㉒話 黒坂隊と成実隊の先陣争い

【原作書籍3巻付近】


「殿、なぜ先陣は我ら伊達勢だけでないのですか?」


勿来の陣で決まったことを知らせるために伝令を走らせると勿来の陣に藤五郎成実がわざわざ馬を走らせ戻って来た。

黒坂家家臣と共に進む事に納得出来ないという。


「藤五郎、今までの戦い方とあまりにも違いすぎる。海からの砲撃の中を進むのだぞ。大砲の威力を知る者と共に進まなければ同士討ちになりかねないではないか」


「殿は真にあの船の大砲が陸まで届くと思うのですか?ここに来るまでに五浦の浜で黒光りした大船はこの目で見てきたがたかが大船ではないか。大砲など真意に欠ける。俺ははったりだと思っている。小十郎もそう思うであろう」


片倉小十郎景綱に同意を求めて話を振ると小十郎は首を横に振り、


「殿の御舎弟小次郎君も小田原城を灰燼にした砲撃を見ております。嘘偽りなきかと。事ここに及んで織田信長公がはったりを言うとは思えません。奥州の大名を牽制するため大砲の威力を見せると思います」


「小次郎殿が見ているのか・・・・・・」


「藤五郎、海岸沿いはいつまでも続かん。海まで張り出している山々が続く常陸国中郷から大甕まで抜けるまで辛抱せよ。おそらく合戦は板東平野、久慈川・那珂川付近。大甕に陣を構え合戦に挑む。その合戦で先陣を務めよ」


常陸国の地図を見ながら言うが、藤五郎成実は、


「要は海からの弾に当たらず先に進んで久慈川に陣を構えればよろしいのですな?」


「織田水軍と連携が取れないでそれが出来るのか?」


「出来る出来ないではございません。やるかやらないかでござる。韋駄天の伊達の名に恥じぬよう俊敏に隊を動かしてみせましょうぞ、ごめん」


「あっ、こら藤五郎」


制止を振り切り藤五郎成実は隊に戻ってしまうと、片倉小十郎景綱も藤五郎成実の気性を知っているためため息を出し諦めていた。


勇猛果敢ぶりを見せようと意気込む藤五郎成実。

常陸国大北川河口付近から海沿いを南下、赤浜と呼ばれる海岸まで進むと約束通り織田水軍の大船から山に向けて大砲が放たれ、街道を越え山裾に着弾。

発砲音と着弾音が阿武隈山脈に跳ね返り頭上すぐ上で鳴り響く雷よりも大きな音となった。


すると、藤五郎成実隊と相馬義胤軍の馬が言うことを聞かなくなり暴れ出すが、その音を物ともしない黒坂家家臣・前田慶次と真田幸村の隊が馬を鎮めながら、隊が乱れているのを好機と思った敵兵が山から飛び出してきた。

それを黒坂隊は飛んで火に入る夏の虫と言わんばかりに新式火縄銃で次々と仕留めた。


わずか500の黒坂隊が何千の兵にも勝る働きを見せることとなり、流石の藤五郎成実も大甕の陣で再び会った時には黒坂隊と先陣を競うなどと言わなくなっていた。

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