㉓話 大甕の奇跡
【原作書籍3巻付近】
◇◆◇◆
《伊達藤五郎成実》
「いや~驚いた。あの大砲に・・・・・・そしてそれに動じぬ黒坂家の兵に感服の至り」
常陸国の北部から大甕までいたる進軍。
海から大船から放たれる大砲に動じることのない黒坂家の兵。
流石の俺でも驚くと、同じく軍を進めた相馬義胤も、
「我も感服捕まった。まさかあの様な雷鳴に驚かぬ騎馬を率いているとわ」
朱色の甲冑を着たいささか年上の武将が、
「かっかっかっかっかっかっか、あのくらいで驚いていたら黒坂軍では役に立ち申さぬぞ」
大笑いをして言うと同じく朱色で鹿の角の脇立てと六文銭の前立ての兜を被る俺と同じくらいの歳の武将が頷いた。
「我は伊達の当主の側近を務めます伊達藤五郎成実、率爾ながらお名前を伺いたい」
「我か? 黒坂家家老、前田慶次利益」
「私は、同じく黒坂家家老職を預かる真田幸村信繁と申します」
「・・・・・・あの前田家と真田家の方か!」
相馬義胤が少し驚きながら言った。
前田と言えば織田信長公側近の大名、そして真田と言えば武田信玄から織田家に鞍替えしたが知将と知られる家。
「かっかっかっかっかっかっか、あの?かは知らぬが前田又左衛門利家は叔父よ」
「真田安房守昌幸が父でございます」
赤く目立つ甲冑の二人は偉ぶらず言う。
叔父や父親の名を全く気にしていない素振りだ。
「名を馳せる武将とはこのような者なのか・・・・・・」
口に出してしまうと二人はお互い見つめ、大笑いをした。
「かっかっかっかっかっかっか、若いの~藤五郎成実殿。名を馳せる為には仕える大将が大物ではならん。我々はたまたま黒坂常陸守真琴と言う大将に雇われたに過ぎぬ」
「御大将が雇ってくださらねば上田で田畑を耕していたでしょう」
前田慶次と真田幸村が言う。
「・・・・・・そう言うものですかな?」
「おうっそうだともよ。なぁ~知っているか?うちの大将が上様に家臣に迎えたい者の名を問うたそうな、その時一番に名を出されたのはなんとその方の大将、伊達藤次郎政宗殿よ」
前田慶次が唐突に我が殿の名を言う。
「うちの殿を家臣に?」
「あぁ、だが藤次郎政宗殿は伊達家の御当主、流石に上様もお声がけはしなかったみたいだがな」
殿を家臣に?少し怒りを感じるが、
「私を登用するかわりにら上様は上野一国を真田家と約束してくださいました」
真田幸村の言葉に、
「前田家は加賀、能登の破格の条件だったわ。かっかっかっかっかっかっか」
そう言いながら、腰にぶら下げていた瓢箪に入った酒をグビグビと飲む前田慶次。
「黒坂家の家臣になる為の恩賞が一国?」
「おっと、あまり深く考えないことだってな。そう言うこともあるもんよ。ほら伊達の殿様を迎えるよう陣形を組みなって。おい幸村、俺たちは海沿いで陣を組もう。大将から連絡あるんだろう?」
「はっ、殿にはうちの戸隠の才蔵をそばに置いているのでそこからなにかしら」
「おい、伊達の勇ましき若造、うちの大将からなにか伝令来たら知らせるから大人しくしてろよ。さもないとうちの大砲の餌食になる」
瓢箪に入った酒を全部飲み干して酔ったそぶりなど一切見せずに言う前田慶次。
もののふとはこの様な男を言うのかと始めて感じた。
格が違いすぎる。
「・・・・・・では大人しく大甕神社に伊達の本陣を敷きますのでなにかございましたらこの藤五郎成実にお申し付けください」
そう言うのが精一杯だった。
大甕神社に殿を迎える仕度をして、久慈川河口の開けた所に我らの陣を張った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます