⑨⑤話 黒坂真琴伊達領へ・水晶の数珠

【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】


◇◆◇◆義


「常陸大納言様、これは出羽三山で清めた数珠にございます。是非お持ちください」


料理をお出しした翌日、私の滞在は常陸大納言様の湯治の邪魔になると思い早々に帰ることにした。


挨拶をしてそのまま帰るつもりだったが、宿の門まで見送りに出てくれた常陸大納言様になにか差し上げたく大切にしているお守りの数珠を渡すと、


「いや~すごい邪を払う気を感じる数珠だ、これ良いのですか?」


「えぇ、常陸大納言様は邪を封じる事もしたと噂を聞き及んでおります。御身にその邪の怨念が絡みつかぬよう是非とも持っていて欲しいのです」


「そうですか、ありがたく持たせていただきます」


受け取ってもらえた。


まだ冷たい春風、常陸大納言様の体が冷えては大変なので宿を離れた。


湯ノ岳の峠先まで見送ると小次郎が付いてきた。


「小次郎、本当はあなたを伊達家に戻すために常陸大納言様にお願いするつもりで来ましたが小次郎、常陸大納言様に命を賭けて仕えなさい」


「母上様も御大将に魅了されましたか?」


「あんな純粋な大名は他にはおりますまい。あなたと常陸大納言様は相性が良いと見ました。藤次郎は腹に隠している野望が満ちていますからね」


「・・・・・・その野望の暴走を私は五浦から見張っております。暴走しそうなら差し違えてでも兄上を諫める覚悟」


「実の兄弟で争って欲しくはないのですが・・・・・・。私も藤次郎が幕府を敵にする動きを見せたら諫めましょう」


「兄上もこちらに向かっているとか」


「そうですか、藤次郎も常陸大納言様様と腹を割って話してみれば器の違いに気が付くはず。小次郎、それに築かない藤次郎ならその鍛えた腕でたたきのめしなさい」


「母上様、流石にそれは・・・・・・」


「冗談です。さぁ~見送りはもう良いです。あなたは常陸大納言様の御側に」


「はっ、ではこのあたりで。母上様、お元気で」


「そうそう、小次郎、あなたにも数珠を」


私は懐から水晶の数珠を出すと、


「母上様、数珠をいくつも持っているのですか?」


「どうだって良いではないですか。これも出羽三山で祈祷していただいた数珠、きっとあなたを守ってくれるでしょう」


「ありがたく頂戴致します」


実は米沢から馬を飛ばし磐城に来たため大変疲れている。

そして常陸大納言様との拝謁での緊張。


それらを落とすために磐梯熱海温泉に寄り湯治をして雪解けを待ち、米沢に帰った。

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