第8話 遠足前夜

 家に帰りシャワーを浴びなおしてから、冷静になった頭で考えた。

 今自分はとにかく嫌な事が立て続いていて、自暴自棄になってしまっている。これを一気に解決する手段はない。しかし、いつまでもくよくよしているわけにはいかない。何より俺がまず一番初めにすべきはリズへの恩返しである。

 即席のラーメンを茹でていると、腰にリズがべったりと纏わりついてきた。まるで餌を待つ猫の様である。


「今日は豪華じゃのう。二度も飯に有り付けるとは。有難いことじゃ」

「いっぱい走って腹減ったからな」


 しかし恩返しと言うのはこのラーメンではない。


「リズ、明日遊園地に行こうか」

「遊園地?」

「行ったことないか?」

「そうじゃな。名は聞いたことはあるぞ。じゃがさっぱりイメージは湧かん」


 俺はラーメンをどんぶりによそい、リズに渡す。テーブルまで持っていかせて、俺も自分の分を用意してリズに続く。

 衣類の下敷きになった画用紙と色鉛筆を手に取り、ラーメンを食べながら絵を描く。

 観覧車とジェットコースター。あとはメリーゴーランドを描いてリズに見せる。


「こんな感じの所だ」

「おお! まるで夢の楽園の様な所じゃのう!」

「そこに明日行こうか」

「楽しみじゃ!」


 はしゃぐリズを見て、心から優しい気持ちになる。自分にもし子供が居たらこんな感じなのだろうか。


「それにしても志士奈は絵が上手いの」


 言われて、ハッとする。

 この間まで描くのを止めていたのに。今、何事もなかったかのように描けたのはなぜだろう。自分で描くよりよほどインターネットで検索して写真を見せた方が早いし、伝わるのに。


「他にも何があるのか描いて教えてくれんか」


 俺はリズに言われるままに絵を描いて、その度に思いを馳せるリズを見て、楽しいと思えた。


 久しい。絵を描いてこんなに楽しいと思えたのは。

 小学生の頃、リズと同じように俺の絵を見て目を輝かせてくれた子が居た。もっと描いて欲しいと言ってくれた子が居た。初恋の人だ。リズはその子に似ているのだろうか。だから懐かしさを感じるのだろうか。結局答え合わせは出来ないまま、夜は更けて行った。

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