⑦話 伊達政宗と義の確執
【原作書籍2巻付近】
父上様が小次郎を連れ再び上洛した。
今回の上洛は織田信長公征夷大将軍宣下の儀参列という大義名分があり手出しをすればそれはすなわち織田家への敵対、そのため正々堂々家臣を大勢引き連れ街道を西に上った。
米沢の城には留守居役を命じられた我が残る。
正直上洛には我が行きたかったが父上様がそれを許してはくれなかった。
それが悔しい。
覚えたての酒を昼間から飲む。
美味いのか不味いのかすらまだわからぬ酒。
「愛、もっと注いでくれ」
「殿、おやめになられたほうが」
「うるさい!我は酔いたいのだ!」
妻の愛につい声を荒げてあたってしまうと、
「伊達の棟梁となる者がなんたる振る舞い」
母上様が部屋に入ってきた。
「これはこれは母上様、珍しい私なんぞになんの御用で?」
「嘆かわしや、どうしてここまで兄弟でこんなに違うのでしょう」
「はははははっ、私はきっと母上様の産んだ子ではないのでしょう。もう正直に申して下され」
バンッ
思いっ切り左頬を叩かれた。
「なにを申すのです。藤次郎、あなたも小次郎も私が産んだ子です。酔った勢いといえども許しませんよ」
「・・・・・・母上様は私が疱瘡になったとき看病をしては下さいませんでした。そして小次郎が生まれてからはずっと小次郎のほうをかわいがっていたではありませんか」
「疱瘡の時の事は本当にすまないと思っています。最上家の大事があって・・・・・・ですが、今のは聞き捨てなりません。私はあなたを可愛くないと思ったことは一度たりともありません。ですが貴方は伊達を継ぐ身。なれば大殿様の指図に従うほかなかったのです」
「母上様・・・・・・」
私と愛の手を取り母上様は手をしっかり重ね合わせると、
「藤次郎、厳しく突き放すことも親としてはこれまた愛情なのですよ。貴方たちはこれから子を成し伊達家を受け継がせなければなりません。その時、子の扱い方、間違ってはいけませんよ。藤次郎、あなたは父上様に厳しく躾けられたおかげで家督相続を命じられるまでに育ったではありませんか」
母上様の温もりと愛の温もりが伝わる手のひらがむず痒く手を引っ込めると、
「さあ藤次郎、井戸の水をかぶり酔いを冷まし私の稽古に付き合いなさい。伊達家跡取り、そして留守居役がていたらくでは家臣に示しがつきません。いざ」
我は武芸百般と称される母上様の薙刀でこっぴどく尻を叩かれることになったが、それがなぜか嬉しい稽古となった。
今までの母上様とのわだかまりが不思議と笑える物になった稽古・・・・・・一生忘れることはないだろう。
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