㊻話 猫姫

【時系列・原作書籍④巻付近】


「にゃん?」


側室として迎え入れて初めての夜伽。

この時初めて顔を見る姫。

正室と違い、婚姻の儀はなく即日寝所。

不細工な女子であったらどうしよう・・・・・・。

側室を持つ事は初めてだったので不安だ。

寝所の布団の脇で三つ指を付いて頭を下げていた姫の最初の言葉は、


「殿の子を産むにゃん」


だった。


耳並みのない語尾、それに顔を上げるなり両手を頭の上にあげ、まるで獣の耳真似をしている姿に呆気にとられる。


この姫は頭は大丈夫なのか?


沈黙の重たい空気の中ニコニコとしている姫。


目がくりくりとした猫顔で獣耳の真似、可愛らしい。


「あれ?おかしいにゃん。大納言様が描かれている掛け軸の娘が『にゃん』って言っていると上方で流行っていると聞いたにゃん」


「・・・・・・我はその様な事聞いたことないぞ」


我も掛け軸をいただいたが、黒坂常陸様は各地の大名に美少女を描いた掛け軸を送っている事はこの頃には有名だったが、その様な語尾が流行っているとは耳にしたことがない。


もしかして黒坂常陸様は絵物語を書いて上方ではそれが流行っている?

黒坂常陸様の家を調べる忍びは控えているが上方の巷の事は毎週事細かに知らせるよう草を放っている。

それに触れられたことは見たことはない。


「・・・・・・失礼致しました。飯坂城主・飯坂右近宗康の次女、『ねこ』と申します。どうか私の事は借り腹、猫のように扱いいただいてかまいません。殿のお血筋を守る事が私が父から命じられた事」


「ぬははははははっ、どうした『にゃん』は?」


「殿様にお気に召していただければと思ってしたこと、どうかお許しを」


顔と耳を真っ赤にして言うねこ。


我の側室に上がる事が決まったことで仲間内でいたずらにそう教えられたのだろう。

『にゃん』が流行っていると。

だが、我はそれを気に入った。


「ぬははははははっ、そうか、我はその『にゃん』とやら気に入った。続けるが良い、猫」


「はいですにゃん」


素直に語尾を改め続ける猫姫がいたいけで可愛らしく、この夜、燃えた。


「殿様、私初めてでぁ~だから・・・・・・痛いですにゃん、にゃ~ん」


この夜から仙台城には化け猫が現われると噂になってしまった。

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