⑨③話 黒坂真琴伊達領へ・義お目通り
【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】
◇◆◇◆小次郎政道
「御大将、おくつろぎ中に突然の事で申し訳ないのですが、母上様がご挨拶にとおっしゃっておりまして、米沢から馬を乗り継ぎ来た次第で」
御大将は畳みに突っ伏して小滝に背中を踏ませていた。
御大将は『まっさーじ』と呼んでいる物で、茨城城ではお江様がよくしているのを見かける。
黒坂家ではごく当たり前の光景。
踏んでいる小滝は大変申し訳なさそうな顔をしていた。
御大将の肩をたまに揉むが執務が多い為か大変硬く、指圧ではほぐれないので軽い女子が踏むくらいでないとというのを知っている。
「え!?義様が来たの!是非会いたい、小滝、マッサージ終わり、小糸に着替え用意させて、すぐに着替えるから。小次郎、義康も呼んであげて」
「はっ、はい」
義康とは最上義康、私の従兄弟で母上にとっては甥、時折最上の御実家に行っていた母上様とは顔見知り。
御大将の心遣いだ。
外の警護隊の指揮をしている義康も宿に入るように命じた。
御大将が着流しから羽織袴に着替えると、すでに身なりを整えた母上様が待つ広間に入った。
「母上様、こちらが大納言黒坂常陸守様にございます」
「伊達藤次郎政宗、そして小次郎政道の母、義と申します。突然の失礼申し訳ございません。ぜひ一度ご尊顔を拝し奉りたく・・・・・・」
「あ~硬い挨拶は抜きで構いませんよ義様、面を上げて楽になさってください」
「母上様、御大将はかたっ苦しいのがお嫌いなので御言葉通りに」
御大将はかたっ苦しい型にはまった挨拶を苦手とし、また、ひれ伏した相手と話すのも嫌い。
大納言と言う官位を賜っても相変わらずだ。
「では、御言葉通り失礼して」
母上様が面を上げると、
「義様キターーーーーーーー」
「御大将!」
御大将の変な癖、会いたいと思っていた人の顔を初めて見たときなぜか『キターーーーーー』と絶叫する。
それを諫める柳生宗矩、これも黒坂家ではいつもの事。
「ゴホン、失礼した。いや~小次郎政道は大変優秀で真面目な家臣でお世話になっていて、それに伊達藤次郎政宗の母親・・・・・・会ってみたかった」
「ふふふふふっ、面白いお方なのですね。鬼神の軍師と噂を耳にしていたので恐ろしい風体なのかと思っておりましたがとてもお優しい顔をしていらっしゃる」
「はははははっ、鬼神なんてとんでもない」
廊下から家臣が、
「最上様御到着でございます」
「義康、中に入れ」
御大将がすぐに呼んで広間に入ると、母上様は少し驚く。
「あら、義康殿、久しいのぉ~兄上様から黒坂家に奉公に出したいと相談を受けたの昨年の盆に墓参りで山形に行ったときだったのですがいつから黒坂家に?」
「今年、新年の挨拶に父上様の名代として茨城城に登城いたしましてその時から」
「あら~そう、私が折を見て頼むつもりでしたのに」
「義康も真面目な若者でよく働いてくれていて助かってますよ、義様」
「伊達家の小次郎、最上家の義康、どうかいついつまでもかわいがってくださいますようお願い申し上げます」
「はははははっ、かわいがるって衆道はちょっと・・・・・・」
「あら、男はお嫌いで?二人はさほど悪い風体はしていないと思うのですが?」
「ゲホッゲホッゲホッ。義様、なに言い出すんですか?びっくりですよ」
「母上様!」
「叔母上様!」
私と義康は顔が真っ赤となりとても恥ずかしい。
「衆道は冗談として、伊達家、そして最上家の架け橋として二人には期待してます。奥州、羽州を治める大大名と幕府が争う事になればまた戦乱の世、それだけは避けたいので」
「兄上もそして我が息子藤次郎も幕府に弓引くことなど考えておりませぬ」
「そう願っていますよ」
「是非とも折を見て奥州、そして最上領の羽州に足を運んでいただき検分願います」
「山形、良いですね~銀山温泉に入りたいし・・・・・・最上家には京と蝦夷地を結ぶ船の中継地点として港整備に力を入れて貰いたいし、西の海を守る為の力を持って貰いたいからいずれは足を運びたいなぁ」
「その様なお考えが、そのこと兄、最上義光には私から伝えさせていただきます」
「ん~正式に幕府から支持を出して貰うつもりではいたけど、まぁ~俺の考えを伝えるのは問題ないか?ね?宗矩」
「はっ、交易を盛んにすることはすでに幕府から発せられていることなので問題ないと思います」
「そう言うことで」
御大将が話を終え退席しようとすると母上様が、
「お台所をお借りして夕食を作りたいと思うのですが、お許しいただけますか?常陸大納言様になにか手土産と考えたのですが、夫から言われなき贈り物は好まないと聞き及んでおりまして手土産は私の料理と考えまして・・・・・・小次郎からの手紙では何やら私の雉汁を食べたいと仰せだとか、是非ともこの機会に」
「えっ!義様の雉汁食べられるの?是非食べたい、いや~夕飯楽しみだな~」
そう言って退席した。
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