第2話 友人
留年して一週間が過ぎた。
僕は教室最後尾となる窓際の角を陣取る。
そう、その場所は以前おっさんさんが座っていた場所と同じ。
出身中学の同じ者は誰一人いないこのクラス。
学年が違うのだから当然知り合いなどもいない。
それでも数日経てば人見知りの僕でも最低限の友達が出来た。
いや、友達と言ってよいのだろうか?
「なぁ三河、お前2年の小張さんって見た事ある? スラっとスタイルも良く、あの人ムチャムチャキレイじゃね?」
今話しかけてきたのは僕の前に座る
今どきなんとも古風な名前の持ち主だ。
奈瑠美ちゃんが担任の時とは違い、席は左右が男女で分けられている。
やはり成績順なのだろうか?
だったら彼はそこそこ優秀?
「後よ、担任の三越先生もカワイイよな。でも俺は断然小張先輩だなぁ」
彼は僕とマッキーが知り合いなのを知らない。
と言うか、クラス全員僕のダブリに気づいていない。
別に隠すつもりは無いが、敢えて言う必要も無いだろう。
とはいえマッキーはおろか、旧関係者達に土下座してあるお願いをしたのも確か。
決して1年の教室には……僕の教室には来ないでくれと。
お願いだから他人のフリをしてくれと。
ダブりがバレるどうこうよりも破壊が何よりも恐ろしいし。
勿論タダという訳にはいかず、それは僕の自由時間と引き換えに。
つまり新三河家で女性達と一緒に暮らすことの同意をさせられてしまった。
悲しいかな悪魔の取引で魂を売ってしまったのだ。
精力という男の魂を!
そして幸いなことに妹の美也はオバハンと同じクラス。
校舎が違うからおいそれとはこちら側へは来れないだろう。
おかげで毎晩求められてミイラに……トホホ。
「なぁ三河、俺の話聞いてる?」
「うん、あぁゴメン。僕はどうでもいいなー? 女性として見るなら隣に座る中村さんの方が余程素敵だと思うけど……」
何気なく言った僕の一言。
これによりクラス内が騒然となる。
「おいみんな! 三河が隣の中村に告ったぞ!」
「うおぉぉぉぉっ!」×複数
正直こんな事態には慣れっこ。
当然顔色一つ変える事もない。
しかし中村さんは違う。
顔面真っ赤になり俯いてしまった。
「ヒューヒューッ!」
なんと言われようが僕は正直に答えただけ。
彼女はスラリとした長身に顔も小さく、実際ルックスだって結構イケる。
髪を三つ編みにして変なフレームの眼鏡をしているから冴えないだけだと思う。
それさえどうにかすれば学園一美人と名高いマッキーにも引けを取らないはず。
とは言っても彼女の女性部分にあまり興味も関心もない。
女性は既にお腹一杯だから。
出来れば普通の友達として接したいのが本音。
「バカだなー木頃、彼女が僕なんかを相手にするわけないだろ?」
「おろ? なんだよ三河、反応悪いね? 冷やかされてもっとアタフタすると思ったのに」
残念だがそれは僕でなく彼女のほう。
今もアタフタと混乱状態に陥っている。
それにしても冷やかされてオロオロする中村さんは新鮮で初々しいな。
僕も昨年の今頃はあんな風に……ハァ。
それでもこの一週間、再度高校生活一年生を噛みしめていた。
騒がしい連中は誰一人いないし、なによりも普通なのだ。
平穏がどれ程幸せか、出来る事ならその事をクラスの皆に伝えたいぐらい。
{キーンコーンカーンコーン♪}
そしてホームルーム始まりの鐘が鳴った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます