⑬話 徳川家康からの書状

【原作書籍3巻付近】


米沢の城に虎哉 宗乙(こさい そういつ)師匠が来訪してくれた日の事であった。


我が伊達家当主となった今でも虎哉 宗乙(こさい そういつ)は我の師匠。

時折訪ねてくれる。

今日は京の都から帰ってきた報告を兼ねていた。


「京の都の復興の速さには驚きました。第六天魔王を名乗る織田様が他人の生活も大切にする働き、人間の尊さに目覚められたようだ」


上機嫌な御師匠様、妻の愛が点てた茶を飲みながら京の都の話、それに黒坂常陸様のおかげで比叡山と織田家が正式に和睦した話をしてくれた。


犬猿の仲と思われていた比叡山と織田家を取り持つ黒坂常陸様、またここで大きな疑問が一つ出来てしまった。


「殿、徳川三河守様から書状が届きました」


「ほう、徳川三河守様とは珍しい、どれ」


小姓が書状を我に手渡そうとしたとき、


「喝!」


突然師匠が大声で遮った。

あまりの声量と気迫に書状を床に落とし後ろに転げ尻餅を付く小姓。

床に落ちた書状を拾った虎哉 宗乙師匠様は扇子を拡げ、底に書状を置いて我にすぐに渡してくれなかった。


「御師匠様?」


「まぁ~待ちなさい」


そう言うと、師匠はお経を唱えだした。

それまで渡してもらえない書状。


ん?呪いでもかけられているのか?

呪詛・・・・・・


読経が終わると、


「藤次郎殿、禍々しい物を感じたから勝手に封じさせてもらったがこの手紙、用が済んだら燃やしなされ、私は今日はこれで失礼する」


少しだけ疲れた様子で帰っていく師匠の背中に眼帯で閉じた右目で不思議と黒い靄を感じた。

この書状になにが?


場を変え片倉小十郎景綱を呼び読ませると、


近く関東で戦が起きるのでその時は徳川家とともに動いて欲しいと言う内容だった。


「関東で戦?」


「おそらくは織田様が佐竹、蘆名を討伐するのかと」


「そうか、面目を潰されたままでは征夷大将軍となったばかりで示しが付かんからな」


「殿、いかが致します?」


「だが、なぜ徳川殿は織田殿の命に従うようにと書いていない?」


「もしかして徳川殿はこの戦で関東・奥州の者を味方にし織田家に反旗を翻す企てをしているのやも」


「そうなれば大きな戦となり伊達家領地拡大の好機になるやも」


「・・・・・・事が重大なので大殿様の耳にも入れるべきかと」


「うむ、形はどうあれ小次郎を人質として近江に住まわせている以上、父上様の耳にも入れておかなければなるまい」


この時冷静に判断出来た事は御師匠様のおかげであったことを後に知ることとなる。

書状を書いた者、南光坊天海の禍々しい妖気を寺に持ち帰ったと御師匠様から後に聞かされた。

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