回想3



 すこし、友人はズレているところがあった。

 私の誕生日だった。普通であれば身につけるものだとか、衣類だとかそんな物を贈るのが一般的な模範回答だろう。私でもそういう常識は持ち合わせている。贈る相手はいなかったが。

 友人が贈ってきた物は、スタンガン。

 一瞬面食らった。何かの嫌がらせだと思った。

 よくよく話を聞くと、近頃は機械化能力を悪用した犯罪が横行しており、私のことを本気で心配してくれていたからだ、と彼女は語った。それにスタンガンは機械化部分の回路に酷く悪い影響を与えるらしい、とも。

 もう少しマシなプレゼントがあるだろう、と心の中ではそう思ったが、彼女にここまで想わせているという状況に、私は酔った。あの人類の中でもスペックが高みにある彼女に……

 素直に受け取って、そのうえスタンガンのことはすっかり忘れた。自分で身を守るような、たくましい人間になっては、彼女が私のことを見限ってしまうと思ったからだった。

 私はスタンガンという護身用の武器を彼女から贈られるほど、か弱い人間でなくてはならなかった。

 おあつらえ向きだ。もともとそういう存在だった。弱いことを言い訳にして暮らしやすいように生活してきた。

 そんな私の面倒を見ている彼女。

 優れた側の人間である彼女。

 私が独り占めにしている彼女。

 そして私の嫉妬心を集める彼女。

 彼女が人と話していると妬いてしまう。彼女が私より優れていると妬いてしまう。彼女に捨てられた物に妬いてしまう。彼女に雑に扱われる人間に妬いてしまう。彼女の昔の友達に妬いてしまう。彼女のことが嫌いな人間に妬いてしまう。彼女に着られる服に妬いてしまう。彼女のことを知らない人に妬いてしまう。

 彼女に関する感情全てを観測したかった。

 こんなにも嫉妬心を抱えている。私は人間に近づいている。そんな生まれ変わるような奇妙な感覚さえあった。

 そうやって醜い自分を観測していく内に、自分が如何に小汚い人間なのか思い知らされたが、もはやそんなことはどうでも良かった。

 そもそも、自分に興味がない。興味があるのは彼女への感情だけ。私という肉の入れ物は、ただ彼女への感情成分を、脳で分泌させているだけの機械にすぎない。

 それだけが、私の生きがい。

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