㉚話 帰城

【原作書籍3巻付近】


常陸の久慈川での戦いのあと、織田信長公よりお褒めの言葉をいただいた後すぐに陣は引き払いとなり米沢の城に帰ることとなった。


せっかく京に近づいた道をまた奥州へ帰る道。

足取りは当然重い。


「殿、ここは我慢の時ですぞ」


片倉小十郎景綱が諭すように言ってくるが、流石にあれだけの差を見せられると反旗を翻す気は起きない。

例え我がその号令をしたとしても家臣は誰も付いてこないだろう。


その証拠に一番騒ぎ立てそうな藤五郎成実が伊達軍後尾に付き素行の悪い兵がいないか見張っているくらいだった。


素行・・・・・・いわゆる乱取り。


敵領の村々を襲い、蓄えている食糧、金品を奪い、そして女を犯す行為。


それらを織田信長公は厳しく禁止している。


その法度は織田信長公が征夷大将軍宣下後に出した『惣無事令』の中に含まれている。


漏れ聞くところによるとその『惣無事令』の案を出したのも黒坂常陸だと言う噂。


鹿島神道流しかも一之太刀を使う剣客で、陰陽道にも長け、武器開発に長け、そして政にも長けている。


信じられない事だったがそれを久慈川での戦いで目にしてしまった。


我と大して変わらぬ歳だと言うのに・・・・・・。


「全軍に伝えよ。乱暴狼藉一切許さぬ。もし犯した者あればこの伊達藤次郎政宗自ら首を跳ねると厳命する」


「はっ」


常陸国から七日ほどかけ米沢の城に帰城すると、父上様と母上様が大手門で待っていた。


「藤次郎政宗、見事な働きをしたと聞き及んでおる。よくぞ己の野心を抑え戦った。伊達の棟梁として見事である」


「藤次郎、母は生きて帰ってきたことを何より嬉しく思いますぞ」


「父上様、母上様、ただいま帰りました」


留守を守っていた家臣達一同が万歳三唱をして帰りを喜んでくれた。


摺上原の戦いでは味方に多くの死者を出したが、久慈川では一人の死者も出なかったことが我の差配の力だと喜んでそう声をかけてくる家臣が正直腹立たしいがグッと堪え居室に向かった。


「・・・・・・くそっくそっくそっ・・・・・・あの戦いは全部織田軍、そして黒坂常陸の力を世に見せる戦いだったと言うのに誰もわかっていない」


甲冑を脱ぎ捨てながら吐いてしまった言葉に、静かに待っていた妻の愛が、


「どのような戦いだって良いじゃありませんか、ここが虎哉和尚が言う『へそ曲がり』の見せ時と愛は思います。兎に角、無事のお帰りおめでとうございます」


「・・・・・・へそ曲がりの見せ時か・・・・・・よし、城のありったけの酒を皆に振る舞い大きく祝うのじゃ」


「その仕度はもう出来ています」


「こしゃくな!だがそれでこそ我が妻よ、ぬははははははっ」


恩賞の沙汰がないまま帰され兵達はさぞ落胆しているだろうと酒を振る舞うことで少しでも不満が抑えられれば・・・・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る