回想2
友人は万能だった。
私の観測範囲で、おおよそ出来ないことは何一つとしてなかったし、そのお陰か知り合いも多かった。そしてそれを鼻にかけないような、圧倒的に高みに備え付けられている、気質。
勉強、スポーツ、果ては芸術から雑学、どうでも良い話、人生経験、それら全てが私が彼女に劣っている部分だった。
まるで雲の上のような人だった。
夢なのか、騙されているのか、そのどちらかか、仲良くなってしばらくは、彼女の心はよくわからなかったが、一向に本性を出さない彼女のことを、段々信じてしまう私がいた。
心から私の前で笑う彼女のことを、疑っていられるほど私は冷徹な人間じゃない。
ある日、出された課題があったことをすっかり忘れていた私は、慌てて図書室に篭り、簡素なレポートを制作していた。教科はまあ、唯一の得意分野でもあったが、しかしそもそもさほど勉強が得意でない私では、短時間に、そして円滑に定められた完成度の成果物を上げることは、逆立ちしたって難しいという結論しか弾き出されなかった。
図書館に備え付けられているコンピューターに、多数収録されたデータ書籍を眺めながら悩んでいると、何処からそんな話を聞きつけたのか知らないが、友人が顔を出した。
手伝おうか、なんて、そうするのが当たり前みたいに、彼女は言う。心の底から困っていた私は首を縦に振って、彼女に資料を見せた。
すると、今まで私が頭を抱えて悩んでいたことが、彼女にとっては晩御飯の献立を考えている時のような軽やかさで、熱湯に突っ込んだ氷みたいに解かれていくのを、私は目の当たりにした。
しばらくして、はい、出来たよ、なんて彼女は私にレポートを、私から実質取り上げたレポートのファイルを送信する。
ありがとう、と答えた声が、震えていないか自信がなかった。
なんだろうこの気持ち。今まで生きていて感じたことがなかった。
なんで彼女は、私が持っていないものを、すべて持っているのかな。
悔しいのか、悲しいのか、わからなくなった。
生まれてから今に至るまで、ほとんど他人に対して何も感じて来なかった私が、こんな気持ちになるのも初めてだった。
これは……嫉妬?
私は彼女に嫉妬しているのだろうか。
今まで得意だと思っていた教科が、彼女に比べれば別に大した実力じゃないことを明らかにされて、気が動転しているのか。
珍しい。
それが興味深くはあった。
彼女に興味があったし、私の心の変化にも目が離せなくなった。
それからずっと、彼女とは仲良くしながら、私は腹の底で私達を観察していた。
私が彼女と仲良くする理由は、嫉妬心の観測。
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