第3話 反骨


 ベルが鳴ると同時に教室へ入ってくる三越先生。

 本当に教師する気あるんかと思う程にその格好はラブリー。

 他の教師は何も言わないのかねぇ?


 「……といったワケで、各自班決めを行ってください」


 先生の説明に依る来月実施予定の課外活動内容。

 そうか、この学校は親交を深める名目で京都旅行があった。

 彼女はその為の班編成をしろと言っているのか。


 「それと三河君は昼休みに職員室へ来てください」


 「嫌です」


 「!」


 速攻答える僕に先生も含め一同唖然。

 動かざるごと山の如しでどっしり構える。


 「ちょっと三河君、ふざけないでよ?」


 「絶対に嫌です。言いたいことがあるならここでハッキリと……」


 「アンダラアァァァァ―――ッ! それが出来んから言っとるんじゃヴォケエェェェェッ!」


 堕天使ミカエル恨みの咆哮が教室内へと響き渡る。

 だが舐めて貰っては困るな。

 そんなものは既に何度も経験済み。

 以前などプラス暴力のサービスまでついてきたのだ。


 「でも嫌です。用があるなら今すぐ廊下で話して下さい」


 「上等だボケエェェェェ――――ッ! 今すぐ廊下へ出ろやっ!」


 言われた通りに廊下へ。

 媚びることなく堂々とした態度で教室を出て行く侯爵アンジョー。

 それは優雅にしなやかで、気品あふれる貴族を思わせた。


 

 「おい三河っ! アンタ私をなめてるのか!?」


 「舐めてくれと言われれば舐めますよ。だけど先生、あの豹変はないわー。ほら見てごらん」


 興奮する先生をドアの近くに引き寄せると、その隙間から教室内を覗かせた。

 そこには波を打ったような静けさに包まれた生徒達の姿が。


 「栄ちゃん美人で生徒に凄く人気あったんだよ。みんなドン引き! どうすんのコレ?」


 「あっ! ……ホントだ」


 室内の状況を見た瞬間、彼女の爆炎は瞬く間に鎮火。

 さすがに堪えたようだ。


 「ちょっと見えにくい……三河君もうちょっとそっちに……」

 

 隙間が狭い為、僕と先生はピッタリ密着しながら尚も中を覗き込もうとする。

 偶然にもこの時彼女の唇が僕の口元近くに触れた。


 「うわっ! 先生なんだよ? まさかどさくさに紛れてキスしようとしたんと違う?」


 「じょ、冗談じゃないわよ!? 私はそんなに男に飢えてませぇ~んっ! それよりそこは喜ぶべきところじゃありませんかねぇっ! ぷりっ」


 「プックック。その態度で生徒に接すれば人気も再びうなぎ上りじゃない? 信頼なんてすぐに取り戻せるかもね」


 「…………」


 頬を少し赤らめる先生。

 ガラにもなく照れているのかな?


 「それより話ってなーに?」


 「あ、そうだ! 有松先生の事よ! 元担任として君の事が心配なのは分かるけどさ、毎放課に私の所へ聞きに来るのよ? それも鬼のような顔で脅すように! アナタなんとかしなさいよ!?」


 「アハハ。有松先生は僕の事が大好きなんだよ。だからカワイイ栄ちゃんに取られやしないかって焼き餅を焼いてるんだと思うよー」


 「バカじゃないの三河君? 自信過剰も甚だしいっ! でも、たしかに私は可愛いから君がまいっちゃうのも仕方のない事かもね」


 「あぁっ!? いい年してヒラヒララブリー趣味の女に僕がまいるワケないじゃん。そういう人間は男性経験が極端に少ないか皆無って相場が決まってるんだよ。超絶お断りだね! きっとメンドクサイんだろうし」


 顔をパンパンに膨らませ、限界寸前の高熱炉程に赤くなる三越先生は爆発必至。

 そしてついには……


 「三河のバカーッ!」


 {パンパーンッ!}

 「いたたっ!」


 彼女は僕の両頬を思いっきり張り飛ばし、走ってどこかへ行ってしまった。

 だいの大人がワンワンと泣きながら。

 

 担任不在となったところで今日のホームルームは終了。

 いったい何しに来たのやら。


 僕は頬を撫でながら再び教室へと戻った。

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