③話 伊達藤五郎成実の疑心
【原作書籍1巻付近】
1583年6月
父上様が未だに近江に滞在している中、我の伊達家家督相続が公になったことで先に家督相続の義が行われた大叔父の子で伊達家一族、そして一時期、虎哉 宗乙(こさい そういつ)師匠の元で一緒に学問に励んだ仲で信が置ける家臣、藤五郎成実が米沢に登城してきた。
「大殿は信長公に懐柔されてしまわれたと巷の噂でござる。最上義光殿は殿の母上様の御実家なれば仕方ないとして、越後の上杉を柴田勝家と共に南北から攻め滅ぼそうとしていたはずなのに宴席を共にするなど嘆かわしい。大殿はふぬけになられたか?」
「まぁ~まぁ~成実殿、言葉が過ぎまするぞ」
藤五郎成実を宥める片倉小十郎景綱。
「ここだけの話ぞ」
我は前置きを入れ信じられる2人にだけ打ち明ける。
「我もいくらなんでも父上様の手のひら返しには驚いている。 いくら饗応の席が用意されていたとしても仮病でも使い同席を断るべきだったのではとな」
そう言うと片倉小十郎景綱は小さなため息をしながら首を横に振る。
「殿も藤五郎殿も織田信長公の今の勢いを読めておられませんな」
「どういうことだ小十郎!」
少し声を荒げて言う藤五郎成実に冷静沈着に片倉小十郎は続けて言う。
「重臣明智光秀の謀反、しかしその混乱を数ヶ月で鎮め、さらなる謀反、離反を引き起こさなかった手腕を大殿様は高く評価されて今回の義に及んだのです。今の織田信長は正に天が使わせた麒麟のごとく空を駆け上る勢い。 天下を治めるのに5年はかかりますまい。さらに噂によれば朝廷は太政大臣、関白、征夷大将軍のいずれかになるよう御使者を使わせているとか、左大臣右近衛大将はそれになるための階段でしかないと。織田信長公は征夷大将軍を望むと返答したとか」
「「征夷大将軍・・・・・・」」
我は藤五郎と同時に口に出してしまい目を合わせ笑ったあと藤五郎が、
「小十郎、それは誠か?」
「まだ噂でしかありませんが何でも本能寺の乱で御活躍なされた後、そばに置いている黒坂常陸殿の助言とのこと。 元々は本能寺の乱の翌日返答することになっていたとか・・・・・・しかも断るつもりだったと言われております。 しかし、常陸殿が武家の棟梁たる征夷大将軍になるよう強く勧められたと」
「また黒坂常陸介か?」
片倉小十郎はこくりと頷くが、藤五郎成実は初耳の名だったため、
「黒坂常陸? 殿、何者でござるか?」
本能寺の乱で明智光秀を討ったこと、父上様や上杉景勝、最上義光をもてなす席で父上様が褒め称えるほどの珍しい南蛮料理を出した事を教えると、
「ぬはははははっ、なんともうさんくさき者よな~まさか妖怪」
「藤五郎殿、その逆。実は陰陽師で狐に取り憑かれ乱心して謀反に及んだ明智光秀を討ったと本能寺の乱から脱出した者が言っていると近江に潜ませている忍びからつい先刻知らせが」
「陰陽師? 忍びの棟梁ではなかったのか?」
我は片倉小十郎に聞き返すと、
「それが・・・・・・鹿島神道流秘剣一之太刀をも修めている剣客との噂も出ていると」
「我らとさほど変わらぬ年と聞いていたが?」
「はぁ~年は17、8才との事は間違いないようですがそれ以外の事は真意不明で」
「馬鹿も休み休み言え」
藤五郎成実は笑い混じりに言うが片倉小十郎は真剣な目のままだった。
我もそう思ってしまったが小十郎の目が真剣だったため言うのをやめた。
「いずれにせよ父上様が帰ってくるまで大森城の守りを頼むぞ藤五郎」
「はっ、伊達藤五郎成実は藤次郎政宗の一の家臣として南の守りはしかと」
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