㉔話 大甕神社の陣
【原作書籍3巻付近】
常陸国・大甕神社
甕星香々背男を建葉槌命が封じたと言われる石塚に先勝祈願をして坂東平野を眺めた。
「ここか、坂東平野の北は?」
「はっ、ここから見える先は常陸、武蔵、そして相模まで続く平野。この地を制した者は西を制した者と同等の力を得ると噂名高き場所」
「関八州・・・・・・だが今まで制した者はおらぬな」
「はっ」
大甕神社に陣を敷き南に広がる平野を片倉小十郎景綱と眺める。
遠くには東富士と呼ばれる筑波山が見える。
相模とやらまでの平野かはわからぬが、かなり先まで平野だと言うのは理解出来る景色。
「黒坂常陸様がここで陣をと申されたのもわかりますな」
北から平野を一望する高台だ。
遠くではうっすらだが、佐竹・蘆名・一向宗徒の大軍勢が蟻のようにせせこましく動いているのが見えた。
あちらこちらで煮炊きをしているであろう煙も見える。
一致団結した統率のとれた軍ではないのだろう。
「兵数では当方は劣るが攻めるに攻められないようだな」
「織田水軍の噂が届いているのでしょう。殿、ここは申しつけられたとおりここで大人しく陣を張りましょうぞ」
「ああそのつもりだ。先陣の藤五郎成実隊も久慈川は渡るなと伝令を」
「はっ」
藤五郎成実隊が一番槍の功名を急いで動くか不安だったが意外にも久慈川河川敷に陣を敷くとそこから動く事はなかった。
ここまで来る道中での戦いが猪突猛進の藤五郎成実を変えたのかもしれん。
「殿、相馬殿は陣を一緒にしたくないと申されて村松虚空尊堂に陣を。その数およそ8000」
「そうか、仕方あるまい」
「久慈川河口付近には黒坂軍500が陣取りました」
「織田水軍の連絡待ちだな。黒坂軍が慌ただしくなったら決戦の前触れ、注視せよ」
「はっ」
机上の地図に駒を配置する。
藤五郎成実隊が8000、本陣の大甕神社にはおよそ16000。
相手は100000と思われる軍勢。
南から進軍する織田家の大軍、西の下野からは叔父・最上義光軍およそ18000、そして上杉軍10000の軍勢が進軍中。
そして東・・・・・・海には織田水軍の船団だ。
数日すれば東西南北が全て織田方の兵となり挟み撃ち。
陣形に申し分ない。
数の不利も解消される。
この大甕の陣を固める事こそが上策。
静かに待っていようとすると、河原子の港から馬に引かせた大砲を次々に運び込む織田軍・・・・・・いや、織田信長公本人が大甕神社に到着した。
大砲をこの戦いで使うのか?
わざわざ数で不利な陣に征夷大将軍自ら出張る?
なぜだ?
今総攻めをされたら不利、退却をせねばならぬというのに・・・・・・。
「藤次郎政宗、この陣は儂が指揮する。しかと心得よ」
「はっ、この伊達、織田家の家臣、手足として働きますのでなんなりと御申しつけ下さい」
我は織田信長公にそう返事をするしかなかった。
海上に残る『黒坂常陸』の予測不可能な動き、そしてまだ隠されている戦術があるのでは?
ここまでの進軍での海上からの砲撃を目の当たりにすると恐れる対象だった。
ずんだ餅に目をくらんだようにしていたのは道化を演じていたのだろう。
君子危うきに近寄らず・・・・・・。
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