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「ファンタスティック!」

「ふふふ」

「いや、これは本当に素晴らしいよ。見た目も綺麗だし凄く美味しい。世の中にはこんなに素敵なカクテルがあるんだねぇ。僕は感動したよ」

「ありがとうございます」

 ここまで喜んでくれるとは。そんな言葉を言われると正直に嬉しい。

 伏倉さんに作ったのは透き通ったブルーとレモンのイエローが印象的な一杯。スイスにあるレマン湖の色を表現した、ファンタスティックレマンだ。ひとつのロンググラスに美しいレマン湖を閉じ込めたようなカクテルには日本酒が使われていて、遠い国の湖を表現しているのにどこか慣れ親しんだ感じがする。度数も低いし、一杯目には良いと思う。

「さすが花菱君だね、センスが良い」

「そんな、とんでもないです」

 センスと言うよりは(そりゃそれなりにセンスはないとこの仕事はやって行けないとは思ってはいるけれど)ただ伏倉さんが喜んでくれたらと思っただけで。きっとお酒の好きな人だからあまり飲んだことないようなカクテルの方が良いかなと思ったんだ。

「でもそうやって僕のことを考えて作ってくれたんだろう? 僕が喜びそうなものを膨大なレシピから選ぶんだからセンスがないといけない」

「ふふ、ありがとうございます。私にはこれくらいのことしか出来ませんから」

「おやおや、それはいけない」

 いけない?

「それくらいのこと、だなんて」

「え?」

 伏倉さんはグラスをコースターに置くと、さっと俺の手を取って言った。

「こんなにも君は魅力に富んでいると言うのに」

 え、なんて?

「君の作るカクテルも美味しいけれど、そのトークもとても素敵じゃないか。最初に会った時から思っていたけれど、動作に無駄がなくてその立ち振る舞いやトークもスマートだし、うるさくないのに適度にユーモアもあっていい。声も良いし、シュッとしていてイケメンじゃないか。それなのにどうして、それくらいのこと、なんて言うんだい」

「・・・」

 つい、その迫力に言葉を詰まらせてしまう。こんなにスラスラと褒め言葉を零せるなんて。

 伏倉さん何者?

「君には君にしかない魅力がある。だからそんな悲しいこと言わないで」

「すみません」

「こういう時は謝ってはダメだよ」

 そう言ってまたウインクを飛ばしてくれる。なにもうほんと。なんで俺の周りはこんなにも素敵な人が多いのだろう。憧れるなと言う方が無理だ。

「ふふ、ありがとうございます」

「うん、笑顔も素敵だね」

「ふふふ、ありがとうございます」

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