⑨①話 黒坂真琴伊達領へ・白水阿弥陀堂

【時系列・原作書籍⑤巻・第四章・磐城巡察】


◇◆◇◆【鬼庭左衛門綱元】


「御大将が寺詣でを所望しておる。すぐに護衛の兵を集めよ」


朝食のあと唐突に柳生宗矩から指示を受けたため細心の注意を払う為、甲冑を着用した私の家臣団を佐波古の湯街入り口に400人集結させる。


流石にやり過ぎたか?と思ったが、黒坂家家臣団はその上をいっていた。


甲冑に身を包み最新の火縄銃を全員がいつでも撃てる状態で600人。


「噂に名高き黒坂家鉄砲隊か・・・・・・」


「鬼庭殿なにを感心しておる? 御大将はもう馬に乗り進もうとしておられる。先頭に立ち道案内を」


「どちらの寺に向かうと言うのですか?」


「白水阿弥陀堂とおっしゃっておる」


白水阿弥陀堂は佐波古の湯から北に向かうとすぐある寺。


私の磐城平城に近い寺。


奥州藤原氏、藤原清衡の娘が建てた阿弥陀堂とは聞いている。


いずれは整備するつもりではあったが、磐城平城、小名浜城、そして佐波古の湯街整備を優先していたため手付かず。


「廃れている寺ですが良いのですか?」


「今現状を見たいと仰せだ。巡察と思われよ」


「はっはい」


寺詣では口実。

その道中で畑仕事をしている民を見るのが目的か?

しかし、今からなにかするには時はなく言われるとおりに先頭に立ち湯ノ岳の東側峠を越え案内する。


一時ほどで到着すると、常陸大納言様は少数の供回りと私を指名し阿弥陀堂に入った。


静かに手を合わせる常陸大納言様。


朽ちかけている壁を見ながら、


「これ修復したいなぁ~」


微かに聞こえる一人言。


寺社仏閣を大切にしていると噂される常陸大納言様にとってこの朽ちかけている阿弥陀堂は許せないのだろう。


しばらく静かに阿弥陀堂の中を見たあと阿弥陀堂を出て阿弥陀堂を一周回る。


周りにある池も草が生い茂っている。


一周すると、常陸大納言様が、


「綱元、これは内政干渉とやらになってしまうから言うのを迷ったが敢えて言わさせて貰う」


「なんなりと御命じ下さい」


「この白水阿弥陀堂、奥州の文化として大変貴重な御堂、ここの整備を頼みたい。人と金がないというなら俺が寄進するので許して貰えないだろうか?」


「そんなとんでもございません。この鬼庭左衛門綱元が責任を持って修繕させていただきます」


「そう言ってもらえるなら嬉しい。新しき文化にばかり目を向け、古き文化の継承を怠る国は滅びる」


「ごもっともにございます」


「伊達殿はそのあたりをよく御存じだろうからいらぬお節介であろうが」


殿が鹽竈神社や大崎八幡宮に寄進していることが耳に入っているのだろう。


「『新しき文化にばかり目を向け、古き文化の継承を怠る国は滅びる』伊達家の家訓にいたすよう殿に申し上げます」


「家訓だなんて大袈裟な、はははははっ。修繕に人や金に無理があるなら正直に言ってね。特に大工衆なら大勢雇っているし育成もしているから派遣出来るから」


「はっ、その時はよろしくお願い致します」


しばらく静かに景色を眺め続けた常陸大納言様は、


「『白水の 静寂の庭 散る桜花』・・・・・・この句は今ひとつだな」


一句詠まれた後、日が西に傾いてきたので柳生宗矩が、


「御大将、そろそろ戻りましょう。体を冷やされたらまた熱が」


「確かに冷えるのは困る。宿に戻って温泉入ろう」


来た道を戻ると、農民の家から煮炊きの煙が出ているのを目にすると、特になにも指摘を受けることなく巡察を終えた。

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