第一章 新一年生
第1話 留年
ダブりの僕は今、赤楚見高校の職員室にいる。
今日は登校第一日目、つまりは始業式。
新一年生は先に行われた入学式でクラス分けが発表されたそうだ。
しかし僕は留年再一年生、入学式など出る必要は無い。
おかげで当日は休みになっており、自分のクラスをまだ知らないでいた。
「アナタが三河君ね。私は数学を受け持つ1年1組担任の
「えっ!? って事は、僕1組なの?」
「そうよ。話は有松先生から大方伺っているけど……ちょっと三河君、耳貸して」
「?」
言われるがまま先生に顔を近づける。
すると彼女はとても小さな声で、
「有松先生って怖くない? 君の事を聞く時なんて今にも人を殺すぐらいの殺気を放っていたわよ?」
僕の担任になると豪語していた奈瑠美ちゃん。
当てが外れてご立腹なのだろう。
しかも三越先生は相当若いから嫉妬も混じってると思われる。
「私は去年まで大学生でね、今年からこの高校で教師をするのよ。それなのに行き成りクラスを受け持つのよ? どう思う? 新任よ新任! あり得ない!」
面倒事を押し付けられたのだろう。
僕のいたクラスは何かと揉め事が多かった。
ベテランの奈瑠美ちゃんは何とか乗り切ったのだが、他の教師だとさて?
それにしても新米に即受け持ちクラスを与えるなどと、聊か強引過ぎでは?
何かあれば教師ごと切り捨ててしまえと、学校側の思惑が見て取れるような。
まあ、貧乏くじですな。
「三河君の留年理由も素行が悪いって事ではなく、単なる出席日数不足で……君、入院してたんだって? それに成績凄くいいじゃない。だから先生が困った時には助けてくれると嬉しいなーって」
「それは駄目だよ栄先生。陰で助ける事はしてあげるけど、他の生徒が見ている前でそんな事をすれば贔屓に受け取られかねないよ? それぐらいでって軽く考えがちだと思うけど、崩壊はいつも些細な出来事から起きるって前例がいくつもあるし」
ぎょっとする三越先生。
その顔の意味が理解できない。
「三河君は賢いから考え方がそんなにひねくれているのかなー? それに栄って……」
「僕はそんなに賢くないよ。それと先生学生の時モテたでしょ? 可愛らしいんだもん。だけどそれが問題の起きる原因の一つだって事を自覚した方がいいと思うよ」
ストレートな言葉に少し頬を赤らめる先生。
この人本当に僕の事を奈瑠美ちゃんから聞いているのかな?
「あ、あらありがとね。た、確かに三河君の言う通り先生は学生の時モテてたかもだけど、それが生徒に何の関係があるって言うの?」
「栄先生が思っている以上に高校生って大人だよ。人生経験や社会経験が足りないだけで、こと恋愛に関してはその辺りの大人より貪欲かもね」
「やーねぇ三河君。なんかおっさんみたい。……あ、例のおっさんおばさんと仲いいんだっけ? そんなんだから考え方もおっさん臭くなるんじゃないの? フフフ」
「僕から見たら栄先生が幼すぎるんだよ。まあ、あまり構いすぎないでね」
僕をバカにしていた先生はその言葉で表情から笑いが消えた。
〝子供のくせに!〟と。
「ところで有松先生は? 僕あの先生苦手なんだよね」
先生として苦手ではなく、性獣として苦手。
多分三越先生には違う意味で捉えられているだろう。
「先生なら今頃8組へ行ってるんじゃない? 例のおばさん生徒の受け持ちだから……」
「マジで!? ……プーックックック!」
罰が当たったらしい。
僕の教室と離れてるなんて嫌味をオバハンにチクチク言ってた奈瑠美ちゃん。
自分も同じ教室て。
これが笑わずにいられるだろうか?
「やっと高校生らしい顔を見せたわね。笑い顔はカワイイ普通の男子高校生なのに」
「なに言ってるの先生? 栄先生の美貌には敵わないって!」
「んもう! おべっか使ってもなにもしてあげませんからねーっだ!」
「じゃあ僕もう教室行っていいかなー? それでなくてもクラスの誰一人として顔見て無いし」
「そうね。だったら私も一緒に行くわ。ホームルームもあるしね」
先生の用意が済むと僕達は1年1組の教室へ向かう。
それにしてもどんなクラスなんだろう?
ワクテカが止まらない僕だった。
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