「生きてるよ」

「今はね。誰かが水をやったみたい」

水を。誰が。

顧問と部員たちの顔が浮かんだ。どう返したらいいかわからなくなる。

「……そんなことより。どうする?」

「やる。王様の頼みだからね」

「だから誰だよ王様って」

「小さな城の持ち主。反乱軍とも言う」

意味がわからない。まあ、王って言うくらいだから中西先輩のことだろう。勘違いしてくれてるならそれでいいや。

「じゃ、頼むわ」

言って、二人と連絡先を交換した。いつでも呼べ。どうせ暇だからと。


翌日、部活の日。歌会のために都々逸部員が第二視聴覚室に集まった。

八人全員、プラス顧問。三年は参加自由なはずが、今まで一度も欠けたことはなかった。

部長、と促すと、大西先輩がそれらしく第一声。

「今日は先週言った通り題詠やるぞ。みんな考えてきたか」

はーい、と答える部員たち。それぞれに詠んだ都々逸をさゆり先生に提出する。先生はおれたちに背を向け、それをささっと短冊に書いていく。

部員八名、プラス顧問。全部で九首。

「はーい、じゃあ並べるよー」

先生の白い指先が短冊を並べるのを目で追った。


【一】

白く走った飛行機雲が

軌道に見える夏の午後


【二】

空が呼んでる、今でも少し

思い出すよと君の声


【三】

夏が来たよと太陽告げる

心が躍る青い空


【四】

まっさらな空の青さが今妬ましく

靴を投げれば明日は雨


【五】

色即是空が無意味なほどに

君の吐息が気にかかる


【六】

顔の赤みを夕陽のせいに

今はこのまま語らせて


【七】

空を見上げて僕らは今も

なくしたものを数えてる


【八】

目を反らす ラムネ飲み干すお前と空を

仰ぐ揃いの喉ぼとけ


【九】

心残りを空っぽにして

吸い込まれてく蒼い空


自分の都々逸が七番目にあることを確認しつつ、他のに目を通す。ここからは、どれが好きか、その理由、選評なんかを話す時間だ。

とはいえ好きを語るのは楽しいけど選評は難しい、そんな見解で一致はしていた。だからいつも好きなものの話。

「私これ好き!」

真っ先に二葉さんが声を上げ、九番の短冊を手を取った。

「吸い込まれてく蒼い空!きっと空を見上げてるのね!!心残りってなに?!という想像の余地があってさらにいい!!」

「空を見上げて、なら七番もいいですよね。何をなくしたのか、とかこっちも想像の余地がある」

「ちょっと九番と似てる?」

「似てるね」

平田と佐倉が頷き合う。平田にいいと言ってもらって内心嬉しかったが、バレないように無表情で通した。

九番とは確かに似てる。心残り。ちらりと中西先輩を見た。もしかしたら、と思った。

「おれはこれかな」

そんなおれの視線には気付かないまま、中西先輩が五番の短冊を指した。

「色即是空、って面白い。『空』でその発想はなかった。難しいことを考えて気を反らしてるような感じも出てるし」

「あー、素数を数えてるみたいな」

同意しながら、詠んだのは大西先輩かなと思った。そういう時ってある。よくある。わかる。

「トマっちゃんは?」

「うーん、悩みますけど・・・これですかね」

二番を指して、はにかむ当麻。

「空が呼んでるのに聞こえてるのは君の声。空耳聞こえるくらいなんだなーと思います」

「いいよね。恋!!」

笹谷が拳を握って力を込める。でも、と平田が解釈を添えた。

「恋とは限らないよね?思い出に残る人なら誰とも読める。もしかしたら死んじゃった人かも……空だし」

「うわあ切ない……!!」

当麻が声をあげた。こうやって考えることができるから、想像の余地のある都々逸は面白いと思う。

「恋でいうなら六番も結構いいよな」

大西先輩が指差し、みんながうんうんと頷いた。

「何を語ってるんだろうね。会話が途切れないように一生懸命なのかな」

「かわいい!!!」

佐倉の声に二葉さんが力を込めて同意した。

おれは四番が好きだった。好きというか、自分と同じ気持ちだと思った。

空の色が妬ましくて、靴を投げれば明日は雨。誰も悪くはないが踏んだり蹴ったり。同じような気持ちでいる自分。だからわかる気がした。

反面、三番が能天気な歌に思えて少し苛立つ。心が躍る青い空。おれにはそんな風に見えない。 人の気も知らないで、と。

さゆり先生が手を叩いた。司会進行役。

「じゃあ、みんなひとつずつ一番好きなのを選んでみて」

「私は七番だな」と平田。

「おれは六番」と大西先輩。

「私は三番が好き」と佐倉。

「私は九番」と笹谷。

「おれは……四か、五」と言うと、

「えっ?!ふたついいなら私だって一番も好き!!」

二葉さんが身を乗り出した。近い。

「わかりましたって。じゃあ四番」

「見事にバラけたね。一応九が二票かな?」

言いながら、みんなが手にとってバラバラになった短冊をもう一度並べ直す先生。

「どれが誰か、予想もしてみようか」

「うーん。全然わかりません」

みんな困ったように眉を潜めるが、笹谷が八番の短冊をゆっくりと持ち上げた。

「でもこれは……なんとなく、わかるような」

「揃いの喉ぼとけだしね……」

みんなの視線が二葉さんに集まる。

「えっ?!なに!!わかんないじゃん!!!もっと切ないやつかもしれないじゃん!!!!」

「図星か」

「図星だな」

大西中西コンビが頷き合う。うっ、と言葉を失ってる二葉さん。さゆり先生が笑いながらもう一度手を叩いた。

「はい、じゃあタネあかししましょう。一番の人!」

「はーい。おれ」中西先輩が手を上げる。

「二番は?」

「私です」と佐倉。

「三番は、私でした。わかったかな?」

さゆり先生が笑う。

心が乱れた。意外だった。いや、言われてみればそんなことはない。とても先生らしい。

ぐるぐる考えているうちに進行は進む。

「四番は誰かな?」

「はい」当麻が遠慮がちに手を上げる。

「五番は?」

「はい」と平田。

「六番は?」

「はーい!」と笹谷。

「え、六番笹谷?」

大西先輩が笹谷を見る。そうでーす、と笑ってピースをする笹谷。

「これ、笹谷が詠んだって思うと……恋の歌じゃなくて別のものに思えてきた」

「だな」

本当だ。ろくなこと語ってない気がする。

「なんですかーそれ!!恋ですよもちろん!こ・い☆」

言いながら中西先輩と大西先輩を交互に見る。ほんとかよ、と大西先輩が笑った。

「次、七番は?」

「はい」

手を上げる。隣で平田が驚いたようにこっちを見る気配。

「八番は?」

「はい!なにをかくそう!この私!!」

「いや、隠せてないから」

「バレバレだから」

手を上げた二葉さんに三年二人が総ツッコミ。

「てことは九番は……」

「おれです」

大西先輩が挙手、これで全員。

そっか。あれ大西先輩か。先輩にも心残りがあるのか。

平田が大西先輩を見た。おれの時と同じ視線。少し躊躇して口を開く。

「小西と大西先輩のが似てるのは、同じ心情を詠んだんでしょうか」

「あー、まあ。そういうことだな」

「……ですね」

野球のことだ、とは言わなかった。言わなくても知れている。

ほんの少し、沈黙が流れた。みんなもわかっていること。どうしようもないこと。

「二葉さんは?揃いの、ってことは一緒にラムネ飲んでるんですか」

こういうときは、とムードメーカーに話を振った。きっと空気を変えてくれる。

「それでもいいんだけど、飲んでるのは一人で片方がそれを見てるって感じで詠んだよ!ごくごく言う喉元を見てどきどきするのいいよね!でもじっと見てるとばれちゃうから目を反らすのよ!萌える!!」

「つまりおおなか……」

「おーおなか!おーおなか!!」

ああ、うるせえ。よかった。空気が変わった。

「はーい、ではタネあかしと解釈を聞いたところで今日はおしまい。おもしろかった?」

「おもしろかったです。意外性もあって」

「ほんと、意外と誰が詠んだかわからないですね」

「二葉さん以外はね」

「つ、次は意外性を狙うべき……?!!」

「いいから、そのままでいいから」

大西先輩がなだめて、みんな笑って、空の話はそこまでになった。片付けて自由時間、それぞれがノートに向かって創作をする。

頬杖をついて窓の外を見た。空。

「あ、そうそう。今日言おうと思ってんだった」

さゆり先生が短冊をまとめながらおれたちを見渡した。ひとつ、提案を投げる。

「みんなでサッカー部の応援に行かない?」

高校総体、全国大会の一回戦。もうすぐ来る、サッカー部の。

「中西くんは生徒会で行くでしょう?せっかくなら部のみんなで観戦するのはどうかなと思って」

みんながおれを見た。なんだよ。

「いいですね、行きましょう」

大したことではない風を装って、簡単に頷いた。

「いいの?小西」

「顧問のことは敬わないと」

平田はあきれたように笑う。おれはそれを見ないようにして、グランドのサッカー部の声を聞くふりをした。

心が躍る青い空。サッカー部の応援。

先生にとっては、今はそういう季節なんだと思った。


暑い夜。あんたどこも出掛けないの?と母親に邪険にされて自室に戻ると、携帯に呼ばれた。液晶を見る。

着信、平田はる。

「おー。なに」

「明日プールだよ。覚えてるよね?」

「うん。十時だろ?」

待ち合わせ場所の詳細、昼飯はどうするか、持っていくものはこんな感じで、と話す。

なんで渕崎と高橋が一緒なのかとは思っていたが、平田と二人で行くのも変だし、まあいいかと思って黙っていた。

「そういえば、サッカー部の応援だけど」

あらかた話がついた話の切れ間、思い出したように言い出す。

「かっこつけたんでしょ小西。嫌なら嫌だって言えばいいのに」

「……どうせ中西先輩行くんだし」

卜部の全国一回戦。強豪とはいえ毎年二回戦で負けてるから、今年こそは勝ち上がると意気込んでいるのを知っている。中西先輩は何も言わないけど、応援してやりたいと思ってないわけがない。それくらいはわかる。

「小西は馬鹿だね」

馬鹿。最近よく言われるな。

「お前は?いいのかよ」

「私は別にサッカー部嫌いじゃないもん」

「あー、そうだったな」

卜部くんはいいよね、いつかそんなことを言ってた気がする。一年の時だったか。あーゆーのが好きなのかと思ったんだった。

「まあ、いいんだよ。とにかく明日な」

電話を切って、自室の天井を見上げた。

プールか。なんか、高校生みたいだ。


その約束の日、約束の時間。記念公園の一角、夏だけ解放される区画のテーマパークのようなプールにおれはいた。

親子連れやカップルで賑わっている。ウォータースライダーから滑り降りてはしゃぐ声、水をかけ合う声。美人を見つけて目線を持って行かれていると、着替えた二人から声をかけられた。

「小西」

平田は黄色と白のボーダーの水着だった。渕崎も今日は髪をまとめてて、迷彩柄。

「いいじゃん」

「ん?」

「いや」

なんでもない、と濁して前を向いた。じっくり見るには距離が近い。

「じゃ、泳ぐか」

声をかけて行こうとすると、隣にいた高橋がイルカの形の浮き輪を持ってニコニコしていた。

でかい。いつのまに膨らませてたんだ。気付かなかった。

「お前……それどうすんだ」

「乗るんですよ?小西さんも使います?」

「いや、いい。お前乗れ」

言って背を向けて水に入り、頭ごと潜って下を蹴った。

とはいえ混雑しているせいで自由に泳ぐことはできない。思うさま水を掻くことのできない手足を持て余し、すぐに立つ。

振り向くと、イルカに乗ってはしゃぐ高橋が見えた。渕崎がふざけて揺らしている。渕崎もあんな風に笑うんだな。はじめて見た。

ひとしきり泳いで三人の元に戻ると、今度はイルカに渕崎と平田が乗っていた。高橋が引っ張って遊んでいる。

「手伝うか?」

「あっ、おかえりなさい。お願いします!」

二人で従者よろしくイルカを引く。進みながらわざと揺らすとキャーと声をあげ、後ろから水が飛んでくる。

「ちゃんと引いて!まっすぐ!」

「はいはい」

「へー、素直。小西は何?はるちゃんの言うこと結構なんでも聞くの?」

「小西が聞きやすいことだけ頼んでるんだよ。ほら、ヘタレだから大胆なことはできないし」

「なるほどヘタレね」

「そうそう。特に恋には致命的で……」

ぐいっと力を入れてイルカを引いた。油断した二人の体が浮いて水面に落ちる。バシャン!派手な水しぶき。

「ちょっとー!なにすんの!!」

「うるせえよ。油断した方が悪い」

平田がさゆり先生のことを誰かに言うわけないのはわかってる。でも言われっぱなしってわけにもいかないし。

「わー、いいですねえ。水もしたたる麻美先輩!」

「もー。あっくんタオル取って!」

「はーい」

「図星だからって落とすことないじゃない」

「水もしたたる、ならいいだろ」

笑って、三人から少し離れる。水面に身体を預けて浮いた。キラキラと太陽が反射する水面。まわりのはしゃぐ声が遠のく。

「こーにーし」

どれくらいそうしていただろう、平田の顔がおれの視界をさえぎった。眩しくて目を細める。

「そろそろご飯にしよう」

「おー」

ザバッと水しぶきをあげて起き上がり、頭を振った。促されるまま食券を買う。腹も減ってるし、おれはカツカレー。平田はラーメン。

席取っておいて、と言う渕崎に食券を渡し、平田と二人で席を探した。ちょうどよく人が立った四人席を確保して座り、出来上がるのを待つ。

目の前ではいろんな色の華やかな水着姿がキャッキャとはしゃいでいる。なんだか不思議な気分だった。

「プールって、こういうのじゃなくて、もっとちゃんと泳ぐやつだったんだけど」

「たまにはいいでしょ?野球やってた頃には女子とプールなんて考えられなかったじゃない」

「まあそうだけど」

無機質な競泳のプールよりは目の保養になる、それは間違いない。なんとなく居心地が悪いのはいつも野球ばっかりやってて慣れてないから。それだけのこと。

あの子かわいいね。あー、おれはその隣の方がいい。わかる、小西好きそう。そんな会話をしていると高橋と渕崎が食事を持ってきた。

「お待たせしましたー。熱々です!」

「そう、あつあつ。篤弘だけに」

「えっ」

まさかの駄洒落に渕崎を二度見した。

「あっくんあつあつー!」

「あっつあつにしてあげます☆」

アイドルのような決めポーズでふざける高橋。平田と一緒に笑う渕崎。

そうか、渕崎も意外と普通なのかもしれないな。おれが慣れてないだけで。

そこからは聞き役にまわった。文芸部は季刊誌の締め切りが間近らしく、部長である渕崎は大変らしい。

「みんな麻美先輩の顔見たら逃げますもんねー。浦河先輩なんて部活にすら来なくなっちゃって」

「うん、たぶんあがってこないね。あの人は締切が過ぎてからが勝負だと思ってるから」

「意外だね、浦河さん仕事できそうなのに」

「創作に関してはダメみたいよ」

そんな話をしながら食事を終えて、便所に行って戻り、入れ替わりに女子二人が席を立つ。戻ってくるのを待つ間、隣の席で子供が食べてるものが目に入った。

「メロンソーダいいな」

「ほんとですね。あとで食べましょうね!」

「うん」

にこにこと同意してくれる高橋に、ちょっと聞いてみる気になった。渕崎のこと。

「なあ、渕崎っていつもあんな感じか?」

「あんなって?」

「いつも今日みたいに笑うのか?あんなのはじめて見たんだけど」

「うーん、そうですねえ」

首をかしげて少し考える。少し濡れた癖毛の髪が揺れる。

「人見知りなんだと思います。慣れれば笑いますよ」

「人見知り……」

「その結果人当たりがきついのは性格で、たぶん悪気はないんです」

高橋はにっこりと笑った。

「僕も四月に入部してから一ヶ月ちょっとで慣れましたし、小西先輩もそんなに時間はかからないと思いますよ?」

「だといいな」

「大丈夫ですよー」

無邪気に笑う高橋。渕崎が笑うのは高橋が笑うからかもしれない。好意は、写し鏡だ。

「おまたせ」

二人が戻ってきて、おれたちは何食わぬ顔で出迎えた。平田が面白がって聞く。

「あっくんと仲良くなった?」

「あ?うん」

「あっくんって呼べるくらい?」

「いや、高橋はポチだろ」

「えー?そうなの?」

まぁ、それはそれで仲いいのか。笑う平田。

食器を返却口に下げてプールに戻り、水に足を浸した。もう一泳ぎするか、そう思っていたら後ろから水をかけられる。平田かと思って振り向くと、渕崎。意外。

「どうして野球続けなかったの」

唐突に聞く。笑わない。

「この夏が終わっても、来年も夏は来るのに」

「もったいないですよねー」

「うるさいポチ」

「わん!」

ふざけて犬の真似をする高橋。存外ノリがいい。

その話題を続けたくなくて、ごまかすように背を向けた。だが渕崎は答えを待つようにこちらを見ている。まだ話は終わっていない、と。

仕方なく向き直った。背中を向けた太陽がじりりと肌を焼く。

「今となっては、おれにもよくわからない」

「……馬鹿ね」

「うん」

頷いた。それしかできなかった。

焼けた背中の熱が鬱陶しい。涼を求めて身体を水に沈め、水の底に反射する太陽の跡を踏んだ。


数日が過ぎて、何もない日々をだらだらと過ごすおれにメッセージが届いた。

相手は美術部長。東風音。

『だいぶ準備進めてるよ。とりあえず学校来ない?』

肝試しの件。仕事が早い。

明日行く、と返して翌日。昼に差し掛かる前に訪れた美術室の前、東が立って待ち構えていた。

「遅いよー!待ってた!」

言って手招きした東が美術準備室におれを誘い込む。

入ってみてぎょっとした。大量のカツラが並べられていて、しかも長い黒髪やら焼けただれた皮膚のあらわなものやら、ものすごくリアル。昼間ならいいけどこれは夜は怖い。

「すげえな」

「それだけじゃないよ」

言いながら東が扉を開けた美術室の壁一面、立てたベニヤ板を人間の形に切り抜いた物がずらりと並んで、それに美術部員たちが一心不乱に生々しい絵を描いていた。

言葉を失う。やばい。

「これを教室に立てて、あとはねー」

「……あー」

「ちょっと、何引いてんの小西!言いだしっぺでしょー!」

「いや……ここまでやるとは思わなくて・・・」

昼間でこの迫力、夜の学校で見たらどうなるんだ。なんか、甘酸っぱい夏の思い出で済まない気がする。

「小西」

呆然としてるおれを浅井が呼んだ。

見ると美術室の一角で演劇部も一緒に作業を進めていた。道理で暑いわけだ、人口密度が高すぎる。

手招きする浅井のそばに行くと、隣にいる三年の女子を紹介された。

「こちらは梅原さん。うちの部長」

あ。そうか、部長には挨拶が必要だよな。

「勝手に話を進めてすいません。よろしくお願いします」

「大丈夫だよ。いい気分転換になるし」

笑顔で答えた彼女が手元の衣装に視線を戻した。針を刺して縫い進めながら、よく聞くとなんかブツブツ言ってる。

「上原さんのかさぶた舐めたい……もしくは剥がして捨てたのを拾って煎じて飲みたい……。そして殴られたい……」

怖い。思わず浅井のシャツを引く。

「あれ大丈夫なのか。受験ノイローゼ?」

「いや。いつものことだよ」

「上原さんって?」

「100ポンドの心臓の肉を捧げないと手に入らない相手。去年卒業した前部長」

「ああ」

去年の文化祭でロミオやってた人か。校内屈指のイケメンで人気者だったことを覚えてる。

「色々あるんだな」

「何事もそうだろう?」

「かもな」

こんな普通の女子なのに、女は見かけによらない。梅原さんの頭についてる星の形の髪留めを見ながらそう思う。そういえばうちの女子部員たちも大概だしな。

「小西ちょっと」

作業してる部員たちをうろうろと見て回っていると、今度は影野に呼び止められた。

「人が通ったら自動的に動く仕掛けを作りたいんだけど、回路組めない?」

「動くって、何をどう動かしたいんだよ」

「ロッカーを開けたり、音楽を流したり」

「音楽って同じ曲?」

「うん。でも必ず頭から再生されるようにしたい」

「できると思う。赤外線センサー買ってきて、懐中電灯バラして、工具室から多少材料借りれば。ロッカーはアナログの方が確実」

「仕掛け作り任せてもいい?一種類作ってくれれば機構を真似して量産するから」

「わかった」

しかし量産って、一体どれだけ仕掛けをするつもりなんだ。そういえばまだ姿が見えない人もいるし。

「芦屋さんは?来てるのか?」

「来てるよ。極秘作業中。当日まで小西にもネタは教えられない」

マジかよ。まだあんのかよ。

「ほどほどにしろよ……?」

「できる限りね」

影野は意味ありげに笑った。

やばい。本気だ美術部。いや、煽ったのはおれだけど。想像を越えてた。

とりあえず回路図を書いてあたりをつける。影野と話して改良し、必要なものはあとで買うことにした。なんか大変そうだし今日他に手伝うことはあるか、と言ってみると、じゃあと薄汚れた白い布を渡される。

「これを5cm幅で裂いてくれる?」

「……全部?」

「全部」

その布の分量にまた本気を感じて笑ってしまった。全力かよ。だよな。そうでなきゃ。

暑さに耐えながら一緒になって黙々と作業を進めた。おれ自身が人口密度を上げているけど、同じ空間で作業をするのは面白い。他の部が何をやってるかなんて今までは興味もなかったのに。

ようやく頼まれた仕事を終わらせて時計を見ると、びっくりするくらい時間が経っていた。没頭しすぎた。

「小西!アイス食べる?」

東がタイミングよくおれを呼んだ。いつの間に買ってきたのか、魚谷と一緒にアイスを前に手を振ってる。

「いいのか?」

「あ、お金はもらうよ」

「払う払う。地獄にアイスだな」

机の上に広げられたアイスはバラエティに富んでた。アイスボックス、スイカバー、みかんバー、あずきバー。チョコモナカアイス、ガリガリ君。しかも三種類。ソーダ、コーンポタージュ、ナポリタン。

「ガリガリ君はソーダだろ」

躊躇なく王道を手に取って100円玉を置くと、東はわかってないなぁと首を降った。

「クリエイティブな作業には冒険心が必要なんだよ。新商品に怯んではいけない」

言いながらナポリタン開けてかじる東。咀嚼してものすごく複雑な顔をした後、おれにそれを差し出した。

「小西も食べなよ」

「要らねえよ。どうせまずかったんだろ」

「そんなことないよ。せっかくの限定品だから、この思い出をきみと分かち合いたいんだ」

「嘘つけ」

見ると隣で魚谷がコーンポタージュを開けていた。果敢。

「……おいしい」

「マジで」

「食べますか?」

「気持ちだけもらっとく」

無難が一番だろ、思いながらソーダ味にかぶりついた。

しゅわり、喉を通る水色。こもった熱を洗うみたいな。

「東」

隣の美術部長を呼ぶ。久しぶりに気分がいい。心地よい疲れと充実感で。

「八月の終わりにするか。肝試し」

「いいよ。それだけ時間があればいろいろ出来るね」

「ほどほどにしろよ」

それは約束できないなぁ、と笑う東に手を振って、おれは美術室を後にした。


校舎を出て帰路に着く。もう夕方と言っていい時間だが、日が高いせいでまだ明るかった。汗をぬぐいながら体育館脇の通路を歩いて校門に向かっていると、向こうから着崩したスーツの人影。永田先生。

「あれ?今日都々逸部活動日じゃないよな?」

「あー、いや、ちょっと悪巧みを」

ちょうどいい、と永田先生に肝試しのことを打ち明けた。

「許可もらえますか」

「いいぞ。あとで特別活動届け出してもらうけどなー。書類は中西に言えば持ってる」

「わかりました」

「せっかくだから終わったあと校庭で花火でもやれば?」

「いいんですか」

「顧問が居ればな」

楽しまなくちゃな、そーゆーのは。暑そうにYシャツの首もとに団扇でパタパタと風を送りながら笑う。

「じゃ、水泳部も一緒にどうですか」

永田先生は水泳部の顧問だ。教師が何人かいれば心強いし、生徒も多い方が盛り上がる。美術部と演劇部の本気は都々逸部だけで消費するにはもったいないレベルだった。生かさなくては。

「いいのか?じゃあ声かけとくわ」

「はい」

「しかし楽しそうだな小西。心配することなかったか」

心配。野球ができないこと?

「そうですね。でもなまっちゃって。暇だと余計なことも考えるし、あえてやってる感じです。体動かさないとダメですね」

「そうか。そうだよなー」

言って、先生は団扇を止めておれを見た。

「水着持ってきたら泳がせてやるぞ」

「マジすか」

「ん」

いつでも来い、と先生は笑った。

「そっちの顧問にはおれからも言っとくよ」

「お願いします」

永田先生はわかってくれてる。それだけで救われる、そんな気持ちもあった。


もうすぐ七月が終わる。

暑さは日に日に増して、流れ落ちる汗と共に筋肉を削いでいく。それに抗う術はなく、なすすべもなく。

そんな火曜日の午後、部活を終えたおれは部員たちにようやく話を持ちかけた。

「きもだめし?」

「はい。やりましょう」

職員の許可はもらったんで、運営は都々逸部で。

経緯を説明すると、なんでそんな面白いこと一人で進めてるんだお前は、と少し怒られた。

「先輩方は勉強あると思いまして」

「二年はそうでもないだろ。頼れよちゃんと」

そう言った中西先輩が平田を見た。

「平田、頼むな」

「はい」

「うちらもだよ!小西!」

笹谷が言って、佐倉が頷いた。ほらな、という顔の中西先輩。

わかった、と思わず笑った。都々逸部は身内だ。そんなこともわからないで、おれは。

「えーと、じゃあ相談。まわるならペアだろうけどどうやって決める?」

「くじ引きかなー」

佐倉が手堅い方法を言い、こちらを見る。

「男女だよね?」

「えっ、そうなの?!おおなかでまわるのが見たいのに!!」

「何が悲しくて男二人で肝試しだよ」

「つーか二人でまわるならお前どっちにしても見れねえぞ」

「ハッ、盲点!!」

二葉さんが大西先輩にあしらわれるのを見て笑う一同。笹谷が目を輝かせて言う。

「せっかくだから他にも声かけたいですよね?!男子少ないし!」

「松崎は決定だよな」

「あとは?」

うーん、と考えて中西先輩。

「瀬尾と卜部も呼ぶか」

「そうですね。それならせいちゃん呼ばないと悲しみそうですし、せっかくですから生徒会全員でいかがです?」

平田が提案をすると、それがいいな、と生徒会長は笑った。

「それじゃ男子が足りなくない?!!男子多めで仕方なく男ペアってのも有りだと思うの!!!!」

「いや、それはちょっと。あ、でも水泳部には声かけました」

「でも水泳部は女子も多いしなーー!!」

「わかったサッカー部呼んでこい」

その頃なら全国も終わってるし、あいつらもいい気分転換になるだろ。中西先輩の言葉に頷くが、男女となるとバランスが難しい。

「サッカー部呼ぶと今度は男が多くなりますね。文芸部は?」

「麻美ちゃん怖いの嫌いだから嫌がると思う」

「一応誘ってみようぜ」

なんだかすっかり文芸部担当になった二葉さん、おれ、平田の三人で行こうとすると、今日は佐倉も着いて来た。総勢四名。

「夏休みなのに文芸部も来てるんですかね」

「うん、というか今まさに忙しいんだと思う!季刊誌と夏コミの準備してるよ!!」

おれの質問に二葉さんが答えて、佐倉と平田がうんうんと頷いた。

そうか季刊誌。その話してたな、こないだ。

がらり、第一視聴覚室の扉を開けると、数人が机に向かってた。それを腕組みしながら仁王立ちで見ている渕崎。机に向かってる数人の中に浦河さん。その横でのんびりスナック菓子を食べてる宮下さんが、二葉さんを見て手を上げた。

「二葉ー。どうしたの?」

「ちょっと話が!てゆーか浦ちゃん何してるの?!」

「いや、一昨日締切の原稿がちょっと」

二葉さんの質問に答えた浦河さんの右手は、ペンを構えてはいるがぴくりとも動かない。

「今日はなに?」

おれの方を見た渕崎は明らかに機嫌が悪そう。プールの時が嘘みたいだ。

「えーと、八月の終わりに肝試しやるんだけ」

「行かない!!!」

食い気味に拒否。平田の言う通りだ。よっぽど嫌いなのか。

「浦河さんは?」

「松崎くんとまわれるなら」

え?なんで松崎?

「ペアはくじ引きで決めるので約束できませんよ」

平田が笑顔で答えると、彼女はそうなの、と残念そうな顔をした。

浦河さんが松崎を好きなんて思ってもみなかった。なんだあいつ。リア充か。生意気。

「というか、なんで松崎くんなんです?」

平田もおれと同じ疑問を抱いたのか、不思議そうに尋ねる。

「だって松崎くんはかわいいから。とてもいいと思う」

「ショタコンだからなー浦ちゃんは!」

ショタコン。思わず浦河さんの顔を見るが、意に介さず淡々としている。マジかよ。

「しかもね、松崎くんには弟もいるらしくて。写真もらえないかなあ絶対かわいいよね。小西くん頼んでくれない?」

「え、いや、それは」

「うーらーかーわーさーーん」

「すいません部長」

脱線する浦河さんを渕崎の声が止め、彼女は光の早さで原稿に戻る。助かった。

「音葉さんは?どうします?」

佐倉が宮下さんに声をかけた。

「肝試しって夜でしょ?私予備校だなー。まあ、一日くらいサボってもい」

「ダメです」

「えー!!なんで!!」

「ダメです」

「なんでよー!」

「風紀委員長なんですから、品行方正を心がけるんでしょう?」

「うっ」

あ。そうか。宮下さんも風紀委員なのか。だから佐倉が下の名前で呼んでるのか。

行く。ダメです。行くってば。ダメです。押し問答する二人。肝試しなんて絶対行かないと固持する渕崎。筆の動かない浦河さん。

「じゃ、渕崎、花火だけでも来るか?宮下さんも」

「……それなら、いいね」

「それならいいの?」

「花火だけですよ?」

宮下さんも佐倉から許可を得る。

「私は行く。松崎くんとペアになれる可能性があるわけだし」

「わかりました」

「他の部員には聞いておくよ」

渕崎はそう言って、いつもはしていない眼鏡の縁を指で押し上げた。

「そんなわけで、文芸部は一部参加です。参加者は取りまとめの上後日教えてもらうことになりました。花火だけ参加になるかもしれません」

第二視聴覚室に戻り、佐倉が簡潔に報告。おー、と大西先輩が頷くと、笹谷の目がキラリと光った。

「花火なら大きい方も行きたいね?夏祭りあるよね、八月の中頃!」

笹谷の言葉に女子たちが目を輝かせる。

「行こう!行こう!!」

「浴衣とか着て?」

「浴衣……」

その話題に当麻が少し困った顔をした。

「どうしたの?トマっちゃん」

「あの、レナ先輩……私浴衣持ってないんです。もしよかったら、一緒に選んでもらえませんか?」

「わー、それ楽しいね!もちろん行くよ選ばせて!!」

「あ、私も行く。新しいの欲しい」

「はるちゃんは?」

「行こうかな。買うかはお財布と相談」

「じゃあ私も行くーー!!いつにする?!!」

おお、うちの女子たちが普通の女子っぽい会話で盛り上がっている。まともだ。新鮮。

「いいわねー、夏祭り。水泳部も練習終わりに行くって聞いたわよ?」

「永田先生も行くんですか」

「そうみたい」

先生と一緒に。夏祭り。金魚すくいとか、射的とか?

「じゃあ、先生も行きましょう。その日部の活動日にして、帰りに」

「あら、ほんと?いいね」

さゆり先生は華やかに笑った。

役得。おれにだって少しくらいいいことがあってもいいだろう?これくらいならきっとバチは当たらない。


その日の帰り道、大西先輩はいつも通りおれたちを観戦に誘った。

「東高の三回戦どうする?」

「行きます。今度はちゃんと見たいんで」

「中西は」

「……行く」

そうやって久しぶりに三人揃った市営球場。もちろん試合と違って私服ではあるが。

東高の見通しは明るいとは言いがたかった。運悪く強豪と当たっていたから。

下馬評通りなら勝ち進めるわけがない。それでもおれたちは自然に東高側に座っていた。誰も何も言わなかったけど、気付いたらそうしていた。

「やっぱ強いな、栄光学院」

「あの球……落ちるし早いし、振り遅れるな。付け入る隙が……」

「でも、なんでもいいから塁に出れば」

「うん」

一回、二回あたりまではそう話しながら観戦できた。しかし三回の表、栄光学園の攻撃からはそうはいかなかった。クリーンナップ打線が快音を鳴らし、あっという間に無死満塁になってからは。

「二回戦ではここで凌いだ。まだわからない」

大西先輩の言葉も空しく、持ちこたえていた制球が乱れた。押し出しのフォアボールで一点。そこから打ち込まれて二点、ホームランを浴びて三点。なんとかスリーアウトを取って三回裏の東高の攻撃になるときには、スコアボードは6-0になっていた。

何も言えなくなった。圧倒的な実力差に。

結局東高は一点を返すこともできないまま、8-0というスコアで試合は終わった。栄光学園の勝利。東高、二回戦敗退。

ありがとうございました、と帽子を取って礼をする両高。おれたちは無言でその姿を見守った。

「……帰るか」

次の試合を見てもよかったのに、誰もそうは言わなかった。

もう少し、見ていたかった。もう少しだけでよかったのに。

おれたちが突破したかった三回戦を、そんなささやかな目標を、東高に実現して欲しいと思っていた。彼らはおれたちではない。わかっていても、なお。

歩きながら、空を横切る白い機体が見えた。無言で見上げる。飛んだ跡を残す飛行機雲。少し落ちてミットに納まったスライダーの球筋に見える。

「あ」

それで気付いた。中西先輩の都々逸。


白く走った飛行機雲が

軌道に見える夏の午後


おれと大西先輩の歌の話のとき、自分は関係ないみたいな顔してたのを思い出す。

ずるい。自分だって。

「お前今日もリハビリ?」

「おー。お前は」

「学校行くわ。卜部にひとこと言っとかねえと」

「もうすぐだもんな」

こんな風にいつも通り、何も変わらない振りをして。

「小西も来いよ。どうせ暇だろ」

「そうですけど、そう言われるとなんか行きたくなくなります」

「四の五の言うな」

結局言われるがまま大人しく従った。大西先輩と別れて二人、西高の門をくぐる。

「あ、サッカー部の応援は制服だからな」

「マジすか」

全国となるとそんなことも決まってるのか。めんどくせえ。

重い足取りで中西先輩に着いていく。ちょうど休憩中だったサッカー部は、グランドの端の水飲み場で涼を取っていた。

「卜部」

中西先輩の呼ぶ声に笑顔で駆け寄ってくるゴールキーパー。一人グローブをしなきゃいけないポジションの卜部は誰よりも暑いはずだが、それでもいつも通り愛想がよかった。後ろの仏頂面の金髪と違って。

「そろそろだな、一回戦」

「はい」

頷いてこちらを見る卜部。珍しく見上げる形になる中西先輩。

「中西さん来てくれるんですか?」

「おー。勝てよ」

「はい」

真面目な顔でもう一度頷く後輩に、緊張すんなって、と中西先輩が笑った。いつも通りでいい。十分練習は積んでる。大丈夫だろ、と。

「でも、相手は鉄壁の守備で名高い強豪です。同じように守れるかどうか」

「集中力の切れ間が怖いかもな。よく寝て朝は糖分取れ」

「わかりました」

「あっちの守備はおれが崩してやるから!心配すんな!」

南野が後ろからハッパをかける。ニヤリと笑った卜部が、ほんとかよと冗談めいた。

「スコアレスの持久戦でPKとかにならないようにエースに走ってもらわなきゃなー。ダッシュあと20本追加しとく?」

「げ、鬼」

顔をしかめて視線を反らす南野。笑う卜部、中西先輩。

「じゃ、当日はスタンドで見てるから。怪我しないようにな」

「ありがとうございます」

「応援ね。もしかしてお前も?」

南野がおれを見た。あー、と適当に頷く。

「愛想ねーな。頑張れくらい言えないのかよ」

「おれが言っても言わなくても勝つんだろ」

「当たり前だ。」

「なら必要ないだろ」

頑張れなんて言いたくなかった。

言う必要もない。そう思っていた。


サッカー部の決戦の日はすぐに来た。試合開始一時間前、競技場に集合。中西先輩がまとめて呼んだから自然と生徒会と一緒になる。とはいえ卜部は選手としてとっくに控え室に入ってるし、瀬尾さんと征矢と一年の書記だけだが。

中西先輩と大西先輩の横を瀬尾さんが歩き、征矢は平田と、一年は一年で話しながら歩を進める。

そんなおれたちの前を雑多に横切った集団と肩がぶつかった。数人がおれたちの制服を見て止まる。

「あ、西高の」

そいつらは今日の対戦相手ユニフォームと同じ青いTシャツを着ていた。上から学校名入りのジャージを羽織ってる。ユニフォームじゃないところを見ると応援要員なのか、妙に目付きと柄が悪い。

「西高、ねえ」

学校の名前を、しかもつっかかるように呼ばれて足を止めた。不穏。

「くじ運が悪かったですねー。今日はうちが勝ちますよ」

「当然だよな!西高なんて雑魚」

「あ?」

中西先輩がめずらしく鋭い目で相手を見た。隣に立つおれたち。中西先輩の向こうでは瀬尾さんが腕を組んでいる。平田が女子を下がらせた。

「寝言が聞こえた気がしたけど、もう一回言ってもらえるかな」

「やめろ中西。弱い犬ほどよく吠えると言うだろう」

「ああ。それもそうだな」

好戦的な生徒会トップ2に続けるように大西先輩が飄々と言う。

「そこまで言って負けたらだせぇな」

「指差して笑いましょう、そのときは」

「せっかくだから名前聞いとくか?」

「そうですね」

おれもそう言って相手のジャージの胸を指差し、刺繍してある名前を読んだ。

「中田、佐野、富田、小山」

「覚えておこう」

瀬尾さんが手元の書類の端にその名前を走り書く。

「ちょ、やめろ」

「喧嘩売ってんのか西高!!」

「売ってない売ってない。じゃあなー」

「バイバーイ!」

大西先輩が飄々と、そして二葉さんが超にこやかに手を振った。美人に粗雑に扱われて怯む四人。帰れ帰れ、と無言でプレッシャーをかけるおれたち。

負けねえよバーカバーカ、と捨て台詞を吐いて彼らは自陣に戻って行った。その後ろ姿を見送って、征矢が生徒会長を見上げる。

「中西さん、ダメですよ?ただでさえ目立つんですから」

ちらりと周囲を見やる。気付けばすっかり視線を集めていた。中西先輩はあえて周りを見ないようにしながら目を伏せる。

「わかってるけど、雑魚呼ばわりは看過できない」

「そうだな」

瀬尾さんが当然だとばかりに無表情で同意して、征矢に困った顔をさせた。

「とにかく、行きましょう」

その場を離れようと平田がみんなの背を押した。そのままスタンドの席に向かう。歩きながら二葉さんが大西先輩の方を見た。

「中西、あんな風に怒ることもあるのね?!意外と熱い!!」

「え?あいつ結構あんなんだぞ」

「嘘!見たことないよ?!」

「そうか?」

確かにおれもあんまり見たことない。野球以外では。

中西先輩マジ中西先輩ですね!と騒ぐ笹谷の声を聞き流しながらスタンドへのゲートをくぐる。客席は予想以上に賑わっていた。

サッカー部のエントリーされなかった部員たち、応援部、そのサポートをしている吹奏楽部、そして生徒会。その一団とは少し距離を置いておれたちは座った。

スタンドの中央、最も騒々しい応援の中央にさゆり先生が見えた。吹奏楽部顧問の楓先生の手伝いがある、あとで合流するとと言っていたけど、この混雑の中ここまで来れるのか。 そう思いながら彼女の席も取った。八人分。

中西先輩は今日は生徒会長だ。おれたちのそばにはいない。

「大西!中西が生徒会行っちゃうとやっぱり寂しかったりするの?!瀬尾くんに嫉妬したりとか!!!」

「しない、しない」

ありえねえ、と笑う。佐倉が二葉さんを見てにっこりと笑った。

「鉄壁の信頼関係ですね。でも嫉妬しない大西先輩に実は怒ってるかもしれないですよ」

「でも大西になだめられていつもなあなあになっちゃう中西?!!」

「ウワァー!惚れた弱味!!萌えすぎて毛根死滅しそう!!!」

「サクセス!!サクセス!!!」

笹谷と二葉さんが頭をぶんぶん振る。突然騒ぎ出すのには慣れたけど大騒ぎするスイッチがわからん。

「もういいから静かにしてください」

「どうせ聞こえないよ」

諌めるおれに平田がスタジアムを見回して笑った。確かにこの喧騒の中、大して目立つとも思えない。

そんな騒がしい三人と真逆のテンションで、当麻が応援に回ったサッカー部の一団を見ていた。どうしたの、と平田が聞くとぽつりとこぼす。

「サッカー部、一年生は試合に出るのは難しいんですかね……」

「そうね、大所帯だから。でも何人かエントリーはしてるみたいよ?」

ベンチ入りしてる一年はサッカー推薦だけだろうけど、それは事実。そして、サッカー推薦じゃなくてもスタメンに選ばれることがあるのもまた事実。例えば卜部のように。

「今後松崎くんが出られるようになるかは彼次第だろうね」

平田のその言葉に当麻は耳まで赤くなった。

スタンドを見渡す。こんな風にサッカー部員に心を寄せて、今日の試合を祈るように見ている女子がこの中にどれだけいることか。

スタメンが呼ばれて黄色い歓声が飛ぶ。いつもの練習用ジャージとは違う、白と黒の縦縞のユニフォームに身を包んだサッカー部が出てきた。応援団が声を張り上げ、吹奏楽部がアイーダを鳴らす。決まり文句なのであろう応援コールを聞きながらキックオフを待った。

「いいね、この熱気!」

「あ、先生。あっちはもういいんですか?」

「うん!さあ応援するよー!」

無事に合流したさゆり先生が平田に答えながら目を輝かせる。

ピピー、長く吹かれる主審の笛の音。

中央のサークルに立った広丸さんがボールを蹴って試合が始まった。

大歓声の応援席。

一進一退の攻防の中、ことごとくボールを弾き返す卜部。クリアされたボールが大きな弧を描いてストライプのユニフォームが駆け上がる。いくつかのチャンスが生まれて流れが来るが、南野の放ったシュートは何度もキーパーに弾かれた。

「あー!惜しい!!」

「やるなー南野くん!」

「押してる?押してますよね?」

「押してるよ!今のパスはすごくよかった、センタリングのタイミングに合えば絶対入る!!」

ふたつ隣の席でさゆり先生が概説する声が聞こえる。嫌でも耳が拾ってしまう彼女の声。

栗原がピッチの脇で手を上げて、大声で指示を出しているのが見える。

スコアレスのまま後半に入った。

決定的な場面はないまま、凌いで凌いで迎えた後半15分。広丸さんからオフサイドギリギリに出されたパスが南野に通った。

走り負けない足。止まらない南野。そしてそのまま、駆け上がった慣性の法則のまま、軽く押されたボールがキーパーの横をすり抜けて。

吸い込まれていくボール。スローモーションのように、息を飲む客席。

一瞬後、爆発したような歓声がスタンドを揺らした。

ついに破られた鉄壁の守備。歓喜の声で何も聞こえない。

「みーなみの!!みーーなみのっ!!!」

ストライカーの功績に、その名を呼んで讃える西高の応援席。

興奮冷めやらぬ中、立て直そうと早々にセンターサークルから出されたボールをすばやくカットした南野の目がきらりと光った。気がした。

大きく振り抜かれる左足。二度もさせるかと止めに来るディフェンダーを交わして速度を緩めた足から出されるパス。

南野から通ったボールが、もう一度ゴールを揺らした。

後半18分。2-0。

「きゃーーー!!!南野くん!!!!」

うらやましくはない。でも。

「小西?どこ行くの?」

「便所」

席を立った。歓声に背を向けて廊下に出た。

むんとした熱が込もってクソ暑い。それでも外よりはマシだ。ポケットに手を突っ込んだまま、廊下の壁に背を預けて上を向く。ひんやりとしたコンクリートの感触。汚い天井。聞こえてくる歓声。熱気。

「みなみのくーん!」

エースの名を叫ぶ声。

関係ない。おれには関係ない。やめろ、考えるな。南野に苛立つのは間違ってる。あいつは何も変わってない。変わったのは。

「…………っ」

下を向いてうずくまった。

ずっとこらえていたものが沸き上がって、頭の中がぐちゃぐちゃだった。

泣きたくなんかないのに。それなのに。

おれは馬鹿だ。こんな風になるなら野球続ければよかった。自分で手放したくせに未練ばかりで苛立って、こんなところまで来て今さら何を。

カツン、靴の音がして誰かが近くに来た気配を感じた。

視界の端に映った靴の色でそれが誰かわかった。

顔を見られたくなくて頭を抱える。

彼は静かにおれの隣に座り込んだ。

何も言わずに、ただ、座っていた。


しばらくして我に返った。何してんだおれ。こんなところで、なんのために。

目の端をぬぐって立ち上がった。

「帰ります」

泣いた顔を見られたくない。水を差したくない。サッカー部はきっと勝つ。

「おー。……気を付けてな」

大西先輩は止めなかった。

振り返ることも出来ずに、おれは足早にそこから立ち去った。


帰り道の空は、どこまでも青かった。

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