回想1
それはまだ二年ほど前の春先。
新しい環境に流されてしまった私は、例年のように、心を閉ざすことで平穏を得ていた。端的に言えば、内気で一人ぼっちだったし、それが自分の身の丈にあっていると考えていた。
現実問題として、特に不自由は存在しなかった。無益な会話をしなくていい、無用な人付き合いをしなくていい、むしろそういう利点のほうが、ずっと魅力的に見えた。
寂しくはなかった。
こういう時に、寂しさをさらけ出すのは、孤独であることを盾にして、自分を慰めている惨めな人間だ、という考えが自分の根の方にあった。私はそんなに他人を恋しく想うような人間ではなかった。人間の集団を見ると、気の弱いガゼルの群れを思い出した。そういう文脈では、私は虫か何かだった。
しかし、そんな私にだって、友人ができる瞬間というのは訪れるものだ。
運命というやつは、きっと自分のことを、平等に愛を分け与える慈悲深い存在だと思いあがっているのだろう。私にとっては、そんなものは形の合わないパズル、食べ物で言うとラーメンとヨーグルトだし、ビールとチョコフォンデュだった。
きっかけは覚えていないが、いつの頃からか、彼女が顔を合わせる度に話しかけてくれるようになった。私には、それが不思議でしょうがなかった。
なぜなら、彼女は優秀な人間だった。
私のような爪弾きからすれば、交わることのない平行線だった。
彼女は学年でも一定の人気があり、当然のように交友関係が広い。私といる時以外で、一人で過ごしているところを、まるで見たことがないくらいだった。社交的で友人には困らない、そう、私とは骨の髄に至るまで、何もかも別の材質で構成されているような、人間の新製品としか思えなかった。
そしてそんな人間と、私が仲良くしているという、疑いようもない事実。きっかけや、理由なんて、小骨ほどにもならない、どうでもいい問題だった。
彼女に認めてもらって、気を良くしている、という自覚はあった。
けれど、歯止めを効かせられるほど利口でもなかった。
彼女とは友達だし、これからもずっとそうなるだろうと、漠然とそんなことを考えては、人に見られないようにほくそ笑んでいた。
大切にしたかった。そのくらい自慢だったから。それが彼女自身なのか、彼女という友人がいる私自身なのかは、私には判別がつかなかった。
だけど、運命というやつは、私に与えすぎた施しを、見逃さなかった。
程なくしてその友人を、私は失ってしまうなんて。
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