⑥話 藤次郎政宗と小次郎政道

【原作書籍2巻付近】


「兄上様どちらに向かわれているのですか?」


父上様と上洛する日取りが決まった弟・小次郎政道を遠駆けに誘った。

少ない供回りでの遠駆け。

今までにない兄弟の一時。

家臣が伊達家の争いで二派に別れているが我らはそれを望んでいない。

少なくとも我は実の弟を憎む気持ちはない。


米沢城近くの小野川温泉に汗を流すために小次郎と入る。


「小次郎、一緒に風呂など入るのは初めてかもしれぬな」


「昔あったではありませんか。城に庭で2人相撲をして泥だらけになり」


「そうであったかの~」


昔の頃はなんのしがらみはなく確かに遊んでいた。

しかし、父上様が伊達家嫡男として様々な師を呼んだことで小次郎との時間が取れなくなりまた母上様との距離も出来てしまった。


その事で誰かを恨む事はないが小次郎との距離はこれからもっと開きそうで最後に一緒に風呂に入りたかった。


「小次郎、我がのせいで近江に行くことになってしまい苦労かけるな」


「いいえ、私は良かったと安堵致しています。家臣達は私を伊達家の跡取りになど言っておる者もおりますが私は兄上様と争う気などもうとうございません。武田信繁は兄武田信玄を助け武田家を大きな国にいたしたと聞き及んでいます。私もその様な兄弟になりとうございます」


「なりとうございます?」


「はい、どこに仕えたとしても伊達本家が一番大切」


「それは違うぞ小次郎。誰かに仕える以上その家の主が一番でなければならん。心得違いをいたすな」


「しかし兄上様・・・・・・」


「良いか、日の本の国はまだまだ戦が続いておる。いくら織田様が征夷大将軍宣下を受けたとしてもそう易々とは静まるまい。我は隙あらば天下を取りたい」


「天下を?」


「あぁ我が野望よ。だが奥州は京の都から遠い。我が攻め上るとき討たれるやも知れぬ。そうなったとき伊達家は断絶となるだろう。しかし小次郎がどこぞで生き続けておれば伊達家の血は耐えぬ。その時御家再興出来るよう、小次郎が使える主を大名としておかなければならぬ」


「はぁ~」


「納得出来ないであろうな」


「よくわかりません」


「まぁ~良い。兎に角どこに行っても生き延びよ。兄からの願いはそれだけだ」


「はっ、」


「良い返事だ。よし、褒美に背中を流してやる」


我は小次郎の背中をへちまでごしごしと擦ってやると小次郎は痛がっていた。

母上様に甘やかされ育った小次郎は細く戦場に出れば力比べに負けすぐに討ち取られてしまうのでは?と思わせた。


「小次郎、次会うまで毎日木刀で素振りを朝夕500ずつ一日1000本せい、良いな?」


「1000ですか?厳しいですがわかりました」


この時我は黒坂常陸様に仕えることで、このひ弱だった小次郎が柳生新陰流を習得するまで成長するとは夢にも思っていなかった。

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