第5話

 僕はいちごちゃんといっしょに帰宅している。どうやら偶然にも僕と帰り路が同じ方向らしい。だからさっきの角をまがったのも偶然だし、この人通りのすくない道をずっと二人で歩いているのもぐうぜんだ。


 ついでに言えば二人でお母さんに「母さんただま」っていったのも偶然だし、二人で自分の部屋に入ったのも偶然だし、二人でいっしょにお風呂に入ろうとしたのも……。


「やっぱり電波じゃねえか!?」


 僕は大声でさけんだ。いや、つっこまずにいられなかった。なんとなく流れに身をまかせていたけれど、いいかげんはっきりさせないといけない。


「おまえ何ものなんだよ」


 ファンにしては僕のことを知り過ぎているし、かといってただのストーカーにも見えない。


いったい何物なんだこの女。


「わたしは……」


「お前は?」


「……だれでしょう?」


 気付いたらびんたしてた。なんていうかこっちの深刻どあいにたいしていちごちゃんの能天気さにいらっとしてしまったんだ。


「……えっ?」


 いちごちゃんは頬をはらし、涙をぽろぽろと流し始める。


(やっちまったわ)


 僕の平穏な日常はきっと終ってしまったんだということに気付いた瞬間だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る