㊸話 黒坂家の農政改革

【時系列・原作書籍④巻付近】


「米に頼る事のない農業だと!?」


建築技術の素晴らしさに触れ黒坂家が進めている農業改革を取り入れようと小次郎を通して広めていると言う指南書を手に入れると、米の他、そば・麦・稗・粟・そして芋を領民に作らせていると言う物だった。


米を年貢として取り立てそれを売る事で金を得て兵を雇い国の力を付けて、領地を増やしてきた今までの常識を完全に否定する指南書。


「黒坂常陸様は織田信長公から金で雇われているとの事、その為に出来る改革なのかも知れません。年貢に頼らずとも金はあるからこそ出来る事かと」


「小十郎が申す通りだ。この改革を取り入れるわけにはいかんな。当家は今まで通り米を年貢として取り立てるため新領地の検地をしっかり致せ」


「はっ、しかと」


黒坂常陸様の知識は結局この程度のものであったかと落胆して、この時、この指南書はよく読みもせずしまった。


農業改革の事は忘れ今まで通りに米作りに力を入れさせる。


だがそれが裏目となった。


「殿、今年の夏は奥羽山脈から冷たい風が吹き付け凶作となった村々が」


「そうか、その村々には年貢半減をいたせ」


「年貢半減だけでは村人が死ぬほどの凶作でございます」


「それは不味い。領民あっての国、他から稗や粟を回すよう手配を」


「それが米に力を入れすぎていて回す物がございません」


「・・・・・・なんと」


苦肉の策として米を回すか・・・・・・。

売って金を得て領国経営に回そうとしていた米。

新領地経営で余裕はないというのに・・・・・・。


「殿、小次郎様が当家の救援に領地で採れて余裕がある、そば、麦、稗、粟を融通して下さるとのことにございます」


弟小次郎政道は黒坂家で大名並みの領地を持つまでになっておりその領地では当然、黒坂家農業改革が進められていた。


小次郎は街道を行き来する商人から当家の不作を耳にしたとの手紙であった。


「・・・・・・今回ばかりは小次郎の申し出を有り難くうけよう」


書院にしまっていた黒坂家農業指南書をもう一度しっかり読むと、

『米が豊かに実った年が続いたのはたまたまのこと、これからは夏涼しい事などよく起きる。その為、寒さに強い作物を取り入れる事が領民の為になりそして国の力のもととなる』


と締めくくられていた。


「陰陽師として星を見て占っているのか?なぁ~小十郎」


「今回は蔵王に近い数カ村だったため、被害は限定的でしたが、これが領地全体で起きたら一大事・・・・・・殿、いかがでしょうか?これから切り拓く土地ではこの黒坂家で五大作物として奨励している作物を作ってみては?」


「うむ、今までの田畑では稲を作り、新たに切り拓く土地ではこれか・・・・・・稲が作れるようになるまで確かに田んぼの整備は幾年もかかる。それまでの作物として取り入れてみるか」


「はっ、ではその様に進めます」


この事が数十年後起きる大飢饉から伊達家を守ってくれることになるとは当然この時知るわけもなかった。


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