⑤話 伊達小次郎政道

【原作書籍2巻付近】


1583年 秋になり父上様が近江から帰国した。


長旅で疲れていると思われるため、家臣には遠慮してもらい母上様、弟の小次郎、そして私だけの夕飯。

母上様が自ら仕留められた雉をつまみに酒を飲む父上様に酒を注ぐ母上様に父上様が、


「また近く上洛をする。その時は小次郎を人質として連れて行き小姓にしていただくように願い出る」


「はい?なにを戯れ言を?」


「戯れ言ではない。 織田家に臣従を誓ったのだ人質を出さねばなるまい。 それに藤次郎に跡目を譲ると言ったにもかかわらずまだ小次郎を推す者もいる。 このままでは伊達家は纏まらぬ。よって小次郎を奥州から遠くに置く」


「人質は他の誰かをお願い致します、殿。小次郎は我が実家に預ければ・・・・・・」


母上様は必死に止めるが小次郎は既に覚悟を決めた顔をしていた。


「そうだ、人質は藤五郎成実が良いではありませぬか? 勇猛果敢な上に一門ですよ、きっと織田様の所で良い働きをいたすに違いありません」


「母上様、私では役に立たないと? 伊達家の名に恥じぬよう振る舞ってみせます」


「小次郎そなたはまだなにもわからぬではありませんか、初陣もまだ。その様な者が織田様に仕えるなど早すぎます。 中国の毛利や四国の長宗我部と戦をしている織田家に貴方を送れますか」


小次郎を溺愛している母上様は必死に止めるが父上様は首を横に振るばかり。


「殿、せめて織田様に近しい家に小次郎を預ける事にしてはいただけませんか?この義の一生のお願いにございます。 そっそうだ、織田様を窮地から救ったと噂されている黒坂様は戦での働きを聞いたことがございません。 黒坂様に小次郎をお預け下さい」


母上様の耳にも黒坂常陸様の噂が届いていたようだ。

伊達家団結のために小次郎を奥州から遠くに置きたい父上様の考え、我も実の弟と争いたくない。

それに黒坂常陸様は気になる存在。

そこと縁が出来る。

一石二鳥?


「私は実の弟と跡目争いをしたくはありません。ですので父上様がおっしゃるように織田家に仕えさせることは良きかと思います。ですが確かに小次郎は初陣はまだ。戦多き織田家にその様な若造はかえって失礼。ですので政で支えていると噂される黒坂常陸様に仕えさせる事がよろしいかと。南蛮の文化にも精通していると噂高いので小次郎の為にも良いのでは?」


「黒坂常陸様か・・・・・・確かにこれからの織田家でなにか引き起こすであろう才覚を秘めていると儂は見ている」


「父上様、黒坂常陸様とはそれ程の人物なのですか?」


「織田様を麒麟、藤次郎を竜と例えたが、黒坂常陸様を例えるなら白虎・・・・・・普段は竹藪に潜み隠れ獲物が現れれば一気に飛びかかる、いや・・・・・・そうではないか、あの方を例えるには難しすぎるな。はっきり言ってよくわからん」


「殿は上洛に浮かれておかしくなられているのです。 兎に角私は小次郎を織田家に仕えさせることは反対です」


父上様は織田信長公の征夷大将軍宣下の義で上洛が決まるまで悩み続けたが、母上様を納得させるために小次郎を織田家ではなく黒坂家に仕えさせることを決めた。

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