第11話今度は・・・

銀座の片隅、道行く人々の快適な会話も届かない二、三通路奥に入った通りの店、タンタンに

来客がやって来た。

ボオーン、ボオーン、ボオーン、ボオーン、ボオーン

螢光等の薄明かりの中に突如として壁中に飾られた置き時計が鳴り出す。

時報を知らせて鳴っているのでは無く、店にやって来る人間を誘い呼び込んだ合図のようにも感じる。

「来たみたいですよ、人間・・・饅頭が、まだ食べたいのに」

「ジン、マルが残りの饅頭食べた上げるから、早く入り口を見て来たら」

「嫌だよ、最低でもあと三つは食べたいよー、人間の食べ物、特に、こんな甘い食べ物は、滅多に有り付けない、マルが入り口見て来て」

「そうねー、私が行くわ」

饅頭は、二人とも大好きだからね、良いわ、店長の私が、出番かな

店長のアンドレは、口の端に着いた餡の粒をティッシュ紙で拭き取ると入り口へ向かって行く。

甘い甘い饅頭の香りのする奥の部屋とは違う雰囲気になり始めている入り口では、鳴り止まない壁掛け時計の針が円板で左右に揺れていた。

ドアの縁から徐々に煙りがかり赤、青、黄色、オレンジ、紫そして、今、水色に薄っすらと光を放ちだしていた。

「ほいっ、来いや、・・・来い、・・・誰か手を貸してくれ」

「えっは、はい」

店長は、急な呼び声に息もせずその音のするドアの前まで走り出す

そのドアから子パンダのユメダがひょっこりと姿を見せ、店長と一緒に、ドアの中で、なかなか出てこない物を引っ張っている

「・・・寝てるの、・・・キデツ」

「駄目だな、・・・人間はフクザツ、夢の中に連れて行く時、直ぐに気を失ったみたいだ」

夢に思いが強ければ強いほど、現実的な存在と夢との間で、意識の衝突が荒れてしまう。

意識に欲が強すぎる生き物だ、面倒なのは知ってるが、楽しくないな

真似夜は、ドアの入り口に両手を手首だけ出して、なかなか出てこないでいる

「よしっ、皆で引っ張るぞー、ジン、マル、手を貸せーーー」

「フレーフレー、フレーフレー」

「マル、皆でだ」

「せーの、せーの、せーの、えいやっ」

ユメダ、店長、ジン、マルで、一気に真似夜を引っ張り出した。

真似夜は、薄煙りに包まれた中から、カチカチに氷みたいに硬くなった状態で出て来た。

両目を瞑り、両手を頭の上で祈る様に組んでいた。

髪の毛は、風に揺られた感じで、軽くカールする様に舞い上がっていた。

体は少しかがみ気味に曲がった状態でかがんでいた。

「すみませーん、すみませーん、分かりますかー」

・・・・・・

「駄目だよ、気を失ってるんどから」

ユメダが、真似夜の体を軽く叩いた

「人間、人間、人間、人間」

「人間、人間、人間、人間」

「ジン、マル、騒ぎすぎだよ」

「でも、何か、食べ物持ってない、人間だよ」

「でも、本当、カチカチだねー、・・・命、あるかな」

見た感じ、思い人っぽいね、・・・時間掛かりそう

「人間、人間、人間、やっと来た」

「人間、人間、人間、やっと来た」

ジンとマルが、真似夜の周りを回りながら歌っている。

「やった、やった、人間、人間、人間来た」

「やった、やった、人間、人間、人間来た、来たーーーーー」

ジンとマルが、人間と関わる仕事をすると、縁が出来て、人間の食べ物が貰える事に、はしゃいでるのだ。

「ジン、お湯沸かして、・・・熱くし過ぎないでよ」

「オイっ、熱湯かけるのかよ、死んじまうぞ・・・死にはしないか」

「手加減、気を付けろよーー」

「分かってるわよ、少し刺激だ、少しだけ・・・」

店長のアンドレは、やっとやって来た人間にほっとしているものの、何か、厄介者を引きずり込んだ感じで、お湯が沸くのを安堵の気持ちで、下を向いている

「人間、人間、人間来た、人間、人間、人間来た」

マルはまだ、歌を歌って、楽しい事がやって来るのを待ちわびていた。















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