第5話 私と私と私と私と私と私と私と私
一気に私たちが消えてしまい、残ったのは私とハジメと中学生くらいの私だった。
おそらくハジメは消える事自体には何も抵抗はないだろう。なんとなくそう感じる。もしかしらた擬人化の私たちは、あまり消えること自体への恐怖とかがないのかもしれない。
自分が消える恐怖。死の恐怖を想像すれば似たようなものだろう。でも消えた私たちはそんな恐怖を感じているようには見えなかった。
ふと、自分が消えたらどうしようという想像をしてみる。
まず、親が悲しむ。そんなの想像するだけでもつらい。
次に、仕事をやり残している。私に任された案件がいくつか残っている。やりたい仕事に就けたのに中途半端に投げ出してしまうのは悔しい。
あとは、この部屋の契約をどうするとか、オタク絡みのグッズやデータの破棄をどうするとか、意外としょうもないことしか思い浮かばなかった。彼氏は別れちゃったし。
そこで、もう少し考えてみる。
「もし、全ての懸念材料が解消出来たら、消えるのは怖くない?」
中学生の私が疑問を投げかけてきて驚いてしまった。お前はエスパーか。
「びっくりしたぁ。どうしたの?」
「いや、そんなことを考えているんだろうなぁって」
ちょっと呆けたような表情でズバリと言い当ててくる中学生の私。そこで私は気付いた。
「それは合ってるんだけど、そうじゃなくて、あれ? 私中学生の時このブログやってない……」
そう、このブログを始めたのは大学1年生の時。つまりハジメは大学1年生なのだけど、この子はどう見ても中学生の頃の私だ。あれ? つまりどういうことだ?
「ふっふっふっ……」
不気味っぽく笑おうとしているのかもしれないが、ただの発音しているだけの大根芝居を演じている私はまだ何か言いたそうだ。
「それはつまり、僕はブログの擬人化ではなく霊として降臨したのだということなんですよ!!」
バッと勝手に寝室から引っ張り出してきた私の冬のコートを着て両手で大きく広げながら頓珍漢なことを言いはじめる私。見ていて痛々しい。
「多分、このブログじゃなくてピクシーの記事の方ですよー」
「冷静な分析ありがとうハジメ」
目の前の痛々しい光景も相まって冷静になれた私はなるほどと納得する。
ピクシー。当時は招待制だったブログやつぶやき、コミュニティ作成などが出来る複合SNSだ。私が中学生だったころとても流行っていた。そしてその頃の私は中二病に罹患していた……。
そう、自分には霊感があると信じて疑わず、霊能的なグッズを買い漁り、学校の校庭に六芒星を書いて先生に怒られ、そんな男性教師はクズですべからく男はクズであると宣っていた私だった。
「そ、そんな……この僕が霊ではなくただの擬人化だったって……そんなはずは……」
擬人化もすごいよ、なんて謎の励ましをかけながら頭を抱える。聞き逃していたが一人称が「僕」だったことも思い出して本当につらい。早く消えて欲しい。
なめらかな手つきでピクシーにログインする。勘で一つの記事を表示する。
「うん? 何々? 偉大なる僕の素晴らしいブログ記事がどうかしたのかな?」
そう言いながら中二病の私はふむふむとブログを読み進めた。時々やはり僕のブログは素晴らしいな! なんて言いながらいくつかの記事を読んでいき、消えた。良かった。これ以上会話をしていたら部屋から逃げ出すところだった。
兎にも角にも、擬人化の私のほとんどが消えた。あとはハジメだけだ。窓からは夕陽が沈むのが見えた。
「ハジメ、なんだか寂しいけどさ、申し訳ないんだけどさ、もう最後だから、お別れにしよう」
語尾にはムズムズしてしまっていたが、なんだかんだ一番私に協力的で話しやすくて優しかったハジメ。こうなってみるとめんどくささより愛らしさの方が勝っている気がする。それは自画自賛が過ぎるか。
「サイシン、そのことなんですけどー……」
ハジメはなんだか歯切れが悪い。消えるのが怖い訳では無いのは直感で分かるのだが、そうなると何がそんなに歯切れを悪くさせているんだ?
そうモジモジしているハジメを見つめていると、玄関先から誰かが歩いてくる音がした。ドアが開いた音はしていない。
私とハジメは緊張しながら近付いてくる足跡の方を見ると、そこには小学生の私が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
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