⑨④話 黒坂真琴伊達領へ・雉肉団子汁

【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】


◇◆◇◆義


常陸大納言様のお許しをいただき下ごしらえをしてもらっていた私が仕留めた雉肉団子汁を作っていると小次郎が様子を見に来た。


「母上様、大丈夫でございますか?」


「なにがです?」


「なにがってなにがです。私も兄上様も義康も望んではおりませんから」


「なにを変な事を申しているのですか?まさか私が毒を仕込むとでも思っているのですか?」


小次郎は黒坂家で働くうちに疑う事を覚えたようだ。


素直真面目一本だった息子が武将として成長したことを感じた。


「御大将は敵が多いので・・・・・・申し訳ございません。失礼お許しを」


「小姓頭として仕方ないでしょう。しかし雉汁をご所望とは殿か藤次郎が話したことあるのでしょうか?」


「それは・・・・・・御大将御言葉に謎を感じても詮索しないのが黒坂家家中法度、聞いてはおりません」


「そうですか、なら私も詮索はいたしません。さて、常陸大納言様のお好みはどの様な・・・・・・」


「御大将は料理上手で見聞きしたことない異国の料理を作って振る舞ってくださいますが、田舎料理も大変好きでございます。そうそう、鳥の軟骨など好きでございますよ」


「ほう、軟骨がお好き、では団子に混ぜてみましょう」


包丁の背で叩き細かくした軟骨を入れ肉団子を作り骨で出汁を取った汁に入れて会津の塩で味付けをする。


他には鶉の丸焼きを作り膳に盛り付けた。


「母上様、汁は鍋のまま御大将の前に持って行くのがよろしいでしょう。御大将は温かい料理を好んでいるため、食事の間には長い囲炉裏机があるくらいでして」


「そうですか、流石、料理にこだわりがあるお方」


言われたとおりに雉汁を鍋のまま広間に運び、膳の仕度を調えると義康に常陸大納言様を呼んで貰った。

来る間に小糸小滝と言う常陸大納言様のお側の事をしている侍女と小次郎が毒味をした。


広間に来た常陸大納言様は丁度風呂上がりだったそうで、


「いや~お腹がぺこぺこで、お~良い匂い」


火鉢に乗せた雉汁の湯気を大きく吸い込むような仕草をして座った。


「私の手料理お口に合えばよろしいのですが」


「食べてみたかったんですよね~義様の雉汁。くぁ~これが例の雉肉団子汁かぁ~」


「例の?」


思わず口にしてしまったが、小次郎が扇子で自分の膝を叩いた。

先ほど台所で聞いた不思議な言動詮索してはならない事を思い出す。


「大好きな『たいがどらま』で見た義様の雉肉団子汁、憧れの品」


聞き慣れない言葉を聞き返したかったがグッと堪える。


汁をすすい雉肉団子を大きくパクリと食べ、熱々とくちから湯気を出す常陸大納言様。


「そんなに焦らずともたんと用意してあります」


「ほふほふっ、これは美味い。あっ、こっちの団子は軟骨入りだ、このコリコリ食感好きなんですよ。くぁ~美味い」


「お口に合ってよかった」


私は胸をなで下ろす。


「我が夫も兄上も安土で食べた常陸大納言様の料理を大層褒めておりまして、料理の鬼才と言っております。その様な方に褒めていただけるなんてありがたき幸せ」


「いや~良い出汁が出ている汁にこの肉団子、本当に美味しいですよ。うちの料理を任せている嫁、桜子に教えて欲しいくらいで」


「まぁ~でしたらいつでも茨城城にはせ参じます」


「はははははっ、それはありがたい。いかもこの雉御自身で仕留められたのですよね?」


「えぇ、脂がありそうな雉を選んで仕留めました」


「パワフルだ」


ぱわふる?また聞き慣れない言葉が小次郎に視線を送ると首を振る。


異国の言葉なのかも知れませんね。


常陸大納言様は大変料理を褒めていただき出した料理を平らげると、私に腰に差していた短刀を差し出した。


「いや~美味しい料理でした。これはその御礼です」


「そんなもったいない」


「いやいや、良いんです」


遠慮は失礼なのでありがたく拝領する。


「ありがたき幸せ」


常陸大納言様は大きく膨らんだ腹をポンポンと叩きながら退室した。


「母上様、ようございましたね」


「満足していただき幸せです」


聞き慣れない言葉が多い常陸大納言様、もしかして異国人?

異国人だと露見すると快く思わない者がいる?

いや、陰陽道、そして鹿島神道流秘剣一之太刀の使い手、異国人な訳はないか・・・・・・。

邪推は控えましょう。

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